第二十四話『回想』
連邦軍には強化人間の子供によって構成された特務隊《ホビット》が存在していた。その愛らしい呼称とは裏腹に彼らに与えられる任務は常に過酷なものばかりで、初任務のうちに死んでいく者も決して少なくはなかった。
その特務隊《ホビット》の構成員の全体がワケありの子供ばかりであり、アイラ・ハイヤームもそんな一人であった。
幼い頃、施設に連れてこられたときに記憶操作を受けたせいで、家族の顔は記憶の面影にも残っていなかった。
だからアイラ・ハイヤームという名前も、十七歳という年齢も、アイラにとっては紛いものにしか映っていなかった。
本当の自分を奪われたのだと自覚しだしたアイラは、すべてを憎むようになり、自分を嫌うようになっていた。
そんな彼女にとって《ホビット》の構成員こそが家族であり、心の拠り所であった。それは他の構成員も同様であった。
そんな彼女の初任務が122年に起こった《ガンダムF90強奪事件》であった。
事件の概要は、海賊にサナリィの新型モビルスーツが奪われたというものである。そして《ホビット》に与えられた任務も至極単純であった。
“強奪されたF90一号機をF90二号機を用いて速やかに奪還または破壊せよ”
任務は速やかに実行された。
火星まで赴きモビルスーツ戦、あるときは白兵戦まであった。孤立無援の苦しい戦いであった。最初、優勢であった《ホビット隊》であったが、海賊は数にものを言わせて応戦。戦いは長期化にもつれこむ。最終的には補給も人的支援も受けられない《ホビット隊》が圧されていく。
結果、F90奪還は失敗。《ホビット隊》は、アイラを残して全滅してしまった――
アイラはそこで思考を止めて、ため息をついた。
「特に異常はなしか……。哨戒は終えてアーガマRに戻ろうか?」
今現在、シンクとアイラはJで哨戒任務にあたっていた。
先日、デュランから発表されたシフト変更を受けて、Jのメインパイロットにシンクを据えることになったのである。
それもあって、この哨戒任務はシンクの慣らしという意味合いもこめられていた。
「勝手にすれば……」
アイラはそっぽを向いて、冷たく言い放つのだった。
第二十五話『フロンティア1』
フロンティア1はフロンティアサイドで一番最初に建造されたコロニーである。先端部分が隕石と接合しており、そこから資源を採掘される。資源コロニーの一つである。
アーガマRが入港すると子供たちは艦を降りて、ジュピトリス7の難民がいる仮設住宅に向かったのであった。
「どなたか、メロディ・メルスとティーロ・アーバスのご両親についてご存じではないですか!」
ユーナが集会所で声を張りあげる。いまは炊き出しの最中のようで、集会所には多くの人間がいた。
また、ちがう場所でもソールたちが懸命に呼びかけをやっていた。皆、家族のことが気になって仕方がなかったのだ。
「その声はユーナ・ナリタではない?」
ふとユーナを呼びとめる声がして、振りかえる。そこにはユーナのよく見知った人物の顔があった。
「ひょっとして、アン・ファーム?」
それは彼女と同年代の少女であった。アンは感無量の表情になって、ユーナに抱きついた。
「よく無事で……」
「あなたこそ……!」
ユーナは泣きだすアンの頭を撫でる。抑えていたものが溢れてきたのだろう。アンの涙が枯れることはなかった。
「ところでマーリやレメスは?」
ジュピトリス7で親しかった友人の名前を口にする。リストですでに生存の確認は終
わっていたが、聞かずにはいられなかった。
「マーリは宇宙空間に投げだされて、レメスは破片にあたってしまって……」
「そんな……」
アンはしゃくりながら、必死に話す。その姿にユーナは絶望感を覚えた。
「ウソだ! 父さんと母さんが死んだなんてデタラメいわないでくれよ!」
遠くでケネスの叫びが聞こえた。
「ホントだよ。お前さんの両親は居住区に向かう途中で、爆発に巻き込まれたんだ。この目で見たんだ。間違いない」
「そんなのあんまりじゃないか……」
ケネスは放心状態で、ガクリと膝を地面につかせる。
近くにいたソールの顔からも悲壮感が漂っていた。
もともとジュピトリス7には千人の乗組員がいたといわれているが、その大半は生存確認にはいたっていなかった。
自分たちが孤児になったという事実を眼前に突きつけられ、子供たちはただ茫然とするしかなかったのであった。