第五十話『スラッガー』
戦線から離れたところで、コロニーレーザーの組み立ては着々と進められていた。
『ラウニ少尉、そちらの接続はまだか?』
「待ってください。Iフィールドの出力が不安定なんです」
二十代の若い女性の声が作業用モビルスーツ《ガニメデ》のコクピット内に響く。シミュレーションのときより数値の調整がデリケートなせいで、作業終了予定時間をいっぱいまで使うはめになっていた。上司が急かしてくるのはそれが原因であった。
「調整終了しました。ミノフスキーコネクトを作動します」
ガニメデがゆっくり砲身の一部から離れていく。それと同時にゆっくりとべつの部品の一部に近づいていって、やがてドッキングをはじめる。
コロニーレーザーとしては小ぶりであるが、それでもコンペイ島に侵攻してきているアークジオンの部隊の半分を潰せるはずであった。
しかし、一方で問題があった。ミノフスキーコネクトの技術自体がまだ未完成であり、そのせいで一発発射すると高確率で熱暴走を起こし、自爆するという計算がでていた。
そのためこの巨砲には《スラッガー》というあだ名をつけられることになった。
『ソーラーパネルの展開が完了しました』
『後部冷却器のドッキングをはじめます』
ドッキングがじょじょに完了していくにあたり、その巨大な砲身も姿をあらわしていく。
『ドッキングが完了しました。Iフィールドの出力も安定しています』
『チャージを開始します。発射十分前』
「発射予定時刻は――ギリギリか。なんとか間に合ったってことかしら」
ラウニはそういって、ひとまず胸を撫で下ろした。これが連邦軍の命運を担っていると聞かされれば、嫌が応にもプレッシャーはかかってくる。この安堵はその重荷が少し降りたことからくるものだ。
『カウントに入る。十秒前――』
九、八、七――ゼロ。
そのカウントが終了するとともに、スラッガーから巨大な光の束が戦域に発射された。
作戦の成功の報が入ったのはそれから間もなくである。
第五十一話『閃光は過ぎて』
シャルナが目を覚ましたとき、目の前にいたのは連邦の兵士だった。それがシンクであることに気づくのに、それほど時間は要さなかった。
「目が覚めたか?」
「それって銃を突きつけていう言葉?」
シャルナは力なく笑ってみせる。
「それはお互いさまだ」
「そうだったかしら……」
そういってシャルナは嘆息を一つついた。
「あなたがオズベルトを?」
「わからない」
「……アークジオンの艦隊は?」
「後発の部隊がスラッガーの攻撃で壊滅。そのおかげで連邦軍がいまは優勢だ」
「そう……」
それを聞いたシャルナは、力のない返事を返した。
「ところでスラッガーってなに?」
「小型のコロニーレーザーみたいなものだって聞いてるけど、それ以外は俺にもわからない」
「そうなの……」
「これからどうするつもりだ?」
シンクは銃を構えなおして訊ねる。
「なにも――なにも思い浮かばないわ。だって、私はまた大事な人たちを失ったんだもの……」
そういってシャルナはすすり泣きはじめてしまう。
「悪いけど、俺はシャルナに同情なんてできないからな」
「そうね。それで私はこれからどうなるのかしら?」
「とにかく俺と一緒にアーガマRにきてもらう。それから先のことはわからない……」
「ええ。負けたのは私だから――シンクに従うわ」
そういい終えてシャルナは、シートに深々と背中をあずける。その表情には不思議と安堵が浮かぶのであった。