機動戦士ガンダムJ   作:あかつきp dash

15 / 78
第十六話『シャルナ・レイド』

 シンクが目隠しされて連れてこられたのは、どこかの工場のようであった。といっても、オイルの臭いと建物の簡素な造りから推測しただけのことなので、断定はできない。

 

「……知らない。俺はあの戦艦とは無関係だ」

 

 何度同じことをいったか、シンクは先ほどからその言葉を繰り返していた。そして、そのたびに顔を殴られ、腹を蹴られる。痛みに耐えきれず失神しそうになったら、水をかぶせられた。

 

 衣服ははぎとられ、シャツとパンツしか着させてもらっていない。コロニーの季節設定が初春なのか、夜というのも手伝ってとても寒い。しかし、手足を椅子に縛りつけられてるせいで、身動きなどとれるはずもない。だからシンクはされるがまま拷問にあっていた。

 

「おねんねは、まだ早いぜ?」

 

 男の一人がシンクの髪を掴んで、強引に顔をあげさせ、たばこの煙を吹きかける。それにはたまらずシンクは大きく咳きこんでしまう。

 

「俺らはまだまだ坊主とお話をしたいんでね」

 

 この拷問がはじまって一時間が経過している。シンクにはもはや抵抗するような体力は、残されてなかった。

 

 少女はその場面にいることが耐えきれなくなり、そっとその場を離れた。

 

「シャルナさんには、刺激が強かったですかね?」

 

 後ろからオズベルトが追いかけるようにして、話しかけてくる。

 

「見ていて、気分のいいものじゃないわね」

 

「俺たちだって、好きでやってるワケじゃないってことは、理解してもらいたいですね」

 

「わかってるつもりよ」

 

「大の大人が一人の子供を囲んで一方的になぶるなんて、仕事だといわれなければやれませんよ」

 

 そうやって割り切れてしまうのも人の業だろうか、ふとシャルナはそう思った。

 

「それでオズベルトさんは、彼についてどう思います」

 

「白か黒かといわれれば、黒でしょうな。ただの民間人と言い張るなら、あそこまで口を閉ざすのはかえって不自然です。なにかの機密を握ってる可能性はあります」

 

「彼が私たちの存在をかぎつけてきたという可能性は?」

 

 オズベルトから何枚かの書類が挟まれたファイルが手渡される。

 

「先ほど、コロニー公社から流れてきた、あの坊主の経歴です。見てもらえればわかりますが、あの坊主は戦艦を降りて、連邦軍からコロニー公社に保護を委譲する予定だったようです」

 

「つまり私たちがここでやってることを、連邦に嗅ぎつけられたワケじゃないということね」

 

「ええ。あの坊主は白です」

 

「じゃあ、私たちは冒さなくていいリスクを冒したわけね」

 

 そのうえであの拷問だ。こちらになんの利益があっただろうかと、シャルナの口からため息がもれる。

 

「ところがそうでないんですよ。あの坊主の両親はジュピトリス7でモビルスーツ開発の第一線にいたそうでね。白いモビルスーツについてなにか知ってるかもしれんのです」

 

「それをいま、吐かせようとしてるのね。ところで彼、あのままだと死ぬんじゃない?」

 

「拷問というのにもそれなりにコツがあるんですよ」

 

 オズベルトは、そういってニヤリと笑ってみせる。

 

「だが、そろそろお開きにしないとな。おおーい、そろそろ撤収するぞー!」

 

 オズベルトの呼びかけで、拷問はやめになった。

 

 シンクを縛っていた縄がほどかれると、彼はすぐに昏倒してしまった。

 

「大した小僧だぜ。最後まで口を割りやがらなかった」

 

 一人の男がふとつぶやいた。

 

 

―◇◇◇―

 

 

「目が覚めた?」

 

 シンクが目を覚ますと、目前にはあの少女がいた。相変わらずぶかぶかの半袖シャツ姿だった。髪が濡れて、シャンプーの芳香が漂ってくるのを思うと、どうやらシャワーをあびた後のようだった。

 

「ここは……?」

 

「あなたが昨日、最初に連れてこられた部屋よ」

 

「ああ……」

 

「あなたには呆れさせられたわ。なんでもいいから言ってしまえばよかったのに。そうすれば、あそこまで長引くこともなかったのよ」

 

「知らないものは、知らないんだ」

 

 シンクは少女から顔をそむける。

 

「私はもともと地球生まれなの。父は連邦議会の議員で、家もそれなりに裕福だった。父が休暇をとった日には、母と私を連れて大きな湖に連れて行ってくれたわ。一番楽しかったのは、近所の友達とキャンプに行ったときだったわ。その中に好きな子がいてね。隣でなにを喋ろうかってずっと考えてた……。

 でも、そんな幸せな日々がある日終わったの。父は当時、ハウゼリー・ロナの派閥に属していたわ。父はハウゼリー・ロナとは親交が深くて、ハウゼリーの片腕として活躍してたそうよ。だけど、ハウゼリー・ロナが暗殺されると、ハウゼリー派の議員が一斉に排除されはじめた。その抵抗派として父が矢面に立ったんだけど、父は銃殺された。それで抵抗はいっきに収まったそうよ。その後に母は過労死、身寄りのない私は宇宙に追いやられた。そんな路頭に迷っていた私を拾ってくれたのがアレンだったわ」

 

「……なんでそんな話を俺にするんだ?」

 

「さあ、私にもわからない。あなたにこんな話をしてもまるで意味なんてないのにね」

 

 少女はどこか寂しそうな笑顔を見せる。

 

 シンクは、自分があれほど意固地になっていた理由がわからなくなっていた。

 

 ジュピトリス7での生活、家族、エイミのこと、かつて目の前にあったはずの生活が思い出になってあふれてくる。

 

 それを考えだしたら、幾度となくモビルスーツで戦い抜いてきたこと、そして拷問にあったこと、そのとき感じた恐怖感というものがいまになって、まとめて込みあげてくる。

 

 抑えてきた思いが一気に決壊したのだ。

 

 気がつけばシンクは、泣きじゃくっていた。

 

「ど、どうしたの?」

 

 少女は驚いたように訊ねてくる。しかし、シンクは声がでなかった。ただ、子供のように大泣きしていた。

 

 少女はなにもいわずにそっと優しく、シンクを抱き寄せた。

 

 シンクは泣きやむまで、少女の胸の中でずっと泣いていた。

 

 

―◇◇◇―

 

 

 あれから三十分ほどが経過していた。シンクは顔を羞恥で赤面させていたが、それを少女に見られるのがいやで、背中を向けていた。後ろでは少女が大笑いをしている。

 

「そんな笑うことかよ」

 

 怒りで声を震わせながら、シンクは少女を振り返る。

 

「だって、あれだけ大泣きしておいて、いまさら恥ずかしがってるんだもの。おかしいに決まってるわ」

 

 そういって少女はまた大笑いをはじめる。シンクは怒りと羞恥で、なにを言い返していいかわからず、舌打ちをした。

 

「とりあえず顔を洗ってきたら? 鼻水とよだれがすごいわよ」

 

 少女がタオルを差しだすと、シンクは黙ったまま受けとり、そのまま洗面所へ向かった。

 

 シンクは洗面台を水一杯で満たして、顔をダイブさせた。ひんやりした水は心地よく、熱した頭を冷ましてくれるようだった。

 

「気分はどう?」

 

 後ろから声をかけられ、シンクは顔をあげる。鏡に目をやると、そこにはシンクと、その後ろには少女が笑みを浮かべて立っていた。

 

「……なんで、君はこうも俺に踏みこんでこれるんだ?」

 

「それをさせたのはあなたよ。あなたが私の中に踏みこんできたから、私はあなたに興味を持ったの」

 

 シンクはタオルで顔を拭いて、少女に向きなおる。

 

 少女の胸元が濡れているのは、そこで自分が泣きじゃくっていた証拠だ。そう思うと、気まずさと羞恥が一気に立ちのぼってくるのを感じた。

 

 少女は撫でるように手を差しだして、シンクの顔に自分の顔を近づけて――そして、シンクと唇を交差させた。

 

 シンクは目をしばたたかせながら、体を硬直させるしかなかった。

 

「……ごめんなさい。状況が変わったの」

 

 少女は唇を離して、囁くようにつぶやく。そこには先ほど浮かべていた笑顔は、すでに消えていた。

 

「なんのことだ?」

 

「あなたとはここでお別れよ。永遠に……」

 

 その言葉とともに、シンクを睡魔が突如として襲ってくる。そういえば、先ほど少女の口から、なにか液体が流れこんできたのを思いだした。

 

「大丈夫よ。あなたに飲ませたのは、即効性の睡眠薬だから」

 

 シンクの意識は朦朧としていき、やがては床に膝をついてしまう。このまま倒れこんでしまうのは、時間の問題だった。

 

「ごめんなさい。私ってこういう女だから――」

 

 シンクの意識はそこで途切れた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。