第二十八話『F計画』
フロンティア1につくと、シンクとアイラはトマスに連れられ、サナリィの研究所へ向かった。
彼らを乗せた搬送車にはJも積まれており、連邦の護衛に囲まれての物々しい雰囲気を醸しだした搬送となった。
研究所へつくとシンクだけが搬送車から降り、別行動となった。彼に会いたいという人物がいるらしいのだ。
「シンクに会いたいなんて物好きがどなたかご存じなんですか?」
アイラは隣にいるトマスに訊ねた。
「たしかジョージ・コガーっていう、ジュピトリス7の総責任者だった人じゃないかな」
「シンクの知り合いってこと?」
「そうなんだろうな。なんでもジュピトリス7の技術者関係の人間をサナリィで全員引き取るって話しらしいしな」
「そんなことできるんですか?」
「それをやってしまうのが企業ってやつさ。ジュピトリス7の難民の生活保障をする代わりに、技術提供をしてくれっていう交渉があったらしい」
「スペースノイドの助け合い精神というやつね」
アイラの皮肉げな口調に、トマスは苦笑いを浮かべた。
「まあ、これで『J計画』は『F計画』に吸収されたってことになるな。もともと歩み寄ろうって話しはあったんだけどさ」
「でも、これでサナリィのモビルスーツ開発は躍進するのでは?」
「一年前のF90強奪で、小型モビルスーツの研究もだいぶに遅れたからな。こっちも遅れを取り戻すので躍起なんだよ」
「その遅れを取り戻すためのF91なんですよね?」
「そういうことだ。これから忙しくなるがよろしく頼むよ」
「それについてはお構いなく。それでJはいったいどうするつもりですか?」
「一度、ここいらで本格的に調整するらしい。ヴェスバー以外の新装備の実験も兼ねてね」
「そうなんですか」
「愛機を変えるっていうのは名残惜しかったりするのかな?」
「べつに……」
アイラは拗ねたように口を尖らせて、トマスから目を背けるのであった。
第二十九話『敵襲』
アーガマRがフロンティア1へ入港して一週間が過ぎようとしていた。
アーガマRおよびサイキ小隊は、フロンティア1に駐屯している連邦の艦隊とともに周辺の警護を担当していた。
そしてシンクはJの調整、アイラは新型モビルスーツの最終調整に入っていた。ほかの子供たちは避難所の手伝いにそれぞれの時間を費やしていた。
アークジオンの襲撃があったのは、そんな折に触れてのことであった。
ダミーに紛れていたアークジオンの巡洋艦ドラグートがモビルスーツ部隊を展開してきたのである。
フロンティア4の一件でアークジオンに対して、警戒を強めていていあ連邦軍は素早く軍を展開して現在交戦中であり、アーガマRとサイキ小隊もそこに参加していた。
問題はミノフスキー粒子の濃度が濃いせいで、どこまでがダミーか判別が利かなくなっていることだ。そのせいでフロンティア1に駐屯している連邦軍の大半が出撃を余儀なくされた。なによりコロニーを防衛しようというには、駐屯している連邦軍の絶対数があきらかに不足していたのだ。敵がどこに潜んでいるかわからない状況では、軍を分散せざるを得ず、数で勝っているはずの連邦軍がたった一旗の戦艦に対して、互角の戦いを強いられていた。
ただ一方で展開している軍隊の数が足りないということは、アークジオンがコロニー内部への浸入することも許してしまっていた。
「アークジオンのモビルスーツがコロニーに浸入してきてるぞ! 軍はなにをやってるの!?」
サナリィのモビルスーツ格納庫で怒号がとんだ。
「そっちが手一杯だなんてことはこっちだって知ってるんだよ! だからってコロニー内部に浸入してきた敵を放っておけないだろうが!」
研究所に駐屯している連邦軍の将校らしき人物は、先ほどからマイクに向かってそんなやりとりを行っていた。
「なんだって? サナリィにある試作機でなんとかしろだって? ふざけるな!」
将校はマイクを叩きつけると、茹で蛸のような顔をしながら、トマスの方へ向かってくる。
「聞いてのとおりだ。コロニーに浸入してきた敵機は、こちらで迎撃しなければならん。
JとF91はもう使えるんだな?」
「ええ。命令さえあればいつでも出撃できる状態です」
「パイロットは?」
「すでに準備をさせてますよ」
「わかった。準備が整い次第出撃させてくれ」
「了解です」
トマスは格納庫の空気が変わったのを感じた。
第三十話『哀しみは怒りに』
Jの再調整で行われたのは、ハードポイントの増設である。これによりさまざまな装備を増設することが可能にして、運用目的に幅を持たせようということだ。
そこでまず考案されたのがコロニー内での戦闘を想定した武装を施すことである。またBWCSの特性を生かした偵察機としての機能も持ち合わせている。
レーダー系に影響をおよぼすというビームシールドと、コロニーに穴をあける恐れのあるヴェスバーなどの強力なビーム兵器はオミットされ、両肩に安定翼とアンテナを増設し左腕には小盾が取りつけられた。その小盾にはコロニー内で敵機を爆破させないようにコクピットだけを打ち抜くための兵器――ビームニードルが使えるようになっている。他にもビームピストル、ビームサーベルを二本装備してある。あらたに増設された両腰のハードポイントにはそれぞれビームシールド発生機もとりつけられている。
ユーナがシンクのところに来たのは、Jの新装備の確認をしているときだった。
「ユーナさんがJの補助席に乗るなんて、本気ですか?」
ユーナの提案にシンクは思わず声をあげる。
「ソールとケネスが出撃するのを止められなかった責任があるわ」
「二人が先走ってしまったのはユーナさんの責任じゃないでしょ」
「気持ちの先走った人間に武器を持たせるなんて正気じゃないわ。いまのあの二人では無駄死にするだけだわ」
「それがユーナさんに当てはまらないとは限らないでしょうに」
「お願い。シンク、私を連れて行って。邪魔は決してしないわ」
ユーナはそういうと、シンクの返答も待たずに補助席に乗りこんでしまった。その強引な姿にシンクはめまいを感じていた。
「……乗るからには手伝ってもらいますからね」
「なにをすればいいの?」
「モビルスーツの操縦全般は俺が担当します。ユーナさんは管制塔になって二人の面倒を見てやってください」
「……私にできるかしら?」
「ユーナさんならできますよ」
「それは気休めかしら?」
「いえ、本心ですよ」
シンクはシステムのオールグリーンを確認すると、いつでも出撃できると管制に伝える。すると間もなく「どうぞ」という返事がかえってくる。
「こちらシンク・アルファード。Jで出撃します」
シンクはキャノピーに貼りつけたプラカードに目を落とす。そこには『十六歳の誕生日おめでとう』と書かれていた。これがシンクの両親の遺した唯一の遺物だった。それを見るとシンクは泣きそうになるが、首をふって懸命にふりはらう。
格納庫のハッチが開くと、Jがそちらに向けて歩きだした。