日中であるのに鉄仮面のいる部屋が暗いのは、日光をカーテンによって排除したからである。燭台に灯されたローソクの明かりが唯一の標として、その顔を覆う鉄の面の象を浮かびあがらせていた。
彼はスペースコロニーで行っていた実験の報告を子飼いのジレから受け、喜びに打ち震えていた。
自動機械による人間の粛正――即ちバグは、成功であった。報告によればサイド2にあるコロニーの一つがバグによって壊滅したというのである。
「これで計画を次の段階に移せるというものだ」
普段、感情をむきだしにしない男がニタリ声で、独りごちる姿はひと言でいえば不気味であった。その顔を仮面で覆っているからことさらである。
「バグ・スパイダーの開発は間に合うのか?」
「いまのところ予定どおりに進んでいます。あとラフレシアの改修も終わっています。こ
れでラフレシアを重力圏内で運用できます」
ジレは淡々とした口調で、報告を続ける。
「私の頭上に戴く王冠が完成したか。あとはバグ・スパイダーを完成させ、ここに千年王国の礎を築くだけだ。これによって人類はエゴを自らで制しながら生きるようになる。それによって、はじめて人類は地球への帰属が許されるのだよ」
人間の果てしない欲求に答えていくのでは、それは破滅である。自戒のない種族は遅かれ早かれ滅ぶ。楽園を創りだすのは困難であるが、地獄を創造するのは安い。少なくとも鉄仮面はその手段に関して自信を持っていた。
「このフィンランドを人類唯一の安息の地とし、それ以外のアースノイドは抹殺する。しかも機械による粛正は良心を痛めることもない。完璧な計画だよ」
それは鉄仮面なりのビジョンを持ったことに寄与する発言であった。彼は百億を越える人口の中で行われた、民族統合は結果的に人間という生き物の多様性を奪った人類史上最大の愚行であるという認識を持っていた。
民族統合が許されるのは、人口というものがもっと少ないときに行われるべきで、百億もいる人間が単一になるということは、結果的に生き物としての価値を下げてしまった。
命の価値は等価であるが、その総数は増えてしまうことによって種族としての命の価値は下がる。宇宙世紀という時代は人間という生き物の命の価値をおとしめたのだ。
絶滅危惧種などがそのいい例であろう。その総数が少ないことによって保護対象に入った。希少価値に価値をつけたのは人類そのものである。ならば単一種族となって宇宙という厳しい空間にあがったにも関わらず、こうして怠慢によって増えるだけの人類の命のひとつひとつに尊厳などあるのだろうか。
「五十億の人間が死んでも、まだ五十億いるのだよ。ひとつの種族が滅ぶことは、悲しむべきことだ。しかし、単一種族になった人類には、それは然るべき措置であろう。自浄作用を自ら働かせない種族に対しての虐殺とは、肯定されるべきなのだ。ギレン・ザビの行いは正しかったと、私は断言しよう」