ヴラシオの脱出劇から、アーガマRは無事にサナリィの月工場へ入港することができた。
通称サナリィ(S・N・R・I)とは海軍戦略研究所の略で、現在では小型モビルスーツの開発に着手しており、各業界から注目が集まっている。
「こいつが噂のJですか」
研究員の一人が興味深そうにしみじみと声をあげる。
「直に戦闘するところを何度も見せてもらったが、非常に完成度の高い機体だよ」
その研究員に対して、トマスが答える。
「これがあれば《F計画》の研究が進むのは間違いないでしょうね」
「それとこれを見てくれないか?」
「なんです?」
トマスがディスプレイを起ち上げると、そこにはモビルスーツの図面が浮かび上がった。
「Jの図面をもとに考えた量産型モビルスーツの図案なんだ」
「すごいじゃないですか。これならいまからでも着工できますよ」
「どうもJ自体がメンテナンス性と量産に重点をおいた機体だったみたいでな。俺はそれ
を少しいじっただけさ」
そしてトマスの脳裏に協力者であるシンクの顔がふとよぎる。この図面を完成できたの
は、彼の協力があってこそでもあった。
「この機体が採用されれば連邦で初のビームシールドを装備した量産機になるわけですね」
「まあ、すべては開発部長に見せてからになるがな」
二人が会話を交わしている間にJの肩アーマーに大砲のような形状をしたものが両肩にそれぞれ取り付けられようとしていた。
「それでJにヴェスバーを持たせるって話だけど、使い物になるのか?」
「現状で廃熱処理の問題があるせいで、F91のように二砲持たせることはできませんけどね」
「なるほど。右がヴェスバーで左が放熱フィンとバランサーになってるわけか」
「重量はかさみますが、バランサーを装備させたので、機体の安定性は向上しているはずです」
「あと補助スラスターにもなっていて、機動力もあがってる、か……。でも、いいところばかりじゃないんだろ?」
トマスのしたり顔に研究員は苦笑いを浮かべる。
「ヴェスバーという兵器自体が実験段階もいいところですからね。欠点がでるのはモノを使ってみてからになるでしょうね」
「たしかにパワーアップになるんだろうが、Jのジェネレーター自体はいじられてないのだから当然、稼働時間は減るな」
「でも、モビルスーツに戦艦の主砲級の威力のビーム兵器を搭載させるわけですから、それだけの付加価値は十分にあるかと」
トマスは「そうかもな……」とそっけなく返事をかえす。この研究員は、このJというモビルスーツの向かう場所が戦場の最前線であることをよく理解しているのだ。そこでなら必然的に戦闘回数も増え、より密度の高いデータがとれる。そのためなら実験段階の兵器ですらパイロットに使うことを強いるのだ。それは技術屋としての性であろうが、強要されるほうはたまったものではないだろう。
しかし、あのアイラとシンクならそれができるかもしれないなと、トマスは思った。ニュータイプなどただのオカルトだろうと思って信じようとしなかったが、あの二人を見れば信じなくてはいけないという気分にさせられるのである。
「さて、俺もそろそろ行くか」
「開発部長のところですか?」
「ああ、終わったら俺の帰還祝いにつきあえよ?」
トマスは、ニヤリと笑みを浮かべるのであった。