第六十三話『地球に向かって』
コスモ・バビロニアが地球連邦に宣戦布告をして数日が経過しようとしていた。
ラウニ・エベンソンがアーガマRの補充パイロットとして配属が決まり、新型機を持ってアーガマRのところまで――つまり地球まで降下しなければならなかった。
「第九十一独立部隊、ねえ」
ラウニがため息まじりにつぶやく。第九十一独立部隊というネーミングは、彼女の元上司の話によればいわゆる洒落らしいのだ。その元上司は苦笑を浮かべるだけで、その洒落については最後まで教えてくれなかった。
「ラウニ少尉は、地球で生活をされたことが?」
話しかけてきたのはトマスであった。彼は地球がはじめてらしく、心なしか緊張の色が窺えた。
「そうですね。軍に入ってからは地球での任務ばかりだったものでしたから」
士官学校を卒業してからは、辺境という辺境を転々とばかりされていた記憶しかなく、宇宙にあがった回数は『サンライズ作戦』を含めても数えるほどしかない。
「ひょっとして、ラウニ少尉は地球生まれで?」
トマスが羨望の眼差しを向けてくるのに、ラウニは苦笑を浮かべる。
「いえ、生まれはサイド7のほうですよ。たしかに軍に入ってからは地球暮らしが続いてますけど」
地球暮らしというのは上流階級を指すのが一般的だが、実際のところはそうでもない。不法滞在者もいるば、明日の食料に困っている者もいる。それは地球だろうが、宇宙だろうが同じことだ。
「地球の重力に引っぱられるっていう話を聞いただけでも、震えが止まらないんですよ。慣れてくれますかね?」
地球の重力圏内に近づくにつれて、トマスは饒舌になっていった。その顔は青ざめて、いまにも卒倒しそうだ。よっぽど不安なのだろう。
そういえば自分がはじめて地球に行ったときはどうだったろうか。
ラウニはトマスに当時の自分を重ねるのであった。
第六十四話『ヨーロッパ戦線』
コスモ・バビロニア――クロスボーン・バンガードと連邦軍の第一戦は、バルト海で幕を開けた。
クロスボーン・バンガードはバルバールとエグゾセの混合部隊、そして新型のエスパドンの編成部隊で連邦軍を迎え撃つ。
新型機エスパドンはバルバールの改良機に、多目的重装甲《アルミュール》を装備させたものである。その名の通りアルミュールはあらゆる攻撃に対しての耐性がある。そのかわりに装甲も分厚いため、機体重量がかさみ、機動性が著しく低下するという弱点があった。その欠点を補うために開発されたのがフライングアーマー――バッファであった。バッファの前面にはビームシールドを張ることができ、防御面に関しても非常に優れている。
そのエスパドンの基本戦法というのが、その防御力と機動力を生かした突撃戦法である。ビームサーベルよりリーチのあるビームショットランスを装備させたのは格闘戦に重きをおいたためである。
そしてエグゾセとバルバールには、地球用にサブ・フライトシステムが取りつけられている。
対して連邦軍は重装型ジェガンを中心とした新旧モビルスーツの混合軍とモビルアーマー――飛行型のミストラル、地上用のタンペートを加えた部隊であった。
モビルスーツには海上ならびに地上戦を見こんで、フライトボードが移動手段として使われている。フライトボードとはホバリング機能とサブ・フライトシステムを併用させた、モビルスーツの支援機である。形状はサーフボードのような形をしているのが特徴であった。これによりモビルスーツは地形を選ばずに戦闘を行えるようになり、旧型であるジェガンタイプの足まわりの強化に役立った。
ミストラルとタンペートに関しては、先の『サンライズ作戦』で投入されたラファールを大気圏で扱えるようにモデルチェンジさせたものである。ミストラルは戦闘機、タンペートのディティールイメージは戦車に近い。タンペートは飛行機能はないが、ホバリング機能を持たせてあり、海上でも使用には十分耐えうるものであった。
両機の魅力はモビルスーツにくらべ、生産コストが安価であることである。小型モビルスーツの配備が完全にすんでいない連邦軍にとっては、支援機としても重要な戦力であった。
間もなく、はじまりを告げる砲火の音が響こうとしていた。