第四十三話『コクピットの中で』
身動きしなくなったデュランのヘビーガンを連れて、JがアーガマRに帰還したのは数刻前でのことである。
その間もシンクはヘビーガンに懸命に呼びかけをしたが、返事はいっこうに返ってくる気配はなかった。なにより弾痕で穴だらけになったコクピットがなによりも中の惨状を訴えていた。
「お前が気にしてもしょうがないことだ」
トマスが顔を蒼白にしたシンクの肩を叩く。その慰めもシンクには耳を貸さずにうつむいている。
デュラン機のコクピットはひしゃげて、自動では開かなくなっており、無理矢理こじあけるしかなかった。
いつの間にか駆けつけたブライトや、サイキ小隊の面々、ジュピトリス7の子供たちは、静かにその作業を見守っていた。
やがてコクピットを焼き切る機械音は止み、取りはずされる。シンクはそれと同時に我先にとデュラン機のコクピットへ向かった。
すれちがう切除作業を行った作業員たちの顔は、皆一様に蒼白になっており、口元をおさえている者も見られた。
近づくにつれて、鼻をつんざくような臭いが漂いだす。それはまさしく死臭であった。
シンクはコクピットの中を見て、愕然とした。
「頭が……」
「100ミリ近くのでかさの弾丸がコクピットを舐るように何度も撃ちこまれたんだ。そんなでかい弾丸が頭に直撃なんてしたら――わかるだろ?」
淡々と横でうつむいている作業員が語る。これはもはやパイロットの生死を確認する段階ではない。
「シンク、エイミを止めろ!」
トマスの声にシンクは振りかえる。気づいたときにはエイミはコクピットのすぐ近くまで来ていた。
「エイミ……!」
エイミがデュランの容態を確認する魂胆なのだと、察したシンクはエイミをコクピットに近づけまいと阻止しようとするが、エイミはその横をすり抜けてコクピットへ向かう。
「よせ! 中を見るんじゃない!」
「自分の目で確認しないと納得なんてできないわ」
エイミはそういって、コクピットの中を覗いてしまう。
「そこにお前の期待するものなんて一つもないんだ! その中にあるのは――」
エイミがコクピットの中を見て、最初にしたのは激しい嘔吐だった。
第四十四話『折り鶴』
デュラン・サイキの亡骸は棺桶のまわりには、彼の死を悼む者が絶えず訪れて献花をした。
デュランともっとも付き合いの長かったジョンとホセは、デュラン機の前を動かずにずっと立ちつくしていた。
ソールとケネスもその近くですすり泣いていた。
「デュランおじさん、どうしたの?」
ティーロが無邪気な表情で、ユーナに問いかけてくる。ユーナは病みあがりのせいか、顔色はよくない。それでもデュランの訃報を聞いて、いても立ってもいられなかったのだ。
「かえってきたらあそぼうって、やくそくしたの。おじさんどこいっちゃったの?」
その言葉に耐えきれなくなったユーナは二人をそっと抱き寄せる。
「デュランおじさんはね。ちょっと遠いところに行っちゃったのよ」
「どれくらいとおいの?」
「すぐかえってくる?」
「すぐにはちょっと無理ね。でもいい子にしてたら……」
ユーナは言葉が続かずに、とうとう泣きだしてしまった。
「おねえちゃん、なんでないてるの?」
「……なんでかしらね」
よもや、自分のお見舞いに来てくれた姿が最期になるとは、思いもよらなかった。部屋をあとにするときの彼の優しげな顔を思いだすと、ユーナの胸はよけいに痛んだ。
「僕のせいなのかな? 僕がチビたち連れだして、勝手なことをしたから」
マウロが震える声でシンクに問いかける。
「マウロのせいなんかじゃないよ。これは戦争で、誰がどこでいつ死ぬかなんて決定権はないんだから」
「……うん」
「なんかいわなきゃいけないことがあるんなら、さっさと行ってこいよ」
シンクにそう促され、マウロは棺桶のほうへ向かっていった。
棺桶の前にはエイミがおり、その手の平には少し形のいびつな折り鶴が乗っかっていた。
「私なりに頑張って折ってみたの。ちょっと形はいびつになっちゃったけど。……大事に
してくれると嬉しいです」
なにも返事がかえってこない棺桶に問いかけるエイミの姿に、シンクの目尻は熱くなり、視線を逸らしてしまう。
これから戦争をしているかぎり、こんな体験が何度もおこるのだろう。それを思うとやりきれない気持ちになった。
「アーガマRの名物親父――デュラン・サイキの英霊に敬礼!」
その号令とともにデュランの眠る棺桶が宇宙に向けて発射されたのだった。
―◇◇◇―
それは夢だろうか。
デュランがいびつな形をした折り鶴を手に持って、小さな女の子と手を繋いでいる女性
に向かって駆けていく。
「ローラ、サヤ……!」
妻と娘の名前をデュランは口にする。
二人は手をふってデュランを出迎える。
――やっと会える。