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「えっと……」
講堂で天馬さんと会った翌々日、校庭で功人さんと会った翌日の昼休み、わたしは図書室で途方に暮れる。
「来たか、静香……」
ジャッキーさんが図書室に入ってきた。
「あ……」
「適当にかけてくれ」
「ええ……」
わたしは困惑する。
「? どうした?」
ジャッキーさんが首を傾げる。
「えっと……ご用件は?」
「ここは……書物を扱う部屋なのだろう?」
質問に質問で返された。
「まあ、そうですね……」
「学問を追求する部屋とも聞いたが?」
「まあまあ、そうですね……」
わたしはとりあえず頷く。追求した経験はないが。出来れば今後もそういう経験は訪れないでもらいたいものだ。
「ならば、おあつらえ向きではないか」
ジャッキーさんは両手を広げる。
「はい?」
「先の戦いの反省をしたいのだ」
「ああ……」
ジャッキーさんは椅子に腰かけ、机に両肘をつき、顔の前で両手を組む。
「あのモンスター……オーガに我は不覚をとってしまった……」
「鬼みたいなやつですね」
わたしは一応、ジャッキーさんの前の席に腰をかける。出来ればさっさとお暇したいところなのだけれども。
「鬼か……」
「違いますか?」
「いや……概ねそういう理解で構わない……」
ジャッキーさんは深々と頷く。
「そうですか」
「強力な相手だった……」
「オーク何体分ですかね?」
「……」
「あ、あれ?」
「オークとオーガ、名前の響きこそ似てはいるが、実態は似て非なるものだ。単純に比較計算出来るものではない……」
「あ、そ、そうですか……」
知らんかった。
「強力だったとはいえ……何故あのような不様を晒してしまったのか……」
「え、ええ……」
不様って。
「我は……己が恥ずかしい!」
ジャッキーさんは目を閉じて頭を下げる。どちらかといえば、恥ずかしいのはむしろわたしの方だと言いたくなったが、それは言わないこととする。
「そ、そんな風に考えるのはよくないと思いますよ?」
「む?」
ジャッキーさんが目を開ける。
「自分を責めてもどうにもなりません」
「ふむ……」
ジャッキーさんが頭を上げる。
「大事なのは次の機会にどうするのかです。幸いにも次があるわけですから……それについて考えを巡らせる方が建設的です」
「確かにな……」
ジャッキーさんが腕を自らの胸の前に組み直す。
「ね?」
「………」
「あら?」
「……静香」
「は、はい……」
「なかなか良いことを言うな」
ジャッキーさんが笑みを浮かべる。
「あ、ああ、それはどうも……」
わたしは自らの後頭部をポリポリと掻く。無難なことを言っただけなのだが。勇者さまに落ち込んでいてもらっても困るからな。案外正攻法が効いたようだ。
「我の元いた世界では……このように相談出来る相手がいなかったからな」
「え、ええ、そうなんですか?」
勇者さま、ぼっちだったのか。
「相談しなくても大体はなんとかなった」
「あ、ああ、そうですか……」
究極のワンマンか。まあ、それはそうか、なんてたって勇者だもんな。
「まあ、それはともかく……次の機会か……」
「え、ええ……」
「やはり己を磨くしかあるまい」
「磨く……ま、まあ、それはそうだと思いますが……」
「……力を貸してはもらえないだろうか?」
そう来ちゃったか。
「え、ええっと……」
「駄目か?」
「だ、駄目っていうか……わたしでは力不足じゃないかな~って……」
「そんなことはない」
「で、でも、手合わせ?みたいなのはやったことがありませんし……」
「技を披露してくれるだけで良い」
「は、はい?」
「見て覚える」
「そ、そう言われても……」
「早くしろ!」
「わあっ! か、『髪、切った?』」
ジャッキーさんがいきなり大声を出したため、驚いたわたしは右手に剣を発生させてしまい、ジャッキーさんの長髪をそこそこ切ってしまった。
「……ふむ、最近少々動きづらいと感じていた。これくらいの長さがちょうどいいだろう……礼を言う」
「え、ええ……」
己磨きってそういう意味かい。切った髪の片付けにも時間を取られた。わたしの昼休みを返して欲しい。