暗がりの独房のなかで、シャルナはシンクの危機を感じとっていた。
(さて、どうしたものかしら)
だからといってシンクの危機を感じただけで、それの真偽はわからない。なによりシンクを助けに行く理由がなかった。
「お疲れじゃありません?」
シャルナは見張りの青年に声をかける。青年が思わず生真面目そうな返答を返してくるのがおかしかった。
「あのですね――」
だからといって放っておく気もなかった。シンクという少年と自分は関わってしまったのだ。
(責任はとってもらわないとね。私もけじめをつけないといけないけど)
―◇◇◇―
「ごめんなさい。昔から手癖が悪くて」
独房で昏倒している青年にそういって、シャルナはノーマルスーツのある部屋に向かった。
シャルナは勘を頼りに目の前に映った扉を開ける。すると、そこには多くのノーマルスーツがロッカーから吊り下がっていた。
「どの戦艦もなかはだいたい一緒なのね」
シャルナは肩をすくめるとパイロット用のノーマルスーツを手にとって着替えはじめる。少しでも疑われないように艦内を動くには、ノーマルスーツで動きまわるほうが都合がいいと考えたからである。
着替え終わったシャルナは部屋からでて、自分の記憶を頼りに格納庫へ足を向ける。
その進路が阻まれたのは、それから間もなくのことであった。
少女が前方に銃を構えて立っていたのである。その少女はエイミであったが、シャルナが彼女のことを知っているわけもない。
「ヘルメットを脱いで」
エイミは声を震わせながら、銃を構えなおす。シャルナは潔くその指示に従った。
「やっぱり、さっき脱獄したアークジオンの兵隊ね。これからどうするつもり?」
「それを聞いてどうするつもり?」
「それは……」
エイミはそう問い返されて、返答をつまらせる。シャルナは自分を撃つ気なのかと暗に問いかけたのだ。
「あなた、たしかシンクと一緒にいた娘ね? ひょっとして、私が脱獄したのはシンクに復讐するためだと思ってる?」
そういわれてエイミはハッとした表情になる。どうやら図星のようだ。
「わかりやすい反応ありがとう」
「そ、そうよ。もしあなたがシンクに危害を加えるんなら……」
「殺すの? その震えた手で?」
シャルナは冷たくいい放って、一歩前へでた。
「動かないで!」
「健気なお嬢ちゃんね」
バカにしたのではなく、これはシャルナなりの賛辞であった。
シャルナは銃口に臆することなく、エイミに向かっていく。
「エイミ、ダメ!」
その声とともにエイミに人影がとびかかる。ユーナであった。
ユーナはエイミから無理矢理に銃を取りあげる。
「ユーナさん!」
エイミは非難がましく、その名を呼ぶ。
「そろそろ失礼していいかしら?」
シャルナはそれでもお構いなしに呼びかけた。
「あなた、自分が話題の中心だって自覚ある?」
「中心にしてるのはあなたたちでしょ。自分のことをどう思われようが、関係のない話だわ」
「でもエイミのいうとおり、あなたがシンクに復讐しに行くというんなら、話は変わってくるけど?」
ユーナはそういって、シャルナを観察するような視線を送ってくる。
「復讐に興味はないなんて、口では軽くいえるものね」
エイミが鋭く睨んでくる。
「じゃあ、なんで脱獄なんかしたの?」
「シンクを助けに行くつもりだっていったら信じてもらえる?」
「信じられない」
エイミはきっぱりといい放った。
「でしょ。だからこっそりとでて行くことにしたの」
「あなた、なにを考えてるの?」
ユーナが問いかけてくる。
「なにも。あるがままに自分の決めたことだけを成していくだけ」
「シンクが危険だというのは?」
「私がそう感じただけよ。とくに信憑性はないわ。それこそここを逃げだしたい方言
かもしれない」
「あなた、ホントに私たちに信じてもらおうとしてるわけ?」
エイミが呆れたような口調でつぶやく。
「興味ないっていったでしょ。それよりどうする? 私を行かせてくれればシンクは
助かるかもしれない」
ユーナはエイミから奪いとった銃を見つめる。
そして、しばらくすると口を開いた。
「わかったわ。私たちはここでなにも見なかった。そうしましょう」
「ユーナさん?」
ユーナの決断に、エイミは思わず声をあげてしまった。
「さあ、行って。でないと、誰かきてしまうわ」
「ありがとう。恩にきるわ」
シャルナはそういってヘルメットを被ると、その場をあとにする。
「どうして、あの人を行かせたの?」
「……彼女、死ぬ気よ」
「そんな――」
「少し冷たいかもしれないけど、あの娘と私たちは他人だもの。私たちに止める権利
はないわ」
ユーナは俯きながらそういった。
シャルナが脱獄したことに他の人間が気づいたのは、それから間もなくであるが、すでにシャルナはアルエットでアーガマRを飛びだしていた。