第五十二話『戦いの終わり』
Jがアルエットを連れてアーガマRに帰還を果たした。
「また、派手にやったな……。ありゃ元どおりにするのは無理だぞ」
トマスがJの損傷を見てつぶやく。右のマニュピレーターは完全に壊れているし、頭部も半壊といっていいほどの損傷を受けている。なんともメカニック泣かせな話だと、トマスは胸中で嘆息をついた。
「どうします?」
隣にいた整備士が訊ねてくる。その表情はどこかうんざりとしていた。
「とりあえず動けるようにまではしておかないとな」
「……そうなんですがね」
「それよりも……」
Jが連れて帰ってきたアルエットに目が移る。
アルエットは格納庫の隅に座らされると、待機していた兵が銃を構えて、コクピットのまわりを囲んだ。
一人の兵が慎重にコクピットをあけると、なかにいたパイロットが両手をあげて降りてくる。
「ヘルメットを脱げ」
その指示どおりにパイロットはヘルメットを脱ぐ。
ヘルメットを脱ぐとそこにいたのは、シンクと歳の変わらぬ少女だった。その姿にトマスはいまさらながら驚嘆した。敵のエースパイロットだから、体躯のしっかりした男だろうという思いこみがあったので尚更であった。
その少女は近くにいた兵士と幾つかやりとりをしたのち、兵士に囲まれながら格納庫をあとにした。
―◇◇◇―
Jのコクピットを開くと、そこにはすっかりくたびれた姿のシンクとエイミの姿があった。
「お疲れさん」
トマスは努めて明るく話しかける。
「……他のみんなは?」
シンクは声を絞りだすようにして訊ねる。
「全員無事帰還したよ。いまは自分の部屋でぐっすり寝てるはずだ。お前たちも着替えて、さっさと休め」
トマスはそういって二人をコクピットから追いだして、格納庫をあとにさせる。
「さて、はじめるか」
技師たちの戦争はこれからであった。
第五十三話『レオパール女史』
旗艦アルヴィルダの私室で、ディリジャンはスーツ姿の女性と食事をとっていた。その傍には秘書らしきの女が、コンペイ島侵攻時の被害状況を淡々と語っていた。
「個人的になるが、アレン・ラッティ少佐の生存は?」
「残念ながら。もっとも被害を受けた第二陣の中枢で指揮を執られていたようなの
で……」
「わかった。報告が以上なら下がってくれていい」
「では、失礼します」
事務的に一礼だけして秘書は「ごゆっくり」とだけいい残して、その場をあとにした。
「アルエットを失ってしまいましたね」
スーツ姿の女性はそういって、ころころと笑いだす。
「ええ。痛い損失です」
「あら、そんなことはありませんわ。貴重な戦闘データは、我が社で有効に利用させていただきます」
「そういっていただけるとありがたい」
女性はワインを一口つけて間を置くと、話題を変えた。
「アレン・ラッティ少佐といえば、総帥が手塩にかけてらっしゃった方では?」
「ええ。内外に私が本気であると示す必要があったとはいえ、手痛い人材の損失になりました」
「それにこの戦いでアークジオンは部隊の三割を損失しています。これでは連邦と戦うのは難しいのではなくて?」
「ええ。ですから、休戦協定を結ぶんですよ。戦争はもうたくさんなので、ね」
「《アルバトロス》の納期を急がせた方が、奇なことをおっしゃるのね」
ディリジャンはなにも答えずにただほくそ笑んだ。
「アルバトロスといえば、パイロットは誰を乗せる予定なんですか?」
「パイロットに関しては、バスティア・エレキスに一任させてあります」
「バスティア? ああ、バスティア・エレキス中尉ですか」
「彼は少佐ですよ、レオパール女史」
「そうでしたかしら?」
「ええ」
「アルバトロスは性能ももちろんですが、操縦系が特殊ですので、並のパイロットで
は扱えませんよ?」
「例のネオ・サイコミュを?」
「ええ。鉄仮面殿にもよろしくお伝えください。技術提供をいただきありがとうござ
いましたと」
「たしかに伝えておきましょう」
「私がいうのもなんですが、アルバトロスはすごいですよ。《ベック》の完成が間に合わなかったのが悔やまれますけど」
「あのアルエットも大した性能であったと聞きましたが?」
スーツの女性――レオパール女史が妖しく微笑む。
「アルエットはただの試供品。オキスタンフレームの神髄は、アルバトロスでこそお見せできるかと」
「これは頼もしいお言葉ですな」
「いえいえ。こちらこそ競争相手のモビルスーツ開発を邪魔するばかりか、データまで提供していただいているんですもの。これくらいはサービスですわ」
「なにごともギブアンドテイクが私の信条なのでね」
「総帥はお人が悪いお方ですから」
二人はワイングラスを手にとって、乾杯をした。
グラスがかち合うチンという音は、なにかのはじまりを予感させた。