バルト海の戦線には、アーガマR率いるモビルスーツも参加していた。
四機のガンチェイスとガンレイサーの編隊は、別働隊として本隊とは別方向から攻める段取りになっていた。
「のけ者だと思えば、囮にされたり、俺らはどう思われてんのかね?」
「それはいわない約束だったろ?」
ケネスがのやきをソールが制する。
「いつしたよ、そんな約束」
「不文律ってやつだよ。それにもうすぐ戦闘だぞ?」
ソールとケネスのやりとりを聞いていたシャルナも、思わず嘆息を漏らした。
「私たちが戦争屋だって思われてるって話しホントかしらね?」
「さあな。それよりお喋りしてる場合じゃないみたいだぞ」
シンクがそういったと同時にビームの閃光がガンレイサーの真横を通りすぎた。どうやら戦場に到着したらしい。
「ガンレイサーで先行します」
シンクはそういってガンレイサーのビームフラッグを広げると、別方向からビームフラッグが広げられるのを確認した。これはアーガマRの部隊が到着したことを知らせるためであり、本隊もそれを確認したという合図である。
数機のエスパドンがガンレイサーにめがけて、弾丸のような勢いで向かってくる。その一機がガンレイサーのヴェスバーの射程圏内に入る。
「あの機体、頑丈そうねぇ」
シャルナはぼやきながら、ヴェスバーを発射する。その一撃はかわされてしまうが、それはあくまで牽制であった。
Jのときとはちがい、ガンレイサーにはヴェスバーが二丁装備されていた。排熱の
ため連射はできないヴェスバーだが、交互に撃ちわけることで、擬似的に連射ができるようになっていた。またJのときの戦闘データのおかげで、撃ったあとの反動も軽減されていた。そのため連射しても、照準が大きくぶれることはなくなっていた。
次の一撃はエスパドンを捉えた。並のモビルスーツなら一撃で撃ち貫かれるところだが、エスパドン相手だとそうはいかない。
バッファの前面に張られたビームシールドは貫通したものの、アルミュールをはじき飛ばすに留まっていた。アルミュールはリアクティブアーマーの一種であり、アルミュールを潰しても本体はほとんど無傷な場合が多い。
「ミサイルで目くらましだ。距離をとるぞ」
シンクがそう指示すると、シャルナはガンレイサーの八連装ミサイルランチャーを発射させた。
エスパドンのビームショットランスに突貫攻撃は、ビームシールドもろともモビルスーツを貫くほどの威力を持っている。それはガンレイサーでも例外ではなく、迂闊に接近戦を挑むわけにはいかなかった。
「やっぱり脚を先に潰さないとダメね」
「そうなんだろうが、どうする……?」
ガンレイサーは他にもレールキャノンが二門設けられている。他のヴェスバーやミサイルランチャー――これらはガンレイサーの固定兵装ではなく、F90のオプションパーツを組みあわせて作られた、取り外し可能の装備――HWA(Heavy Weapon Armor:ヘビーウェポンアーマー)であった。そして、それをフライトボードを介してドッキングさせているのだった。
そのため射撃兵器は充実していたが、格闘戦においてアルミュールを貫ける武器はない。距離を詰められれば、不利になるのは目に見えていた。
「ヴェスバーだって無限に撃てるわけじゃないのに」
シャルナが呻くように振りかえると、サイキ小隊の面々も戦闘に入っており、援護は望めそうになかった。
「そういや、なんであのフライングアーマーはビームシールドを張るんだ?」
「機体を守るためじゃないの?」
「そうなんだけど、もしかしてあのフライングアーマーは、思ってるほど頑丈じゃないかもしれないって思わないか?」
「……試してみる?」
「自分でいいだしたことだ」
エスパドンのビームショットランスから放たれる拡散ビームをかわしながら、シンクは接近していく。
そしてHWAをエスパドンの目の前で、脱ぎ捨てるとフライトボードでバッファの下に潜りこみ、ビームサーベルでバッファを貫く。
「いけるぞ」
バッファにはアルミュールで使われている素材が使用されていないようで、あっさりと貫けた。爆発するとともにエスパドンはバッファを切り離す。
エスパドンはビームショットランスで突きかかってくる。それをガンレイサーはビームスピアで迎え撃つ。ビームスピアはその名の通りビームの刃を持った槍のことである。これならリーチが長いので、ビームショットランスに対しても決して引けをとることはない。
しかし、そのビームスピアでもアルミュールを貫くほどの威力はなかった。
「関節の部分を狙って!」
シャルナの一喝とともに、スピアが肩と胴の接合部分を貫く。ビームショットランスを持っていた腕を奪われたエスパドンは、自己の不利を悟り、僚機の援護を受けながら、後退していく。
連邦軍から撤退命令がでたのは、それと同時のことであった。