サナリィの月工場に到着して三日目、ソールとユーナはブライトに呼ぶ出され、アーガマRの艦長室にいた。
「ジュピトリス7の避難民が救出された?」
ソールは、その朗報に我が耳を疑った。
「うむ。ちょうど五日程前にアークジオンから、連邦に身柄を引き渡されたという話だ」
ジュピトリス7は撃沈したが、その中にはシンクたちのように無事になんとか脱出できた者も多数いた。その避難民となったジュピトリス7の乗組員を乗せた脱出艇は、アークジオンの艦隊に回収され、捕虜にされた。その中でアークジオンから逃げ出せたシンクたちは例外中の例外であったということだ。
そして大半が民間人ということもあり、ヴラシオ陥落の恩赦という形で、解放されることになったのだ。
「収容したのが五日前ということもあって、いま生存者の照合をしている最中でね。申し訳ないが、リストが届くのはまだ先になる。ご家族のことが心配だろうが、もう少しだけ我慢していただきたい」
ブライトは、できるだけ子供たちを刺激しないように、柔らかい口調でゆっくりと話した。ソールとユーナの表情を見るかぎり、取り乱している様子は見られない。家族の生存が確認できない状況では、判断のしようがないのだろう。
「そこで君たちに聞いておきたいことがあるのだが……」
「なんでしょう?」
「ジュピトリス7の難民はフロンティアサイドにあるフロンティア1に収容されている。そして四日後にアーガマRはフロンティア1に向けて出航することになっている」
「それは僕たちをフロンティア1にまで連れて行っていただけるということですか?」
「そうすれば直接、ご家族の安否も確認できる。なにより、いまは戦時中ということもあって、行動もだいぶ制限されるはずだ。このチャンスを逃せば、次の機会というのはかなり先になる」
「でも、このアーガマRに乗ってれば危険も多いんじゃないですか?」
ここで口を開いたのはユーナである。彼女にはこのアーガマRという戦艦が敵の注目を浴びているような気がしてしょうがないのであった。
そして、このブライト・ノアという人物は、それを理解してて自分達を誘っているのではないかと、ユーナは疑った。
(きっとシンクの力をアテにしてるんだ……)
それはユーナの直感であった。
「残念ながら安全な航行は保証できないな。だから今後のことを含めて、仲間たちと相談をして決めてくれればいい」
「……返事はいつまでに?」
「出航の一日前まで待とう」
「わかりました。少し仲間たちと話し合ってみます」
「そうしてくれ。私の話は以上だ」
「それでは失礼します」
ソールとユーナは一礼をして、艦長室を後にする。
ブライトは二人が去った後も、眉間にしわを寄せながら、二人のいた場所を見つめていた。
――◇◇◇――
アーガマRの一室に子供たちは集まっていた。今後のことを話し合うためである。
「何度も言うけど、俺はアーガマRに乗ってフロンティアサイドに向かうのは反対だ」
他の子供たちがアーガマRに乗ってフロンティアサイドに向かうことを賛成しているなかで、シンクだけが頑なに反対をしていた。
一室を包む張りつめた空気と、シンクに向けられる猜疑の視線――
そんな状態がかれこれ三十分以上もつづいていた。
「アーガマRは軍艦だぞ。それでフロンティアサイドまで同行しようなんて、正気とは思えないな」
「だからって、月で手をこまねいてるわけにもいかないだろう。少しでも早く家族の安否を確認したいのは、みんな同じなんだ」
そんなシンクをソールが先ほどから必死に説得していた。
「俺はフロンティアサイドに行くのを反対してるんじゃない。アーガマRに同行するのが反対だって言ってるんだ。軍艦がなんの利益も考えずに子供の同乗を許すなんて、あり得ないよ」
「わかってないのはシンクの方だ。いまはまわりと足並みを揃えるべきときだろう。お前のやってることはまわりに不安感を与えてるだけだ。もうジュピトリス7にいるときと状況はちがうんだ」
「シンクくんは、なんか勘違いしてないかい?」
ソールがシンクに苦言を呈するのに追随するように、ケネスが口をはさむ。
「……なに?」
「お前はモビルスーツに乗れて、いい気になってるんじゃないのって言ってるんだよ」
「なんだと……!」
いまにもケネスに飛びかかりそうになるシンクをエイミが抑えに入る。
「シンク、やめて! いまは争っているときじゃないでしょ!」
「とにかく。みんなで決めたことだ。足並みは無理矢理にでも揃えてももらう」
ソールは襟を正しながら、そう言い放つ。
シンクはソールに視線を向ける。睨みつけてくるわけでもないのに、ソールはその視線を受けて、思わず後ずさってしまった。
「どこへ行くの?」
シンクが子供たちから背を向けて、退室しようとするのをユーナが問いかける。
「フロンティアサイドに行くんでしょ? だったらモビルスーツの整備も念入りにしないと」
シンクはそれだけ告げて、退室してしまった。
「一応、納得はしてもらえたのかな?」
ソールは胸を撫で下ろしながら、ユーナを見る。
「それはわからないけど、協力はしてくれるということでしょう?」
「だったらやれやれなんだけどな」
ユーナとソールが互いに苦笑いを浮かべ合う。
「べつに乗りたくないって言うんなら、無理強いする必要はなかったんじゃないか?」
ケネスは気に入らないという表情を浮かべながら呟く。
「それは、いつも僕たちを守ってくれている人間に対して言う言葉じゃないだろ」
「それにブライト艦長は、シンクをアテにしているみたいだったから……」
「フン」
ケネスはもうたくさんだと思った。
「マウロ、行くぞ」
「え、でも……」
エイミと同じ歳の少年にケネスは、顎をしゃくって合図する。
「さっさとついてこい!」
「わ、わかったよ」
ケネスが怒鳴ると渋々という感じで、マウロはケネスとともに部屋から退室していった。
「相変わらずの腰巾着ね……」
先ほどの泣き顔はどこへやら。エイミは呆れたように呟いた。