第百一話『アイラ死す』
広げられた腕はマリを確実に捉えていた。これはもうかわせない。シンクは覚悟を決めて目をつむったときである。
刹那、機体が大きく揺れ、シンクは思わず目をあける。すると、シンクは無事で、オール・ブトンの両手に収まっているのはアルバトロスであった。
「私はなにをしているんだ? なんで、シンクをかばったんだ?」
アイラは自問自答するが、答えは一向にかえってこなかった。
自分の名前を呼ぶ少年の声がふと聞こえる気がした。
『ヴェイナス、貴様どういうつもりか?』
バスティアが問いかけてくる。自分でも理解できないことがどうして他人に話せるというのか。アイラは自嘲気味に笑った。
「中尉殿にはお話できないこともあるのですよ」
『私は少佐だ! そしてガンダムを倒し、ヴラシオを地球に落とせば、私は二階級特進なのだよ』
「……最後はアークジオンだってこの手に収めてみせる?」
『そのとおりだ。そのためにはディリジャン・アズナブルだって倒してみせる! だ
からお前も私に協力したのではないのか?』
「もう、そんなことはどうでもいいのよ、中尉殿」
『貴様ぁ!』
バスティアの激昂とともにアルバトロスが少しずつ圧迫されていく。
「器量が小さいんだよ……」
アイラの涙が宙を舞う。自分にもまだ涙が流せるのだと、感心してしまった。
振りかえるとマリをファムが押しとどめる姿が見えた。シンクがきっと自分をバカ呼ばわりしているに違いない。
「みんな、ごめんね。でも、もう疲れたんだ。だから行っていいよね。そっち――」
そしてアイラの意識は弾け飛んだ。
第百二話『命の蕾』
爆散するアルバトロスをただ見ていることしかできなかった。そんなシンクに無気力だけが襲った。
「シンク、大丈夫?」
シャルナが心配して声をかけてくる。
「……大丈夫じゃないよ。地球もアイラも救えなかったんだから」
目の前にはオール・ブトンがいまだに健在であった。
「でも、いまは――」
「ああ、あの機体だけは倒しておかないと。あれは必要以上に命を奪いすぎる」
「ええ」
―◇◇◇―
オール・ブトンはしばらく静止していたが、それから再び動きだす。
『コクピットが暗い。メインカメラが死んだ? サブカメラもダメだというのか? おのれ! これではまわりが確認できんではないか!』
オール・ブトンは標的もいないのに急に腕を振りまわしだす。
『おのれぇ! ガンダムどこだ! お前を倒せば私はさらに出世できるのだ!』
バスティアは血眼になりながら探すような素振りを見せる。
――あっち。
それは幻なのか。目の前にヴェイナスが現れ、指さした。それと同時にわからなかったガンダムの気配がわかるようになっていく。感覚がシャープになっていくのを感じていた。
「ヴェイナスが私を導くか。まあいいだろう」
天は自分に味方をしているのだと、バスティアは確信した。
「ガンダム!」
―◇◇◇―
オール・ブトンがマリとファムに向かってくる。
「……聞こえたか?」
「お互い幻聴を聞いたのかしらね」
シンクとシャルナはオール・ブトンを見据える。
「すべての禍根は残さないようにって、アイラはいったよな」
「この戦場の中心へ行けばいいんでしょう」
「行くぞ、シャルナ!」
「死ぬまで離さないわ、その手を!」
マリとファム連れ添いながら、アークジオンの主力艦隊へ突貫していく。そしてオール・ブトンがその背後を追った。
彼らの向かう先にはディリジャン・アズナブルが指揮する主力艦アルヴィルダがあった。