L2宙域に存在する資源惑星ヴラシオ。
そこは連邦軍の基地にもなっており、かつてジオン公国が興ったサイド3に対しての見張りとしての役割もあった。
アーガマRとジュピトリス7も本来ならヴラシオに寄港する予定であったのだが、ヴラシオにやってきたのは損傷を負ったアーガマRのみであった。
アーガマRもあらから再度襲撃を受けたものの、Jの活躍によってなんとか退けることができた。しかし、ジェガン四機とパイロットは全滅という悲しい結果の前にはそれさえも虚しく感じられた。
そしてあの襲撃を「ジオンの亡霊によるものだ」と言い出すものも現れ、艦内を一時期騒然とさせた。それでも恐慌が起こらず、無事にヴラシオへ寄港できたのはブライトの働きによるところが大きかった。
「ところで、あのブライト艦長って有名なんですか?」
シンクはJの整備の傍ら、アーガマRの整備技師長を務めるトマス・モリスに話しかけた。年齢で言えば三十代前半くらいで、爽やかな顔つきは人好きする印象をまわりにあたえる。
「《一年戦争》とか《シャアの叛乱》のことは、知ってるよな?」
「ええ、一応は……」
「ブライト・ノアっていう人物は、その戦争で最前線で戦った英雄なんだよ。他にも
《グリプス戦役》やら《第一次ネオ・ジオン戦争》でも最前線で指揮を執ったって話だ」
「それって三十年以上前の話なんですよね……」
シンクが生まれたころというのは、地球圏が平和なときであり、かつて多く戦乱があったのだと言われても実感が湧かなかった。
「それにしてもこいつにはたまげたよ」
「Jのことですか?」
「《サナリィ》でも小型モビルスーツの研究は進んでるんだが、ここまでの性能がだせていないのが現状でね」
「そうなんですか?」
「こいつをサナリィの研究所に持ち帰ったら、技術者は喜ぶだろうさ」
「はあ……」
「あと、こいつのコードネームに《ガンダム》って、つけたらどうだってブライト艦長に言われたんだが、いいよな?」
「《ガンダム》、ですか?」
「ああ、顔つきっていうのかな。ブライト艦長がこいつの顔はガンダム顔だってさ」
シンクは要領を得ない表情を浮かべて、《ガンダム》という名のついたJを見上げた。
「《BWCS》の感度は、アイラ嬢ちゃんが戻らないとどうしようもないな」
現在、アイラは上層部への報告のためアーガマRを留守にしていた。また、他の乗組員も休息のために降りていたりして、アーガマRはひっそりとしていた。
シンクがモビルスーツの整備を手伝っているのは、ジッとしているのがいやだったからである。前回の戦いで散ってしまったジェガンのパイロットたちを思うと、恐怖が腹の底から這い上がってくる感覚に襲われた。
こうして思うと、二度もこのモビルスーツの副座に座って、生きて帰ってこれてることが不思議でしょうがなかった。
なにより、いつの間にか自分もJのパイロットとして、認知されているのもいやだった。
(これからどうなるんだろうか?)
そんな不安だけがシンクの胸を掻きむしった。
――◇◇◇――
アーガマRが謎の敵機の襲撃を受けたという報告は、ヴラシオに厳戒態勢を敷かせるのに十分な理由であった。子供たちがアーガマRから降りられなかったのも、理由はここに依存するものが大きい。
「襲ってきたのがジオンだって話は本当なんですか?」
アイラがブライトに訊ねた。彼らはいましがた報告を終えて、アーガマRに帰投したのである。
「ジュピトリス7から持ち帰られた情報のソースを疑わないなら、な」
「相手はジオニズムの復興を唱える思想家でしょうか?」
「なにもそういった連中がジオンを名乗る必要はないさ」
「思想とは常に書き換えられるものですからね」
そう言って、アイラは自嘲気味に笑ってみせる。
「伍長はあまりニュータイプとかは信じないクチかね?」
「ニュータイプが人の革新だなんていうのは、理想主義者の戯言ですよ」
「随分、辛辣なんだな」
「高潔な思想は、故に他人から利用されやすいということです」
アイラは足元を睨みながら呟く。その深淵なる視線の先にあるものは、ブライトの想像が及ぶものではなかった。
「それで……、これからのアーガマRの動きはどうなるんでしょうか?」
「ガンダム――Jをサナリィの月工場まで、アーガマRで運搬せよとのことだ」
「私も引き続きアーガマRでお世話になれると?」
「ああ、伍長には引き続きJのパイロットとして世話をしてもらう」
「はい」
「それと護衛としてパイロットが三人と、モビルスーツが三機配備されることになった」
「護衛ですか?」
「ああ。なんでも腕はいいんだが、一癖あって扱いづらいらしい」
ブライトはそう言って、苦笑を浮かべる。
休暇はまだ延びることになりそうだと、ブライトはこっそり肩をすくめたのだった。