鉄仮面は部隊を直接率いてバルト海の防衛にまわった。そして右腕のドレルは南下する連邦軍に打ってでた。
アーガマRは南下してくる連邦軍と合流し、そのまま切り込む隊長として最前線に立った。
北上部隊の上陸作戦が夜明けであるのに対し、南下する連邦軍がしかけたのは夜間である。南下部隊の狙いは闇夜に紛れた奇襲である。数では少ない南下部隊でも、クロスボーン・バンガードの本隊とやりあわなければならないときの保険であった。
空には満月が戦いの行く末を見守るように顔を覗かせている。
連邦軍の動きに察知したクロスボーン・バンガードも動きだす。その戦闘に立つのはドレル・ロナが駆る《ルー・ガルー》であった。フロンティア1で奪取したF91を改修したもので、その外観からはかつての面影は見あたらない。
「角あり、右腕の借りをここでかえそう」
ドレルがマリとファムを見つけると、怒りのこもった口調でつぶやいた。前の戦いでルー・ガルーはマリに右腕を討たれて敗走したのである。それがドレルのプライドに傷をつけたのである。
一方でマリとファムもルー・ガルーに狙いをつけたようで、ルー・ガルーのいるほうへ一直線に向かっていく。
「シャルナ、手はず通りにやるぞ」
「ええ、ここで確実にしとめるわ」
マリはシルフを取りだし、ルー・ガルーを狙撃するための準備を整える。対するファムは、背部のリーブルをパージし、装備を最小限にまで少なくさせる。少しでも機動力をあげるために機体を軽くするのが狙いである。
「今宵が満月であることを幸運に思うぞ!」
しかし、ドレルは気にした様子はなく、むしろ月を見ながら高笑いをはじめた。それとともにルー・ガルーは光に包まれ、その姿がだんだんと変化を見せていく。それとともに獣の雄叫びのような音がルー・ガルーから響きだす。その外見はモビルスーツというより映画にでてくる人狼のようであった。機体を覆う体毛のようなものがまさにそれである。
「これも金属剥離効果の一種なのさ。そして降りそそぐ月の光がルー・ガルーにさらなる力をあたえてくれるのだ」
ドレルは愉快そうに張り叫んだ。マリとファムを圧倒する機体速度に残像効果でルー・ガルーは、二機を翻弄しようとする。しかし、BWCSはその残像とルー・ガルーの本体を的確に見わけていた。問題はその常軌を逸した機体速度のせいで、ルー・ガルーを捉えることができないことである。
「あの機体、前の時より速くなってる……?」
そういってつぶやいたシンクはもはやルー・ガルーを目で追うのをやめていた。それはシャルナも同じで、BWCSの効果と直感だけでルー・ガルーの攻撃をかわしていた。
ただし前回とちがうのはシャルナがいるということだ。前回はシャルナとの距離が離れていたために、BWCSの効果が十分に得られなかった。しかし、今回はBWCSの能力を最大限までに使って、ルー・ガルーの相手ができた。シンクとシャルナにはそのぶんだけの余裕ができていた。
シャルナはシンクをかばいながら、ルー・ガルーの相手を一手に引き受ける。一方のシンクはシルフで狙撃するだけに専念する。比較的に重装甲なマリに対し、軽量なファムのほうがルー・ガルーの機体速度にもなんとか対応できるからである。
「はずれた……!」
マリの扱う兵器でもっとも弾速が速いはずのシルフだが、それでもルー・ガルーを捉えることはできなかった。今回は整備不良なのではなく、単純にルー・ガルーの機体速度が速すぎるのである。
「当たらないのなら、相手の先を読むしかないわ!」
「したらば!」
シンクとシャルナはほぼ同時に叫ぶとともに、各々に動きだす。
シャルナはルー・ガルーをシンクから引き離すように動きまわり、その間にシンクは照準を合わせる。シルフを当てるのに、ルー・ガルーの動きを追っているだけではどうにもならない。機体の軌道を読み、先じてそこに撃ちこなければならない。そのためには感覚をより鋭角化させ、シャルナと心を通わせる必要があった。
視界が徐々に暗転し、ルー・ガルーの像だけが視界を通る。ルー・ガルーの動きには一定の法則があった。それはターゲットを中心に円を描きながら攻撃をしていることだ。いくら俊敏なルー・ガルーも高速移動時には急な切り返しは、不可能なようであった。
「二発で決める」
そういって撃った一発はルー・ガルーの機体を掠めるだけで、通りすぎた。ドレルはそれに気にした様子はなく、相変わらずファムへ攻撃を集中させる。ドレルは動きの速いファムを潰すほうが容易であると判断したのだ。
ファムの肩をルー・ガルーのビームが掠る。それと同時に反対側の肩口からシルフの弾丸が通りすぎ、そのままルー・ガルーの機体に直撃した。
ドレルはなにが起こったかもわからないまま、機体ごと四散したのであった。
「憑きものは墜としたか……」
満月が見おろすなか、南下部隊は確実にヘルシンキへ近づきつつあった。