第四十七話『シャルナの不安』
コンペイ島侵攻にあたりアークジオンがたてた作戦は、軍を二陣にわけて、時間差による波状攻撃をしかけるというものであった。
その第一陣は間もなく連邦の先鋒している艦隊と一戦をまじえるころだ。第二陣にもそろそろ出撃の号令がかかることだろう。
「シャルナ、出撃前なのに浮かない顔だな」
そういって声をかけてきたのはアレンであった。そのすぐ隣にはオズベルトが控えている。
「コンペイ島宙域の防衛をする連邦艦隊の数がアークジオンの艦隊の数に劣るなんて本当かしら?」
「噂ではその数もダミーでごまかしているということだが」
その影響でアークジオンの勝利に間違いなしと唱える者も少なくなく、軍はかなりの賑わいを見せていた。
「少佐はそれを真に受けるの?」
「現在の情報が錯綜しているなかで、性急に答えをだす必要もないという返答では不服かな?」
「連邦軍が軍備を整えるのが間に合わなかったなんて、そんなバカな話があるなんて思えないわ。連邦はあきらかに私たちを誘きだそうとしている。少佐も気づいているんでしょう?」
「いや、私はこれを連邦の指揮系統の乱れからくるものだと思っている。シャルナが考えは杞憂だよ。いまはこの機を逃さずにコンペイ島――ソロモンを速やかに占領することが
我々の勝利につながる」
「本気でいってるの?」
「ああ。君に嘘をつく勇気はない」
「……もういいわ。モビルスーツで先に待機しています」
シャルナは敬礼すると、床を蹴ってアルエットのコクピットへ向かっていった。
「少佐、お譲さんにいったことは本当ですか?」
オズベルトがアレンに訊ねてくる。
「相変わらず聡い娘だ……」
アレンの口から乾いた笑い声が漏れる。
「オズベルト大尉、彼女のことをよろしく頼む」
「ナイト役を譲っていただけるんで?」
「親心というものを理解してもらいたいんだがな。それに彼女のナイトはもともと君のはずだが?」
「そうでしたかね」
オズベルトからフッと微笑が漏れる。
「オキスタンフレームの性能は認めねばならないが、あの稼働時間の低さだけはいただけ
ないんでな。アルエットの動きには常に気をくばってやってほしい」
「了解です」
オズベルトの敬礼を確認すると、自分もエグゾセのほうへ向かう。
(さて、虎穴に入らずんばというがな……)
アレンもシャルナと同種の不安を抱えながら、出撃準備に入った。
第四十八話『これははじまり』
連邦軍はかねてより考案されていたモビルアーマーの投入を、『サンライズ作戦』において実行に移した。
コード名《ラファール》と名づけられた、そのモビルアーマーは現状の小型モビルスーツが生産ラインに追いつかないことを見込まれて、シフトを移行したものであった。
低コストながら高機動を実現した機体は、大型モビルスーツの足まわりの悪さを補うのが主な目的とされている。その外見はさながら一年戦争で投入されたボールとセイバーフィッシュを混合させたような姿をしていた。
両翼にとりつけられた有線式対艦ミサイルは、一定の距離範囲なら操縦者の自由にコントロールができるというもので、直撃すれば巡洋艦級でも一撃で撃沈させる威力があった。他にもビームガトリグガンと補助アームからはビームガンを発射できるようになっていた。
そのラファールとジェガンの混合部隊がアークジオンの編隊との交戦に入る。
まず二機のラファールが敵陣に飛びこみ、フォーメーションの崩しに入る。
その隙に乗じてジェガン部隊が攻勢をかける。
それに対してアークジオンのバルバール部隊は三機小隊である。
二機のラファールは反転し、ビームガトリグンガンを掃射する。その威力はビームシールドでも十分に防げる威力であるが、それでも直撃すれば致命傷は免れない。
ラファールの動きに気をとられていては、ジェガンの相手もまともにできない。そのような状況は、アークジオンの兵からいわせれば決して面白いものではない。
一機のバルバールがジェガンと格闘戦に入る。たちまち鍔競り合いがはじまりバルバールの動きは止められる。その隙をつきラファールは背後めがけてビームガンを撃ちこむ。その威力はバルバールの表面装甲を焼く程度であったが、よろけさせるにはそれで十分であった。体勢を崩したバルバールは容赦なく、ジェガンのビームサーベルで一刀両断される。
しかし、そのラファールもバルバールのビームライフルの一閃に貫かれ、爆散してしまう。低コストのせいで装甲も薄く、盾も持たされていないラファールの耐弾性は、きわめて低い。それがビームの直撃を受ければまともにすむはずもない。
それでもまだラファールは一機残っていた。ラファールは足の速さでバルバールを翻弄しながら、動きを封じる。
その間に三機がかりで一機のバルバールを撃破すると、最後の一機も間もなく落とされた。
それに勇気づけられた小隊は、グリュ・プランセッスに特攻をかける。ラファールは砲撃をかいくぐりながら、一気に懐へ飛びこむ。
そして有線式対艦ミサイルが発射される。
ミサイルはその軌道を変えながら、やがてグリュ・プランセッスの艦橋に直撃させた。