第九十三話『三方向攻撃』
ヴラシオ攻略戦が開始された。
連邦軍は三方向からヴラシオを攻めたてる布陣をとった。そのうちのどれかがヴラシオに取りつき、内部をそのまま占拠し、浸入できなかった部隊はそのまま囮になるというシンプルな作戦である。
連邦軍は新型のガンチェイスの製造が十分に間に合わなかったため、どうしてもジェガンなどを交えた混成部隊という編成になった。
その旧式のジェガンにはラファールなどのモビルアーマーの連携をよりスムーズに行えるように若干の改良と、カラーリングが白に変更された。
対するアークジオンはバルバールを主力とし、隊長機にエグゾセ、他にエスパドンの部隊も見受けられた。
エスパドンとはもともとアークジオンで開発されたもので、クロスボーン・バンガードは横流しされた機体を使っていたにすぎない。ただ、アークジオンのモビルスーツの総数に比べ、その数が少ないのは量産機でありながら生産コストが割高であることがあげられる。そういった理由からもエスパドンへ搭乗は、アークジオンでも相当に腕の立つ者にしか許されていない。
連邦の数に任せた三方向攻撃は、持久戦になることでその効果を発揮しだしていた。アークジオンのモビルスーツの性能は連邦軍の使っているものに比べれば、あきらかに高い。
だが、連邦軍には物量があった。数の力の強みは点をも覆い尽くす荒波のごとく力である。バグと海賊の件で痛手を負った連邦軍だったが、それでも数ではアークジオンに勝っていたのだ。
アークジオンが連邦軍に対し、核の一撃を放ったのはそんなタイミングであった。それによりヴラシオ侵攻の歩みは大きく後退することになる。
アークジオンが核兵器を持ち、それをなんのためらいもなく移す姿に、連邦軍は恐怖を抱いた。
戦力を削られた連邦軍はヴラシオへの侵攻速度を落とした。その時間は致命的で、第一次防衛ラインを突破される。
これにより連邦軍は次の段階に移行することになった。コロニーレーザーによる照射でヴラシオを破壊するのである。
もう連邦軍にあとはない。最後の戦いがはじまろうとしていた。
第九十四話『約束』
コロニーレーザーによるヴラシオの破壊作戦に移行され、連邦軍も照射時間のギリギリまで軍を展開することになった。時間稼ぎが主な目的である。
出撃していたシンクとシャルナもファランゾートで補給を受け、休憩をしていた。
「アーガマRは健在。他のパイロットの生存も確認されたわ」
戻るなりユーナがシンクたちに報告をした。先ほどの核兵器で前線部隊の統制に乱れがあり、一時期に情報の錯綜が生じためだ。
「シンクの呼びかけがなかったら、被害はもっと増えていたでしょうね」
「BWCSのおかげですよ。そうじゃないとただの子供の俺たちがここまで生き残れた理由が説明できません」
シンクの謙遜じみたいいようにユーナは苦笑いを浮かべる。
「でも、ヒトがいなければ機械は動かないわ。それをどう使うかは扱うヒトしだいでしょ。そして、あなたはその機械を命を守るために使っている。それはヒトとして大切なことだと思うわ」
シンクはユーナが自分を褒めてくれているのだと気づくと、胸にくすぐったくなった。
「そろそろ出撃準備に入りますね」
シンクは落ちつかなくなり、ブリッジをあとにする。それをエイミが追っていった。
「シンク!」
エイミに呼びとめられ、シンクはふり向いた。
「どうしたんだ?」
「……シンクは生きて帰ってくるよね。お父さんやお母さんたちみたいに置いていかないよね?」
そういってエイミはシンクの体にしがみついてくる。シンクがモビルスーツで出撃することを制止しようとしているのだ。
「エイミは大きくなったよ。もう十三歳になったんだしな」
「覚えてたんだ……」
「何年の付き合いなんだよ? お互いさ」
シンクはそういって懐から小箱をとりだし、エイミに差しだした。
「エイミは一人でも大丈夫だ。俺も安心して出撃できる」
シンクはエイミを優しく抱きかかえる。
「また会えるなんて約束はできないけど、どこかでまた会えたらいいな」
シンクはエイミをそっと引き離し、その場をあとにした。
「エイミ」
入れ替わるように名を呼んだのはシャルナだった。エイミが記憶するかぎり、シャルナに名前をまともに呼ばれたのはこれがはじめてだった。
「じゃあね」
シャルナは多くを語らずに、笑顔を残して去っていった。エイミはそんなシャルナにひと言もかえせなかった。
エイミの目からふと涙が溢れる。それをぬぐってブリッジに戻ろうとすると、そこにはマウロが佇んでいた。
「バカ……」
同年代の少年が見せる不器用さがいまは少しだけ心地よかった。