第六十一話『プロローグ』
後に『コンペイ島戦役』と呼ばれる戦いは、連邦軍の勝利に終わった。
アークジオンの損害は甚大で、アークジオンの首脳部はこれ以降の戦闘続行は困難とし、連邦軍と休戦協定が結ばれた。
アークジオンは拠点としていたヴラシオを破棄し、ヴラシオをL1宙域まで移動させるという意向を示し、その見返りとして連邦はサイド3に特別自治権をあたえることを約束した。
それに伴いアークジオンの本隊は、サイド3にあるスペースコロニーの一つ《アンシアン》に撤退する。
そして両軍には境界線が引かれ、連邦軍とアークジオンの戦争は一応の幕を閉じることになり、地球圏は平穏になるかのように思われた。
しかし、その平穏はすぐに破られることとなる。
アークジオンお抱えの《ラフレシア機関》が造反したのである。
ラフレシア機関の指導者たる鉄仮面は、私兵を率いて地球に侵攻。旧世紀時代にフィンランドと呼ばれた地域を瞬く間に占領してしまったのである。
それに伴い《ラフレシア機関》の私兵団は、クロスボーン・バンガードを名乗り、各地で海賊行為を繰り返した。そしてサイド2のコロニーで起こった無人兵器による虐殺――地球圏はより混迷の一途をたどっていた。
第六十二話『コスモ・バビロニア』
フィンランド――ヘルシンキにある迎賓館で、鉄仮面による演説が行われていた。
「それでは我が家族を紹介しよう。妻のナディアと娘のベラである」
鉄仮面が紹介するとクラシックなドレスに身を包んだ二人の女性が一歩前にでて、恭しく一礼をする。四十代に見える女性がナディアで、十六歳ほどに見える少女がベラなのだろう。
「息子のドレルである」
そう呼ばれた青年が前の二人に倣う。しかし、その表情もまた鉄の仮面で覆われており、各々が持つはずの感情の吐露は感じられなかった。
「我々ロナ家、千年の夢とは人類にとこしえの繁栄を約束するということです。そしてここにおられる皆さんはコスモ・バビロニアの選ばれた人々なのです」
―◇◇◇―
『そのためにも我々はこれを最後の聖戦とし――』
その演説はテレビ中継され、地球圏のあらゆるメディアで放映されていた。
「結局、この人はなにをいってるの?」
エイミがシンクに向かって訊ねる。しかし、それに答えたのはシャルナであった。したり顔で説明しだすシャルナに、エイミは見るから不機嫌な表情を浮かべる。
「地球が汚染され続けてるのは、人類のせいだから地球に住むべきではないといってるのよ」
「じゃあ、良いことをいってるの?」
「鉄の仮面被ってるような人間がいい奴なもんかよ。だったらアーガマRがフランスに滞在している説明がつかないだろ」
「私はバカンスも楽しみたいんだけどね」
シャルナがウソとも本気ともつかない表情でいうのを見て、シンクは嘆息する。
あれからアーガマRにはすぐに地球に降下したと思われるアークジオンの部隊を追
撃せよという辞令がくだっていた。
地球降下にあたり、アーガマRには前面と後方にビームシールドが張れるように改修が加えられ、大破したヘビーガン・カスタムのかわりにガンチェイスが二機と、シンク機にガンチェイスのカスタム機であるガンレイサーが配備された。
ガンレイサーには副座が設けられ、そこにはシャルナが座った。
シャルナには特例があたえられ、アーガマRに配属されることになった。そこに至るまでの経緯は、高度な政治的取引があったと思われるが、シャルナにそれを把握するのは不可能なことであった。ただ、彼女の父のかつて友人であった人物から、口添えがあったと伝えられるのみである。
「この鉄仮面の演説が本当なら、人類の大半はいらないってことよね。それってどういうことかしら?」
「そのために必要な人間と必要のない人間をわけるっていってるのか。そのために選民思想を肯定するわけか」
その先にあるものとはなんなのだろうか。
鉄仮面の演説はまだ続いていた。