第六十六話『合流』
クロスボーン・バンガードと連邦軍の初戦は、連邦の敗北という形で幕を開けた。
アーガマR隊の被害は決して多くなかったのだが、本隊は巡洋艦が五隻も落とされるなどの甚大な被害を被る結果となったのである。
これはクロスボーン・バンガードの新型モビルスーツ――エスパドンによるところが大きい。あの高い防御力と高機動に翻弄され、モビルスーツ部隊は陣形を崩され、一気に攻めこまれたのである。
唯一の救いといえばエスパドンの機体数の少なさである。コストの問題なのか他のモビルスーツに比べてあきらかに少ないのである。
トマスとラウニ・エベンソンがアーガマRと合流したのは、バルト海上戦での戦いから数日後のことであった。
「ラウニ・エベンソン少尉です。歴戦の方々とこうして肩を並べられることを誇らしく思います」
「ああ、こちらこそ。ラウニ少尉」
強ばった表情で敬礼をするラウニに苦笑を浮かべながら、ホセは手を差しだす。
「トマス技師長から聞いてるかもしれないが、ここは正式な軍艦じゃない。だから、もう少しフランクしてくれていい」
ホセの後ろをティーロとメロディが駆けながら、通りすぎていく。
「……子供?」
「ああ、アーガマRには他にもあんな子たちが乗っているんだ。よろしくしてやってほしい」
ラウニが訝しげに表情を浮かべるのに、ホセがフォローをする。
「話には聞いてましたが、たしかモビルスーツのパイロットも子供がやってると聞きました」
「そのうち紹介するよ。とりあえず、まずはブライト艦長のところまで行ってくれ。いろんな手続きはそれからになると思う」
「わかりました。これからよろしくお願いします」
ラウニはホセと握手をかわして、その場をあとにした。
第六十七話『北欧の地を抜けて』
クロスボーン・バンガードと戦うには、エスパドンの対策が不可欠である一方で、連邦軍には他の懸念事項があった。
旧ノルウェーと旧フィンランドの国境付近には、核弾頭の保管施設があったのである。
先のバルト海上戦において連邦軍に勝利したクロスボーン・バンガードは、徐々にその勢力を北欧一帯に延ばしつつあったのである。
そこでアーガマRに白羽の矢が立ったのである。
アーガマRは数隻の巡洋艦とともに、スカンディナヴィア山脈をノルウェー沿いに北上して、核弾頭の保管施設の防衛ののちに南下して、一気にクロスボーン・バンガードの本拠地であるヘルシンキを攻め落とすという段取りが組まれていた。
たしかに無茶のある作戦ではあるが、成功すればクロスボーン・バンガードを一網打尽にできる。潰すなら地盤固めをはじめたいましかないという見解が、連邦の上層部による判断であった。
彼らのなによりの不安事項はアークジオンだった。ヴラシオを明け渡したとはいえ、アークジオンは戦力を手放したわけではないのだ。当然、彼らとの戦いにも備えておかなければならないのである。
そしてアーガマRは現在、その作戦に向けて編成と補給物資の積み込みが行われていた。
トマスとラウニが合流したと同時に、新型機――F92の搬入も行われていた。
「ゆーねえ、みて。じぇいがふたりもいるよ」
ティーロがユーナのスカートの裾を引っぱりながら話しかけてくる。それにつられてユーナも新型に目を向ける。
「ほんとね。どうしてかしら……」
たしかに二機のモビルスーツが新たに搬入されるとは聞いていたが、まさかガンダムが二機もやってくるとは思っていなかったため、ユーナも内心は驚いていた。
どうやらあの二機のガンダムにはシンクとシャルナがパイロットになるらしく、彼らが乗っていたガンレイサーは補充員のラウニが引き継ぐという話になっているらしい。
ガンレイサーのコアファイターが二人乗りのものから、一人乗りのものに換装されているのは、そういった理由らしい。
ユーナがさらに別方向に目を向けると、そこには再編されたサイキ小隊の面々がトマスからレクチャーを受けていた。
―◇◇◇―
「クロスボーン・バンガードの新型――以降コード名《ナイト》と呼ばせていただきますが、ナイトが厄介なのはあの分厚いリアクティブアーマーです。リアクティブアーマーの
利点というのは、あくまで一種の鎧ですので、破損しても取りかえが利くということで
す」
クロスボーン・バンガードの最初の活動場所は宇宙であり、宇宙でもエスパドンの対策は急務であった。
「そういえばコロニー内で無差別テロが起こっているって話ですが」
ソールがどこかで聞きかじった情報を思いだし、トマスに訊ねた。
「《シー》のことか。シーについては残念ながら事実でね。現在、連邦軍は対策に追われている最中だ。それでもサイド2にあるコロニーが一つ壊滅したという話らしい」
その言葉にソールとケネスは唾を嚥下する。
「……そのナイトの対策とはなんですか?」
そこで口を開いたのはラウニであった。
「ああ。そこでビームライフルの一部を改良して、新型のグレネードランチャーを撃てるようにしました。欠点は一発しか撃てないということで、二発目は装填をしなおす必要があります。また、射程範囲が限られるためにできるだけ敵に近づいて撃たなければなりません。しかし、実験では一撃であの装甲を吹き飛ばせる威力を持っています」
「ちょっと待ってください。あのナイトって機体は格闘戦が得意なんですよ?」
ソールが叫ぶようにして問いかける。エスパドンの突貫力の高さを考えたら、懐に飛びこむだけでも相当の勇気がいるはずだ。
「悪いけど、あの《ナイト》に対しての対策ってのは、現状じゃこれが精一杯なんだよ」
「要は気休めってことですか……」
ラウニは嘆息つきそうになるのを我慢しながら、そうつぶやく。しかし、エスパドンが戦艦の主砲に、一撃なら耐えてしまうことはわかっているので、それをモビルスーツでもなんとか対処ができるというのは、決して後ろ向きな話ばかりではなかった。
―◇◇◇―
(また厳しい旅になるようね)
サイキ小隊のメンバーが一様に難しい表情を浮かべるのを見てとって、ユーナはそう感じた。
「ティーロ、皆のところに戻りましょうか。そろそろマウロが目を覚ますころだわ」
「うん」
ティーロが素直にうなずいた。
地球に降りた当初はいろいろあったが、それでもその時間はゆったりとしたものだった。
その穏やかな時間と別れが少しづつ近づいているのだと思うと、ユーナは胸が締めつけられるような思いになった。