第七十話『風に触れて』
午前十時。ラップランド――核弾頭保管施設にファランゾートが到着した。
そこはすでに襲撃されたあとのようで、あちこちの施設に弾痕のあとが見えた。
「遅かったようね……」
シャルナが足元に臨む風景を眺めて、そういった。
「やったのはクロスボーン・バンガードの連中なのか?」
シンクが口を開く。見れば核弾頭が保管してある倉庫だけ、ほとんど無傷の状態である。あきらかに核弾頭を狙った犯行である。
「それ以外は考えられないと思うけど……」
「この核弾頭施設は連邦軍のなかでも機密情報だって聞いたのに。それがなんでクロスボーン・バンガードに嗅ぎつけられるんだ?」
「地球連邦のなかに情報を流している人間がいるんでしょ」
「だからってクロスボーン・バンガードみたいな連中と取引してしまうなんて……」
「正気とは思えないけど、それがいまの地球連邦なんでしょう」
「もしかして戦闘がいままで起こらなかったのは、クロスボーン・バンガードが核弾頭施設に戦力を集中させてたってことか」
「だったらおかしくない?」
クロスボーン・バンガードが連邦軍に対しての牽制に核兵器がいるというのなら、どうして施設から持ちだす必要があるのかということだ。核兵器はその威力ゆえに使用場所をどうしても限定する。なにより牽制が目的なら、この施設を占領するだけでことはすむはずである。
「つまり、クロスボーン・バンガードは核を使う気があるってことか……」
もしそれが本当ならばと、シンクは背筋に冷たいものが伝うのを感じていた。
第七十一話『天上の導き手』
《天上の導き手》というのは、一年戦争の終結後にできた反政府組織である。その目的は北欧――とりわけ活動拠点であったフィンランドを地球連邦から独立させることであった。
その大義名分は、ナショナリズムの回帰に支えられたものだが、その実は中流階級と貧民層の地球連邦への不満が形になったものであった。
まず第一に地球連邦の黎明にあたり、その代表的な政策として宇宙移民――いわゆる棄民政策があげられる。その一環に各地で再開発が行われ、地価が跳ねあがった。それに伴
い物価も高騰し、一般家庭の大半が生活に困窮していった。
第二に産業が地球から宇宙へ移行していったことがあげられる。その結果、地球での産業は一気に減退した。
そして彼らを決起に導いたもっともな要因は、一年戦争であった。地球連邦の設立は人類に永久の平和を約束するはずだったものが、実際に戦争は起こってしまった。またジオン公国の独立宣言は、彼らの大地のうえで生きる者たちのナショナリズムを刺激した。
設立当初の《天上の導き手》の主な活動といえば、せいぜい小規模な集会を開いたり、ビラをばらまくくらいのものであった。
その趣が変わってきたのは宇宙世紀も100年を過ぎたあたりである。組織に武器が持ちこまれたのである。武器は人間にとって凶器であり、過ぎた力はは狂気をあたえる。小規模だったデモも規模が膨れあがり、過激になっていった。さすがに連邦軍も黙認するわけにいかなくなり、幾度となく衝突が起こった。もともと組織とはいっても統制があったわけではなかった。北欧は不穏な空気に包まれていった。
その混乱に終止符を打ったのがオディノ・オウルと呼ばれる男であった。その男は颯爽と現れ、《天上の導き手》のトップに躍りでた。彼は統制のなかった組織に秩序をあたえ、各地で起こる暴動を鎮めてしまった。それ以降は潜伏し、表だった活動をしなくなっていった。
彼らが再び行動を起こしたのは、クロスボーン・バンガードがコスモバビロニアを建国宣言したのちであった。《天上の導き手》の目的はあくまで独立である。それは連邦だろうが、コスモバビロニアだろうが変わることはない。コスモバビロニアは彼らの怒りを買ってしまったのである。
しかしコスモバビロニアに対して抵抗運動をするには、行動に移せるだけの資金、なにより時間がなかった。そのため十分な武器が揃わなかったのである。
そこで彼らはヘルシンキに南下してくるアーガマRの部隊と接触を図ったのであった。