祓っていいとも!   作:阿弥陀乃トンマージ

32 / 32
第8話(3)図書室にて

                 ♢

 

「えっと……」

 

 講堂で天馬さんと会った翌々日、校庭で功人さんと会った翌日の昼休み、わたしは図書室で途方に暮れる。

 

「来たか、静香……」

 

 ジャッキーさんが図書室に入ってきた。

 

「あ……」

 

「適当にかけてくれ」

 

「ええ……」

 

 わたしは困惑する。

 

「? どうした?」

 

 ジャッキーさんが首を傾げる。

 

「えっと……ご用件は?」

 

「ここは……書物を扱う部屋なのだろう?」

 

 質問に質問で返された。

 

「まあ、そうですね……」

 

「学問を追求する部屋とも聞いたが?」

 

「まあまあ、そうですね……」

 

 わたしはとりあえず頷く。追求した経験はないが。出来れば今後もそういう経験は訪れないでもらいたいものだ。

 

「ならば、おあつらえ向きではないか」

 

 ジャッキーさんは両手を広げる。

 

「はい?」

 

「先の戦いの反省をしたいのだ」

 

「ああ……」

 

 ジャッキーさんは椅子に腰かけ、机に両肘をつき、顔の前で両手を組む。

 

「あのモンスター……オーガに我は不覚をとってしまった……」

 

「鬼みたいなやつですね」

 

 わたしは一応、ジャッキーさんの前の席に腰をかける。出来ればさっさとお暇したいところなのだけれども。

 

「鬼か……」

 

「違いますか?」

 

「いや……概ねそういう理解で構わない……」

 

 ジャッキーさんは深々と頷く。

 

「そうですか」

 

「強力な相手だった……」

 

「オーク何体分ですかね?」

 

「……」

 

「あ、あれ?」

 

「オークとオーガ、名前の響きこそ似てはいるが、実態は似て非なるものだ。単純に比較計算出来るものではない……」

 

「あ、そ、そうですか……」

 

 知らんかった。

 

「強力だったとはいえ……何故あのような不様を晒してしまったのか……」

 

「え、ええ……」

 

 不様って。

 

「我は……己が恥ずかしい!」

 

 ジャッキーさんは目を閉じて頭を下げる。どちらかといえば、恥ずかしいのはむしろわたしの方だと言いたくなったが、それは言わないこととする。

 

「そ、そんな風に考えるのはよくないと思いますよ?」

 

「む?」

 

 ジャッキーさんが目を開ける。

 

「自分を責めてもどうにもなりません」

 

「ふむ……」

 

 ジャッキーさんが頭を上げる。

 

「大事なのは次の機会にどうするのかです。幸いにも次があるわけですから……それについて考えを巡らせる方が建設的です」

 

「確かにな……」

 

 ジャッキーさんが腕を自らの胸の前に組み直す。

 

「ね?」

 

「………」

 

「あら?」

 

「……静香」

 

「は、はい……」

 

「なかなか良いことを言うな」

 

 ジャッキーさんが笑みを浮かべる。

 

「あ、ああ、それはどうも……」

 

 わたしは自らの後頭部をポリポリと掻く。無難なことを言っただけなのだが。勇者さまに落ち込んでいてもらっても困るからな。案外正攻法が効いたようだ。

 

「我の元いた世界では……このように相談出来る相手がいなかったからな」

 

「え、ええ、そうなんですか?」

 

 勇者さま、ぼっちだったのか。

 

「相談しなくても大体はなんとかなった」

 

「あ、ああ、そうですか……」

 

 究極のワンマンか。まあ、それはそうか、なんてたって勇者だもんな。

 

「まあ、それはともかく……次の機会か……」

 

「え、ええ……」

 

「やはり己を磨くしかあるまい」

 

「磨く……ま、まあ、それはそうだと思いますが……」

 

「……力を貸してはもらえないだろうか?」

 

 そう来ちゃったか。

 

「え、ええっと……」

 

「駄目か?」

 

「だ、駄目っていうか……わたしでは力不足じゃないかな~って……」

 

「そんなことはない」

 

「で、でも、手合わせ?みたいなのはやったことがありませんし……」

 

「技を披露してくれるだけで良い」

 

「は、はい?」

 

「見て覚える」

 

「そ、そう言われても……」

 

「早くしろ!」

 

「わあっ! か、『髪、切った?』」

 

 ジャッキーさんがいきなり大声を出したため、驚いたわたしは右手に剣を発生させてしまい、ジャッキーさんの長髪をそこそこ切ってしまった。

 

「……ふむ、最近少々動きづらいと感じていた。これくらいの長さがちょうどいいだろう……礼を言う」

 

「え、ええ……」

 

 己磨きってそういう意味かい。切った髪の片付けにも時間を取られた。わたしの昼休みを返して欲しい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。