巡洋艦ドラグートのなかで、その準備は着々と進んでいた。
その中核にいたのがバスティア・エレキスであった。しかし、その風体はかつての彼を彷彿させるものはなく、いまは重々しい鉄の仮面覆われた姿こそが彼のパーソナルを表現していた。
そして、その隣をショートボブの黒髪の少女が付き添っていた。
「ヴェイナス、これが君の愛機なる《アルバトロス》だ」
頭から突きでた三本の角。パープルを基調とした機体の色が印象をあたえる。
「説明はラウダーがしてくれる。出撃は一時間後だ。遅れるなよ?」
「了解です。バスティア・エレキス中尉」
「私は少佐だ。ヴェイナス・ベイ少尉」
「失礼しました。少佐殿」
バスティアはそれだけいうと格納庫をあとにした。
「説明はコクピットで聞く」
「ノーマルスーツは?」
「着ないよ」
ラウダーはヴェイナスの発言に耳を疑った。モビルスーツに乗っているとはいえ、それでも宇宙空間にでることにちがいはない。ましてやモビルスーツの気密性はそこまで厳重ではない。ノーマルスーツを着ずに宇宙空間にでるなど自殺行為にしか思えなかった。
「どうもノーマルスーツを着てると感覚が鈍るようでね」
「はあ……」
その返答に技術屋のラウダーが理解できるわけもなく、あいまいに返事をかえした。
「操縦桿がないけど?」
ヴェイナスはアルバトロスのコクピット内部を見るなりそういった。
「この機体はパイロットの脳波でコントロールするんです」
「それは私の意のままに動かせるということ?」
「はい。そういうことになります」
「アルバトロスは未完成だと聞いていたけど、動くんでしょうね?」
「それは問題ありません。未完成というのは兵装の話ですので。機体のほうは完成してます」
「それで気をつけるところはある?」
「オキスタンフレームの問題として、稼働時間の短さがあげられます。そこにだけ気をつけてください」
「ひょっとして未完成の兵装ってのは、その稼働時間の低さを補うためのものじゃない?」
「さすがですね。そのとおりです。今回はバッファにプロペラントを積んで代用してもらいます」
バッファとは《B・F・A》――Backup Flying Armorの略であり、フライングアーマーの一種である。それにプロペラントを積んでアルバトロスを運搬し、できるだけ稼働時間を稼ごうというのである。
もともとは新型機《エスパドン》を運用するために開発されたものだが、アルバトロスの兵装である《ベック》の開発が間に合わなかったために、急ごしらえで調整されたのである。
「他に質問はありますか?」
「ありがとう。あとは体で覚える」
「わかりました。それではご武運をお祈りします」
ラウダーはそういって機体から離れていった。
「見せてもらうよ。アークジオンの新型の性能を――」