第九十九話『悪夢の花』
オール・ブトンの攻撃を受けて、マリとファムは引き離され、シャルナは一人でオール・ブトンの相手をしなければならなかった。
「ったく、しつこい男は嫌われるわよ」
シャルナはオール・ブトンのビーム砲をかいくぐりリーブルで反撃する。リーブルはマリのシルフと同じ構想のもと開発された兵器で、よりエネルギー効率を向上させ、それでいてヴェスバーの威力に匹敵するビーム兵器を開発された兵器であった。
貫通力において優れるリーブルであったが、オール・ブトンは手のひらを広げてそのビームを受けとめてしまった。
シャルナは引きおこった現象に思わず声をあげる。そうしている間にオール・ブトンはその距離を詰め、その巨大な両手でファムの機体を掴もうとした。
シャルナはなんとか両手をかわし、距離をとろうとする。だが、攻撃を完全にかわしきれずに左足が掴まれて、握りつぶされてしまう。
それでバランスを崩したファムへさらに追い打ちがかけられる。
まさにオール・ブトンの右腕がファムを捉えようとしていた。
シャルナはそれにリーブルを投げつけて、気を散らせ、その隙に距離をとる。
そうしている間に連邦軍の部隊が近づいてくる。隊長機にガンチェイスを据え、他はヘビーガンで構成された部隊である。その部隊が一斉にオール・ブトンに向かって攻撃をしかけていく。
「ダメ! あれは命を吸いとる輝きよ。近づかないで!」
しかしシャルナの声は届かず、オール・ブトンとの交戦にはいっていく。オール・ブトンの左手から放たれるビーム砲が数機のヘビーガンを灼き、右腕は隊長機のガンチェイスを握りつぶしてしまう。
「無駄死にをしないで!」
その攻撃からかろうじて生き残ったヘビーガンのパイロットをシャルナは押しとどめる。
『だが、ヤツに仲間が!』
「弔い合戦をやるにしても、いまの状況をもっと考えて!」
『しかし、ここであの機体をくい止めなければ、こちらの被害がさらに増えるぞ』
「わかってるわ。だから、あなたたちはさがって。あの機体の相手は私がするわ」
『しかし、そちらも手負いではないか』
「たくさん無駄死にするよりもいいでしょ!」
そういってシャルナはオール・ブトンの気をこちらにまわさせるために、ビームライフルで攻撃する。
するとオール・ブトンはまたファムを追いかけはじめた。
『すまん……』
連邦軍の兵士の声がふと聞こえた気がした。
第百話『互い違えて』
その差し伸べられる手はアイラを孤独からの解放を約束するものであった。だからこそ、アイラはその誘惑を払わねばならかった。
かつての仲間の仇を討つことが彼女の生き甲斐であり、理由だ。それを胸に刻みこんでいままで生きてきた。
連邦軍にいる自分たちを売った人間に復讐する。そう誓ったはずだった。
そんなときに出会ったのがジュピトリス7の子供たちだった。
アーガマRは軍艦らしからぬ空気を漂わせ、辟易させられる日々もあった。
それでもアイラにとっては久々に感じたヒトの暖かさであった。
ときにその心地のよさに埋没してもいいと考えたこともあった気がする。
(私は本当にこんなことがしたかったのだろうか? 手に入れたのは偽りの名前じゃないか)
自分は恐ろしかったのだろう。シンク・アルファードという少年が。ニュータイプなど戯れ言でしかないといまでも思っている。しかし、それでもシンク・アルファードの見せたモビルスーツ適応は、強化人間の自分を否定しているようだった。この少年がいつか自分の居場所まで奪っていくのではないかと、そればかり考えるようになっていった。
「もう、あそこに私の居場所はないんだ……」
顔をあげたさきには右腕と右脚をもがれたマリの姿があった。もうロクな兵装も残っていないだろう。いまなら簡単に倒せる。
「なんでそうやって決めつけるんだ。アイラは俺たちの仲間だろ?」
「なんだってそういいきれるんだ。私は地球潰しをやる人間だぞ」
「だから、止めてみせる。アイラにそんなことはさせられない」
アイラはその言葉に思わず笑いだしてしまった。とにかくおかしくてしょうがなかった。
「お前はまだそんなこといってるの? もうコロニーレーザーの照射時間はとっくに過ぎているというのに?」
「なんだって?」
「こうなったらヴラシオは地球に落ちるしかない。無駄なんだよあんたがやろうとしていることは……」
アイラの虚しい笑い声が戦場を木霊する。
『シンク、逃げて!』
シャルナの声がシンクに響いたのはそのときであった。
「ヴェイナス・ベイ、よくぞ釘付けにしてくれた。ガンダム、いだだいたぞ!」
マリの目の前巨大な腕をふりかざすオール・ブトンがふさぐ。
「しまった!」
シンクが叫ぶ。そのときにはオール・ブトンの両手がマリを包みこんでしまっていた。