優勢を保っていた連邦軍だったが、アークジオンの第二陣がその流れを変えた。
いま連邦軍は防衛戦から後退を余儀なくされていた。それでも絶対防衛線を死守しなければ、この作戦は成功とはいえない。連邦軍の踏ん張りどころであった。
アーガマRのモビルスーツ部隊は、前衛にヘビーガン、中衛にJ、後衛にガンチェイスという配置で戦闘を行っていた。プロペラントを積んだ分の重量で重くなってしまったJの機動力の低下をカバーするためのである。
ビームシールドを張りながら向かってくるエグゾセにヴェスバーが直撃する。ビームシールドでもヴェスバーの威力は、相殺しきれず貫通してしまう。
シンクは、この戦場にいるはずのシャルナの気配を探っていた。あちらも確実にこちらを狙ってくるはずだ。
(シャルナと俺が引き寄せあっているというのなら……)
そして、ここがお互いに決着をつける場所なのだという自覚が、シンクの感覚をより鋭利なものにしていた。
「きた!」
Jの頭を狙ってくるようにしてビームの一撃が通りすぎる。それと同時にシンクは、形づくっていた陣形を崩して、そのビームがきた方向へ向かう。
『シンク、どうしたんだ?』
「あの赤い奴です。あいつは俺が抑えます。ジョンさんは配置を変えずにそのまま戦ってください」
『やれるのか?』
「いまできることは、いましておかないと」
『……わかった。無理はするな』
それだけいうとジョンは、シンクをアルエットがいるであろう方向へ行かせた。
「怖いか?」
シンクはエイミになるだけ優しく問いかけた。
「わからない。けど、肌寒さみたいなのは感じるわ」
「これからもっと怖い思いをするかもしれないけど、恨むなよ!」
シンクはアルエットの機影を確認すると、機影に向かってヴェスバーを撃つ。しかし、その一撃はそれて、アルエットは軌道を変えながらこちらに向かってくる。
シンクは逆噴射をかけながらビームライフルで牽制をするが、機動力で勝るアルエットはその距離を確実に詰めてきていた。
シンクは舌打ちをすると、プロペラントをすべてはずす。すると、そのプロペラントが膨らみ、人の形を成すようになる。このプロペラントははずれると同時にダミーバルーンになるしかけが施されていたのである。
一瞬、戸惑ったシャルナであるが、すぐにダミーだとわかると、攻勢を再開する。
アルエットがビームライフルを構えると同時に、シンクはダミーに頭部バルカン砲を撃つ。
するとダミーは引火して爆発を引きおこした。ダミーの内装に少量の火薬を仕込んでおいたのである。
それはアルエットに損傷をあたえるにはいたらないが、目くらましとしては十分であった。
Jはいっきに近くに漂っていた岩塊を右手にとると、アルエットの足元めがけて、一気に懐へ飛びこんでいく。
「なにをする気!?」
「しゃべるな。舌を噛むぞ!」
スラスターを全開にして左腕を突きだして、アルエットの肩を掴みとると、右手に持った岩塊でアルエットの頭を何度も叩きつける。
岩塊が完全に砕けると、今度は右腕を力まかせに何度も振りおろす。
「マニュピレーターが保たないわよ!」
「かまうな!」
そういって渾身の一撃とともにマニュピレーターはひしゃげ、あるいは指がはずれてしまう。こうなってしまうともはやマニュピレーターは、その機能を成さない。
今度は頭突きをアルエットの頭部にぶつけた。
アルエットの動きは止まってしまうが、シンクがシャルナに対して抱いた、断然たる殺意はそれでも留まらなかった。
その殺意を遮ったのは、一機のバルバールであった。そのバルバールはJにしがみつい
て、アルエットから遠ざけさせる。
「こいつ……!」
シンクは吐き捨てる。
『シャルナ嬢、逃げろ! このパイロットは普通じゃねえ!』
直接回線からバルバールのパイロットの声が聞こえてくる。その声はシンクにも聞き覚えのあるものであった。それはシンクのシンクの殺意を鈍らせるものであった。
「シンク……!」
エイミの哀願が聞こえる。それでもバルバールはしがみついて離れない。
『なんだ……? 子供の声?』
その声を聞いたバルバールの動きが一瞬だけ止まる。
「悪いけど……!」
その隙を逃さずシンクはバルバールから離れ、ビームシールドの先端でバルバールの右腕を切り落とす。
『なんで子供の声が白い奴から聞こえるんだ!』
左腕にロングビームアックスを掲げ、バルバールが飛びこんでくる。
「子供が乗っているからだろ!」
Jは左腕にビームサーベルを持って、バルバールを迎え撃つ。
ロングビームアックスをくぐり抜けて、ビームサーベルの突きがバルバールのコクピットに刺さる。
機体が爆発するのを確認したのはそれから間もなくだった。
「……シャルナ――あの赤い機体は?」
肩で息をしながらシンクはエイミに訊ねる。
「さっきので、完全に見失ったみたい」
「……そうか」
それを聞いて心のどこかで安堵している自分がいる。それを自覚すると疲れが地の底からと襲ってくるのシンクは感じていた。