祓っていいとも!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第7話(1)機密保持

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「はあ……」

 

 天馬さんと話をした3日後、そして、功人さんと話をした翌々日、さらに、ジャッキーさんと話をした翌日の昼休み、わたしは学食でため息をつく。

 

「隣に座ってもいいかい?」

 

「ええ……」

 

「失礼するよ♪」

 

 わたしの隣の席にデストロイ=ノリタカさんが腰をかける。宇宙飛行士が着るような服を身に纏っている。目立って目立ってしょうがない。案の定、わたしたちの周りの席には誰も座らず、多くの女子生徒たちが遠巻きにこちらを眺めている。3日前、一昨日、昨日と同じような状況だ。恥ずかしい。

 

「ふう……」

 

 わたしは再度ため息をつく。

 

「……どうしてこの辺りの席は空いているんだい?」

 

 ノリタカさんは首を傾げる。

 

「あなたがイケメンだからです」

 

 わたしは正直に伝えてみる。

 

「ははっ、そうか、なるほどね♪」

 

 納得しちゃったよ。なんか鼻につくな……。わたしはややムッとして黙り込む。

 

「……」

 

「まあ、手間が省けるというものだね」

 

「手間?」

 

「ああ、人払いのさ」

 

「人払い?」

 

「聞かれるとマズい話があるんだよ、機密保持が大事だからね、スペースポリスは……」

 

 ノリタカさんは自らの口元に右手の人差し指を添える。聞かれるとマズいのなら、学食でする話ではないだろう。大体、宇宙飛行士みたいな服を着て、これ見よがしにスペースポリス感を出しているじゃないか。スペースポリス感というのがなんなのかはわたし自身もよく分からないけれど……。

 

「えっと……」

 

「サイレンスは……」

 

「サ、サイレンス⁉」

 

 わたしは面食らってしまう。ノリタカさんは首を捻る。

 

「? どうしたんだい?」

 

「そ、それはこっちのセリフですよ、な、なんですか、いきなりサイレンスって……」

 

「いやだなあ、君のスペースポリスマンとしてのコードネームじゃないか。『サイレンス=シズカ』って、忘れたのかい?」

 

「あ、ああ……」

 

 そういえばそうだっけ。あれって決定事項なんだな……。

 

「サイレンスは……」

 

「いやいや、おかしいですって!」

 

 わたしは声を上げる。

 

「ふむ……では、『SS』は……」

 

「なんですか、SSって?」

 

「サイレンスシズカの略称だよ」

 

「略するのもおかしい気がしますし、そもそもこんな目立つ場所でコードネーム呼びなのがおかしいですよ!」

 

 わたしは再度声を上げる。

 

「……うむ、君の指摘はもっともかもしれないな……」

 

 ノリタカさんは顎に手を当てて頷く。

 

「っていうか、気づかなかったんですか……」

 

 わたしは呆れ気味の視線を送る。

 

「困ったな……」

 

「え?」

 

「問題発生だ……」

 

「も、問題?」

 

「ああ……」

 

 ノリタカさんは深刻な表情を浮かべて両ひじをテーブルにつき、両手を顔の前に組む。

 

「な、なんですか?」

 

「……お互いをどう呼び合うべきか……分からない」

 

「いやいや、簡単に分かるでしょう!」

 

 わたしは三度声を上げる。ノリタカさんは顔を上げてこちらを見る。

 

「ほう……どうやって?」

 

「名前で呼び合えば良いだけのことでしょう」

 

「名前?」

 

「ええ、下の名前です」

 

「なるほど……そうか、正直その発想はなかったな……」

 

「ええ……」

 

 マジか。よく宇宙空間から生き残ってこられたな、この人。実際に宇宙に行ったかどうかは知らないけれども。ノリタカさんが問うてくる。

 

「君は構わないのかい?」

 

「え? なにがですか?」

 

「お互いを名前で呼ぶことに関してだよ」

 

「べ、別に構いませんよ」

 

 普通の状況下で、他人をデストロイさん呼びするなんて、恥ずかし過ぎる。わたしはプロレス団体の事務職さんやお笑い芸人のマネージャーさんになったつもりはない。

 

「そうか……では、問題解決だな」

 

 ノリタカさんは笑顔を見せる。

 

「良かったですね……」

 

「ああ、シズカ、これからもバディとしてよろしく頼むよ」

 

「よ、よろしくお願いします……ノリタカさん……」

 

 つい、よろしくされてしまった。なし崩し的にわたしもスペースポリスマンなのだが……。しかし、バディって、相棒ってやつか。率直に言って嫌だな……。

 

「♪ 互いを名前で呼ぶと、それだけで親近感が増し、信頼関係も強まるものだね」

 

 簡単に強まる信頼関係だな。よく過酷な宇宙空間で困難な任務をこなせてこれたな。あれかな?デスクワークが主だったとかかな?まあ、それについて、深く掘り下げるのはやめておこう。スペースポリスマンに興味津々ガール扱いされてはたまったものではない。

 

「……そ、それじゃあ……」

 

 食事を手早く済ませたわたしは席を立とうとする。そう、今日も昼休みの最初の数分間を費やしてしまったのだ。今日はエイリアン退治だった。相手はイカのようなエイリアンだった。分裂などはしなかったのが幸いだった。そこまで時間はかからなかった。早く教室に戻って少しでもいいから体を休めたい。

 

「いや~しかし、見事な手際の良さだったよ」

 

「そ、それはどうも……」

 

「コメント欄にも世界中から称賛の声が集まっているよ……」

 

「は? コメント欄?」

 

「スペースポリス専用YouBroadチャンネルに君の活躍をアップしてね……」

 

「き、機密保持は⁉」

 

 わたしはこの昼休み何度目かの大声を上げる。

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