Jが出撃すると、その後方から遅れて、見たことのない機体が二機追いかけてくる。見るからにいびつな飛行のしかただったので、その二機に乗っているのがソールとケネスだというのにはすぐに見当がついた。
「ユーナさん、ビームフラッグだ」
Jからビームフラッグが広げられると、残りの二機もそれにあわせてビームフラッグを広げた。
「ユーナさんはBWCSから伝わってくる情報を二人に伝達することに専念してください」
「わかったわ」
ユーナは強ばった表情でうなずく。
コロニー内はミノフスキー粒子の濃度が低めなせいか、レーダー機能は十分に生きている。これならば敵機の発見も容易であろうが、それは相手にもいえることだった。
そしてJの先をさらに先行している白い機体があった。アイラの駆るF91である。
「アイラ、慣れない機体で先行するんじゃない!」
シンクがアイラに向かって叫ぶ。
『シンクにはこの新型の動きがわからないの? これならアークジオンの新型に負けないわ。臆病風に吹かれたんなら、あなたこそ引っこんでなさいな』
返ってきたのは、そんな返事だった。シンクが苛立ちげに舌打ちをすると、モニターの向こうに黒い点がいくつか見えた。その黒い点を拡大すると案の定、それはアークジオンの機影だった。
先に仕掛けたのはアイラであった。F91がいきなりヴェスバーを発射したのである。敵機はそれを確認すると左右に散開して避ける。
「アイラ、コロニーでヴェスバーを使うなんて迂闊だ!」
シンクの叫びは聞こえたのか聞こえないのか、F91は敵陣に一気に突き進んでいく。
そのF91に対して、赤い機体が向かっていく。それはシャルナの乗るアルエットだとシンクは気づいた。しかし、こちらに向かってくる六機のバルバールの編隊がF91を救援に行くのを妨げる。
ソールとケネスはJの前にでる。
「俺だって!」
ソールが吼える。
ソールとケネスに割り当てられたのは、ガンチェイスという名の新型である。
型番にF81とつけられたその機体は、サナリィがJをベースにして《F計画》のノウハウをつぎ込んだ機体である。F81の型番が示すとおり、次期量産型汎用機である。
もともとJ自体が量産型に主眼をおいた機体であったため、ガンチェイスの性能はJとほぼ同程度の性能を持っているとされる。各所に設けられたハードポイントにより、装備の付け替えが可能であり、さまざまな戦局に対して対応がかのうであることが示唆されている。
二機のガンチェイスには背部にジェネレーター直結型のビームランチャーが二基とりつけられている。これは本来ならヴェスバーになる予定であったが、予算の関係でこのような形に収まったのである。
しかし、ジェネレーターから直結ということもあって、その威力は十分に保証できるものであった。さらに両手にビームライフルとビームランチャーを持つことによって、最大で砲門を四つまで増やせた。
その二機を合わせた八門の砲門が一斉に火を吹いた。ただし、欠点として砲門を安定しない状態で撃つわけで、その精度に関しては極端にさがるということだ。しかし、最大の問題はそこではなかった。
F91もガンチェイスもビーム兵器の火力が高すぎるのである。三機ともコロニー戦を想定されていないのは火を見るよりも明らかであった。
「これじゃあ、どっちがコロニーを潰してるんだか……」
それは苦しい戦いを予感させるものであった。
――◇◇◇――
スペースコロニーというのは、宇宙空間にある巨大な密室である。従ってコロニーに穴があくということは中の生き物にとって死活問題なのはいうまでもない。スペースコロニーの外に一歩でれば、そこにまっているのは生物を寄せつけない死の空間だ。
それだけにスペースコロニー内部でのモビルスーツ戦は、非常にデリケートなものが要求された。コロニーへのいたわりがなければ、たちまち穴だらけになって、コロニーそのものを破壊してしまう恐れがあるからだ。
その点でいえばF91のヴェスバーとガンチェイスのビームランチャーは威力がありすぎて、一歩間違えれば一撃でコロニーに穴をあけてしまう恐れがあった。
しかし、一方で気づくこともあった。コロニー戦を制するには、小型モビルスーツならではのフットワークのよさと、接近戦へ持ちこむための機動力が不可欠であると。
「ユーナさん、ソールとケネスにはビームランチャーをできるだけ使わないよう指示してくれ」
「わかったわ」
「まずはあの編隊を切り崩す!」
シンクはビームピストルを敵機に向けて撃つ。敵機はビームシールドを張って、それを防ぐと反撃せずに進路を変えてしまう。
ソールとケネスもシンクに続いて、ビームライフルを立て続けに撃つ。やはり、敵機はそのまま防ぐと反撃もせずに進路を変えるだけだった。
「なんで、連中は反撃してこないんだ?」
何度やっても反撃してこない敵にシンクは不気味さを覚えた。
六機のバルバールに釘付けにされている三人は、迂闊な行動がとれない。牽制を試みる
が、相手は相変わらず反撃をしてこなかった。その間にも三人とF91はその距離をしだいに離されていく。
そうやって手をこまねいている間に、敵機は部隊を散開させて攻撃をしかけてきた。そのやり方は巧みで、三機の隙間を縫うように砲撃をしてくる。どうやら今度はこちらの陣形を崩すつもりらしい。
モビルスーツに乗りはじめたばかりのソールとケネスの動揺を誘うにはそれだけで十分だったようで、固まって動いていた三機はすぐに離ればなれになる。
そしてさらに六機のバルバールはまたその陣形を徐々に変えていく。四機をJを取り囲んできたのである。一方で他の二機は離れたガンチェイスにそれぞれ迫っていく。ここでJを確実に抑えるつもりのようだ。
四機に囲まれて迂闊に攻撃できないJに、先ほどまで一切なかった砲撃が敵機からやってくる。
四機のうち二機はJにピタリと張りつき、他の二機はときに他の二機の援護もしながら、Jに攻撃してきた。
その攻撃に圧され、三機はコロニーの地表まで確実に追いやられていく。戦いに集中していたシンクたちは、ジュピトリス7の避難民がいる集落に近づいてることに気づいてなかった。
「シンク、この周辺で戦ってはダメよ!」
それに気づいたユーナがシンクに呼びかけた。シンクがハッとしたときには既に遅かった。敵機の逸れたビームが集落の一角を襲ったのである。
「畜生! なんで見境なく攻撃できるんだよ!」
このままでは集落にさらに被害が及ぶと判断したシンクは、急上昇をさせる。それと同時に集落の方から敵機に向かって砲撃がとんでいった。
「どういう段取りでこうなってるんだ……」
「研究所に連邦の将校がいたんだけど、その人の仕業かもしれないわ」
「避難民の避難はすんでいるのか……」
「ソールとケネスを焚きつけた張本人なら、避難民だって平気で戦いに巻きこむはずよ」
「そうやって他人を焚きつけおいて、自分の身の安全しか考えない人間だっていうのか?」
シンクはユーナの話と現状を分析して、その将校がどういう人間かをつぶさに洞察した。
「そうなのよ……」
二機のバルバールが集落に直行していくのを見て、シンクは舌打ちするのであった。