ケネスがソールに持ちかけた話とは、次の出撃で自分たちがJに乗ってみたらという提案であった。
もちろん、大人たちに頼んだところで、反対されるのはわかっている。となれば、アイラを抑えて、Jに乗り込み、無断で出撃する必要があった。そのためにアイラの部屋の前で、マウロとティーロに待ち伏せをさせて、アイラにけしかけたのである。
それが功を奏したのか、ケネスとソールはまんまとJに乗りこんで出撃できたのだった。
「へへっ、うまくいったな」
「驚いたな。ケネスはモビルスーツの操縦なんていつ覚えたんだ?」
「親父に連れられて、シミュレーションを何度かしたんだよ。プチモビルだって操縦したことあるんだぜ」
ケネスは得意そうに胸を張る。
「なるほどな」
ソールが感心するとおり、ケネスの操縦技術は初めてにしてはなかなかのものだった。
「港は敵艦に封鎖されているから、回り道したほうがいいみたいだな」
「近くに出口はあるのか?」
「ここから右の角をまがれば、三番非常ゲートがある。そこならモビルスーツでもでられるはずだ」
「へへっ、了解」
「帰ったらお叱りを受けるんだろうな……」
ソールはそれを思うと憂鬱になった。理由はどうあれ民間人がモビルスーツに乗って無断出撃するなど、あってはいけない話なのだ。本来なら叱られるだけですむような話では
ない。
「なあに、戦果さえあげて帰ったら、誰も文句はいえないよ。シンクにだってできるんだ、俺たちにできないわけないって」
本当にそうなんだろうかとソールは心中でつぶやく。ユーナが以前指摘していたとおり、シンクという少年は自分たちとは、なにかが違うと彼もやはり思うのだ。
「それにユーナさんの手前だ。お前さんもそろそろ見栄を張って、格好いいところを見せたいだろ?」
ソールもそれは否定できなかった。なにより年下のシンクの活躍が、年長としてソールのプライドを刺激したこともある。
「俺たちはシンクのオマケじゃねえ。それをアーガマの連中に教えてやる!」
それはアーガマRで荷物運びなどの雑用をやらされた憤りからくるものであった。
ケネスとソールを乗せたJは、ハッチを開けて宇宙にでる。虚無の空間へでるには、モビルスーツとノーマルスーツに守られてるだけでは、案外頼りのないものだと、ソールは感じた。ケネスも一瞬だが、肩をぶるりとふるわせたのが見えた。
(自分たちは、とんでもないことをしでかしたのではないか?)ふと、ソールの脳裏にそんな考えが浮かんだ。
そして、それは現実のものとなった。
二機のバルバールが待ち伏せていたのである。
「少佐の予想通りだったな!」
「こいつ噂の白い奴じゃないか?」
「あのアトラス隊を何度も出し抜いたっていう機体だな!?」
二機のバルバールがJに集中砲火をしかける。
素人を乗せたJが二機の集中砲火をあびてもなんとか回避できるのは、Jの機体性能に依存しているところが大きかった。
ソールはでたらめにビームを撃って、応戦する。下手な鉄砲も数撃てば当たるという発想であったが、相手にはかすりもしない。
「く、くるなっ!」
知らぬ間にソールは汗だくになりながら叫んでいた。
「俺だって、俺だってぇ!」
ケネスは呪文のように、叫びながらがむしゃらに動きまわる。先ほどの砲火で二人は完全に冷静さを失っていた。
「なんだ、あの動きは? メチャクチャじゃないか」
「なにかの作戦か?」
本来なら素人の操縦だと見抜けそうなものだが、アトラス隊を退けたという功績がバルバールのパイロットを慎重にさせていた。
そのおかげでケネスとソールはやられることなく、増援が到着するまで持ちこたえることができたのであった。