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「えっと……」
講堂で天馬さんと会った翌日の昼休み、わたしは校庭のど真ん中で途方にくれる。
「いやあ、待たせてしまったね、ミス静香」
振り返ると、功人さんが悠然とやってきた。
「……なんでしょうか?」
「いやあ、先日はライオン顔の怪人にしてやられてしまったからね……」
「ああ……」
「その反省をしつつ……次への対策を練らなくてはならないと考えたんだ」
「はあ……」
「ここまではいいかな?」
功人さんが小首を傾げる。
「……まあ、分かりましたが……」
「が?」
「何故に校庭?」
わたしは周囲を見回しながら問う。
「広い方が都合がいいからね」
「都合?」
「そう……暴れ回るにはね!」
「⁉」
功人さんがわたしに対してファイティングポーズを取る。
「行くぞ! アーユーレディ?」
「い、いや、ちょっと待ってください! どういうことですか⁉」
わたしは片手を突き出して、功人さんを制止しようとする。
「どうもこうもない!」
「どうもこうもあります!」
「……実戦あるのみということだよ!」
「ど、どこで実戦をするつもりですか⁉」
「他に広い場所が無いだろう!」
「ひ、人目に付き過ぎます!」
わたしは再び周囲を見回しながら叫ぶ。
「なに、かえって好都合というものさ!」
「わたしには大変不都合でございます!」
「……ホワイ?」
功人さんは理解出来ないといった様子で両手を大げさに広げる。
「な、何故って……」
「スーパーヒーローとスーパーヒロインのトレーニングだぞ? 周囲にとってはまさしくドリームマッチじゃないか」
「い、いや、あまり見られるのは……恥ずかしくないんですか?」
「良いモチベーションになるね」
ポ、ポジティブだな、わたしにはそういう考え方は出来ない。
「え、えっと……」
「ミス静香……ユーにとっては恥ずかしいことなのかい?」
「そ、そうですね……」
「なにも恥ずかしがることはないさ」
「ええ?」
功人さんが自らの胸をトントンと叩いてからまた両手を広げる。
「誇るべきだ、自らの力を……!」
「!」
「違うかい?」
「……違いますね」
「む?」
「自らの力をいたずらに誇示するべきではないと思います……!」
「‼」
功人さんが目を見開く。
「……」
「………」
「…………」
わたしと功人さんが見つめ合う。功人さんが腕を組んで頷きながら口を開く。
「……なるほど、それが日本のヒロイズムというわけか……」
「え?」
話がデカくなっているな。
「非常に興味深い……」
興味を持たれても。
「え、ええっとですね……」
「しかしだ、力の有り様を示すというのも大事なのではないかい?」
「は、はあ……」
わたしは困惑する。日米スーパーヒーロー比較論争をするつもりはさらさらない。
「……ふっ、まあいいさ、ここは君の考えを尊重しよう」
功人さんが端末らしきものを取り出し、なにやら操作する。
「あっ⁉」
わたしたちの周囲を黒いドームのような空間が包囲する。
「……周りからは私たちのしていることが見えない。これで良いだろう?」
いや、それはそれで問題があるような。
「う~ん……」
「なに、時間は取らせないさ。軽い手合わせといこうじゃないか」
「手合わせって言われても……何をすれば……」
「君の『四ヵ国語戦法』に興味がある……」
「え……?」
興味を持たれても。なんか適当に思いついたフレーズを叫んでいるだけなのだけれど。
「あらためて……行くぞ!」
「ええっ⁉」
「はあっ!」
功人さんがこちらに飛びかかってくる。マジか。とんだスーパーヒーローだな……などと考えている暇はない、迎撃しないと。
「や、焼き鳥!」
「うおっ⁉ な、なるほど、日本語は斬撃か……」
「フライドチキン!」
「ぬおっ⁉ 英語は銃撃……だが、懐に入った!」
「ジャージー!」
「どおっ⁉ 中国語は打撃……危ない、危ない、一旦距離を取って……」
「シャシュルィーク!」
「ふおっ⁉ ロシア語は爆撃か……だが、これですべてのパターンは出尽くした! あらためて懐に入らせてもらうよ!」
「ヤンニョムチキン!」
「ぐおっ⁉ か、韓国語……? な、なんという衝撃……き、聞いていないよ……」
功人さんがわたしの発した衝撃波を喰らって仰向けに倒れる。勝手に四ヶ国を限定しないでくれ。世界は広いんだからさ……っていうか、これは介抱しないとならないのかな……わたしの昼休みを返して欲しい。