第二十二話『ケネスの涙』
フロンティア4での戦いが終息したあと、子供たちはブリーフィングルームに集まっていた。
「自分のやったことがわかってるのか!?」
デュランが激昂しながら、ケネスの胸ぐらをつかむ。そのケネスは嗚咽がひどく言葉になっていない。
「泣いてりゃすむなんて思ってるんじゃないだろうな?」
それでもケネスは泣きやまない。
「モビルスーツは子供の玩具じゃないんだ! 目立ちたいだなんて、おめでたい気分で乗っていいもんじゃない!」
デュランがケネスを叱る姿は、シンクにとってどこか懐かしさを催すものだった。それはかつて自分が小さいころ、父親にひどく叱られたときのことだった。
「わかったか!」
ケネスは返事をかえそうとするも、咳きこんで声をだせなかった。しかし、それでもデュランはケネスを許さなかった。
「甘ったれるな! 返事くらいしっかりしろ!」
「は、はいぃ!」
恫喝され、ケネスは捻りだすようにして声をあげた。
「ソール・ヴェーバー、シンク・アルファード、アイラ・ハイヤーム、そしてケネス・
カーターは一列に並べ!」
そういわれて、呼ばれた四人は横に並ぶ。
「シンクとアイラはモビルスーツの無断使用及び命令違反、ケネスとソールも罪状は同じだ」
デュランが四人を鋭く睨む。
「理由はどうあれ命令違反は命令違反だ。全員、歯を食いしばれ!」
そういったデュランは容赦なく、四人の頬を殴っていく。それは昔ながらの軍隊流儀の修正であった。
「シンクとアイラの処罰は以上だ。ソールとケネスには三日間、独房で謹慎だ。わかったな!」
四人は姿勢をただし「はい!」と答えた。
―◇◇◇―
ケネスは独房に入ると、また泣きだした。
すすり泣きながら「母さん……」と常につぶやいている。
そんなケネスを見て、ソールの頬を涙が一筋伝っていた。
第二十三話『デュランの提案』
「シフトの配置を変えたい?」
ブライトはデュランにブリーフィングルームへ呼びだされるなり、そういってきた。
「はい。フロンティア1でアーガマにサナリィの試作機が一機配備されると聞いてますので」
「理由はそれだけかね?」
「ソールとケネスをパイロットとして使いたいと思っています」
「本人たちの意志は?」
「おおむね、前向きな返事はもらっています」
それを聞いてブライトは、考えこむようにして唸りだす。
「艦長の許しさえいただければ、謹慎が解かれたあとにでも、すぐに訓練に入らせます」
「大尉は不器用だな」
ブライトは、彼が自分の体を張ってでしか生き様を描けない男なのだと思い、そう評した。
「は?」
「いや。私は彼らの意志を尊重したいと思う。それに戦力が増えること自体は、こちらとしても大歓迎だ」
「ありがとうございます」
それを聞いてデュランは、ホッと胸をなでおろした。
「それで試作機には誰を乗せるつもりで?」
「アイラ・ハイヤームが適任かと考えています」
「彼女のことをよく知っているのかね?」
「噂程度なら。連邦の特務機関に所属する強化人間でしょう?」
「正確には“元”だな。一年前のF90強奪事件で、その特務機関は彼女を残して全滅
――その後は解体され、彼女はテストパイロットとして、各地を転々としている」
「十代の子供だけで編成された部隊だったという噂は本当だったんですか?」
「私も軍から離れていた期間が長くてね。それに末端者の耳に入ってくるような話でもない」
デュランの聞いた噂というのは、十代後半の子供だけで編成された部隊があるという話だった。
話をさかのぼれば、非人道的であるという主旨から、強化人間の研究の一切を破棄するという条例が《シャアの叛乱》以後取り決められたのだが、それはあくまで表向きの話で、実際は前向きに研究が執り行われていた。
その目的は強化人間の子供に特殊な任務を負わせるためだという。任務内容はもっぱら諜報活動、必要とあれば要人の暗殺などもやってのけるという。
その噂が本当ならアイラは、その部隊があったという事実を証明するための生き証人ということになる。しかし、デュランには本人から事実確認をする気などはなかった。
「それでガンダムJのパイロットはどうするつもりかね?」
「シンクをメインに据えようかと。もともと一人乗りでもいけるようにはできているそう
なので、問題は特にないかと」
「シンクの実力も見てみたいか……。いいだろう。パイロットのシフトに関しては、全面的に大尉に任せるつもりでいる。大尉のやりたいようにやってくれればいい」
「了解です」
フロンティア1に入港する二時間前のやりとりであった。