機動戦士ガンダムJ   作:あかつきp dash

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第六十八話『マリとファム』

 アーガマRはグラップ級二隻とともにフランスの南海岸を出港した。

 

 それと同時に連邦軍は、アーガマRの動きをクロスボーン・バンガードから目をそらさせるため、再びバルト海で部隊を展開させた。

 

 それが功を制したのか、アーガマRの部隊は一切の戦闘もなく、スカンディナヴィア半島の浸入ができた。だが、すでにそこはクロスボーン・バンガードの勢力が広がりつつあり、衝突を避けるのは難しいだろうと予想されていた。

 

 その第一戦はスカンディナヴィア山脈を北上して、なかごろに差しかかったあたりだった。地形の凹凸に富んだ地形を利用して、クロスボーン・バンガードは奇襲をしかけてきたのである。

 

 ここで迂闊に戦力を消耗するわけにはいかないアーガマR隊は、アーガマRのビームシールドを利用して、前面に押しだした。

 

 相手はエスパドン六機とバルバール六機を含む編隊であった。

 

「き、きた……!」

 

 ケネスのガンチェイスに、エスパドンがビームショットランスを向けながら突撃をしかけてくる。

 

 そのエスパドンの足元めがけて、ビームランチャーを放ったのがラウニの駆るガンレイサーであった。しかし、すんでのところで察知したエスパドンは軌道を変えて、攻撃をかわす。

 

「助かりました。ラウニ少尉」

 

 そのおかげでケネスへの攻撃はそれた。ケネスはその礼をいった。

 

「生き残りたければ、もっと動きまわりなさい。こう何度も助けてあげられるとはかぎらないのよ」

 

 ラウニはそれだけいって、ケネスのガンチェイスから離れた。

 

「きついお言葉……」

 

 ケネスはそうぼやいて、戦場へ戻っていく。

 

 ラウニのアドバイスは、エスパドンの攻撃が直線的な傾向にあり、曲線的な動きに対しては、反応が鈍くなることを見抜いての発言であった。

 

 一機のエスパドンがガンレイサーを狙いを定めて、特攻をしかけようとする。しかし縦横無尽にフライトボードで空中を動きまわるガンレイサーは、その照準にいってきてくれない。

 

 エスパドンはビームショットランスのモードを切りかえて、拡散ビーム砲を放つ。ガンレイサーもそれを狙っていたかのように急上昇をはじめ、そのままビームスピアで斬りかかる。その攻撃はエスパドンの装甲をかすめるも、ダメージをあたえるには至らなかっ

た。

 

「相変わらず硬いわね……」

 

 ラウニは苦々しい表情を浮かべながら、舌打ちをする。パターンが読めたからといって、こちらの攻撃が通じないのであれば意味はない。

 

 他の部隊をも同じく苦戦を強いられている状況のなか、シンクとシャルナの姿がその戦場には、見あたらなかった。

 

 

   ――◇◇◇――

 

 

 アーガマRの格納庫でシンクとシャルナは、F92の調整が終わるのを待っていた。

 

「気持ちはわかるけど、焦ってもしょうがないでしょ」

 

 強ばった表情を浮かべるシンクの手を、シャルナが撫でるようにして握る。

 

「わかってるつもりなんだけどな。こうやってじっとさせられるってのは、性じゃないっていうか……」

 

 アーガマRの外で戦いが起こっているというのに、任せっきりにしなければならないのはシンクにとって、苦痛であった。

 

「ありがちなセリフだけど、皆を信じて待つしかないんじゃない?」

 

 シンクはシャルナから顔を背けながら「ああ」とだけ生返事を返した。

 

「そういえば新型ってコードはF92になっているけど、実質はJの後継機なのよね?」

 

「らしいな。バイオコンピューター以外は、F91の設計思想はあまり取り入れられていない感じだ」

 

 F92は二機存在する。そして各機ににシンクとシャルナが乗るということになっていた。F92はサナリィ製オキスタンフレーム搭載した実験機であると同時に、遠隔式BWCSの実験機としての性格も兼ねていた。遠隔式BWCSとは、二機のF92が円滑に連携をとれるようにと考案された、Jに搭載されたBWCSに応用を利かせたものである。つまり二人の距離がある程度離れていても、BWCSの効果が得られるようになったわけである。

 

「あとね。シンクの機体のコード名はマリ、私の機体のコード名はファムでいくそうよ」

 

「マリとファム、か」

 

 二機のF92の基本構造はまったく同じものであったが、装備している兵装などで、外見にところどころ差異が見られた。実弾兵器仕様の機体をマリ、ビーム兵器仕様の機体をファムと呼ぶことになったのである。

 

「01とか02とかで呼ぶのは、無粋だって理由らしいわよ」

 

 そういってシャルナは優しげに笑いかけてくる。その表情ははにかんで、どこか照れくさそうだった。

 

「他意はないんだろうけど、なんだか恥ずかしい名前だな」

 

「いいじゃない。私は嫌いじゃないわよ。マリは夫で、ファムは妻――この機体を表す言葉としては、ある意味的確だわ」

 

「そうかもな」

 

 シンクはそういって笑いだす。シャルナと話しているうちに、気分も次第に紛れていくようだった。

 

「よし。機体の調整が終わったぞ。シンクとシャルナは準備をしてくれ!」

 

 しばらくの会話ののちに、トマスから呼びだしがかかった。

 

 それは出撃の合図でもあった。

 

 

   ――◇◇◇――

 

 

 クロスボーン・バンガードの部隊がアーガマRから、新たに二機の機影を確認した。マリとファムである。

 

 白を基調とした二機――マリとファムが高速で戦線に向かってくる。

 

 待ちかまえていたエスパドンの一機が、射程圏内に入るとともに攻撃をはじめる。

 

 マリとファムは拡散ビーム砲を左右にわかれて、避ける。二機は十八メートル近くあるサイズであるはずなのに、その動きは機敏であった。

 

 ファムのほうが正面からビームライフルを撃ってくる。それをエスパドンはビームシールドで防御をする。

 

 防御でエスパドンが動きを止めたところを、もうマリが横から蹴りで、エスパドンをバッファから振り落とす。

 

 エスパドンは反撃のために体勢を立て直し、バッファから振り落としたマリに面と向かう。いうなれば、それがエスパドンのパイロットにとっては仇となってしまった。

 

 マリから放たれたライフルの弾がエスパドンの胸部部分の装甲に直撃したと同時に、破裂し、アルミュールをはじき飛ばしてしまったのである。この弾丸の正体は炸裂弾であり、装甲に着弾したと同時に内臓された火薬が爆発する仕組みであった。射程と弾速には難のある兵器であるが、アルミュール装甲を吹き飛ばすことはできた。

 

 胸部部分を破壊されたエスパドンは、アルミュール装甲をすべてパージさせる。これによって機体の重量を軽減させることができ、機動力の向上も望める。

 

 その間にマリは狙いを変更して、そのエスパドンの相手はファムが引き受ける。

 

 先手はファムであった。ファムは持っていたビームライフルをビームサーベルにして斬りかかる。

 

 エスパドンはビームショットランスで、そのサーベルを防御しようとするも、そのサーベルはもろともせずに、機体ごとランスも縦に切り裂いてしまったのであった。

 

 その一方でマリはバッファのコントロールを奪って、べつのエスパドンのバッファにぶつけて両方を破壊して、べつのエスパドンに狙いを定める。

 

 先ほどのライフルで牽制し、それを防いだエスパドンは畳みかけるために突撃をかけてくる。

 

 対してマリは避けようともせずに、右手に持っていた実刃の槍を構えて迎え撃とうとする。エスパドンの性能を過信していたパイロットは、それに気をよくしてしまい、加速をかける。ビームシールドを張った状態で、機体をぶつけようという魂胆である。

 

 双方が肉迫する刹那、黒銀の刃の槍はビームシールドを突き破って、アルミュール装甲とコクピットをも貫通する。加速をつけすぎたのが仇となったのである。

 

 それでもおそるべきはエスパドンの突撃を正面から受けても、耐えきってしまったマリの頑強さであろうか。

 

 先ほどバッファを潰されたエスパドンも、すでに撃墜されており、エスパドンの残機は三機にまで減っていた。

 

 これにより戦いの流れは、アーガマRに移行――クロスボーン・バンガードの部隊を制圧したのは、間もなくのことであった。

 

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