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「えっと……」
講堂で天馬さんと会った4日前、校庭で功人さんと会った3日前、図書室でジャッキーさんと会った翌々日、屋上でノリタカさんと会った翌日の昼休み、わたしはピロティで途方に暮れる。
「おおっ、待たせたな」
ブレムさんがピロティに姿を現す。
「あの……」
「助けてくれ!」
ブレムさんがわたしの両肩をガシッと掴んで思い切り揺らす。
「な、なんですか、藪から棒に⁉」
「言ってみただけだ」
ブレムさんはニヤリと笑って、わたしの両肩から手を離す。
「……失礼します」
「あ、ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
「待ちません」
「いやいや、助けが欲しいのは本当なんだよ」
その場を立ち去ろうとしたわたしの目の前にブレムさんが回り込む。
「……」
「頼むよ……」
「……わたしが助けになることってないと思いますけど?」
「そんなことはないさ、静香ちゃんにしか頼めないことだ」
「はあ……?」
「お願い出来るか?」
「……一応聞くだけは聞きます」
「へへっ、そうこなくっちゃな」
ブレムさんはいたずらっ子のように笑う。
「なんですか?」
「先日の一件だよ」
「ああ……」
「あの片翼の天使にまんまとしてやられちまった……」
片翼の天使って、なんとも中二病感がする話題……わたしはキョロキョロとするが、周囲に人はいなかった。そうだ、ピロティってそういう空間だ。
「……ふう……」
わたしは安堵のため息をつく。
「なんだよ、キョロキョロして?」
「いえ……」
「それで片翼の天使が……」
「あ、あの!」
「ん?」
「か、片翼の天使ってやめません?」
「なんでだよ?」
「い、いや、なんとなく……」
「じゃあ……堕天使が……」
中二病感が増した!
「だ、堕天使って!」
「あん? だって、片翼だぜ? 堕天したやつだろう、どう考えても」
堕天も昇天も経験が無いから言い返せない。
「う、う~ん……そう呼ぶしかないのか……」
「なんだよ」
「いいです、続けてください」
ブレムさんは首を傾げながら話を続ける。
「? ……今度堕天使と遭遇した場合のシミュレーションをしとこうかと思ってな」
「シミュレーション?」
「そうだ」
「……わたし、必要ですか?」
「必要だよ」
「ええ?」
「現状は静香ちゃんしかあいつを撃退出来る可能性がないんだよ」
「そ、そんなことはないと思いますけど⁉」
「そんなことがあるんだよ」
「んなあこたあない!」
「んなあこたあある!」
わたしは大声を上げるが、ブレムさんはそれ以上の大声を出す。
「む、むう……」
「なんだよ、急に訛って……」
「し、失礼しました……」
「別に良いけどよ……とにかくだ、静香ちゃんがあいつを撃退した時を覚えているか?」
「えっと……」
「どうだ?」
「ペ、ペンダントに願いを込めて、イグアナと化して、噛みついて撃退しました……」
あらためて言語化してみると、さっぱり訳が分からない状況だ。
「……なんじゃそりゃ?」
「しょ、しょうがないでしょう⁉ そうなっちゃったんだから!」
「まあいいや、その方法を教えてくれ」
「え?」
「イグアナになる方法だよ」
「そ、そんなの分かりませんよ!」
「そうなのか?」
「ええ、無我夢中だったんですから!」
「ふむ……」
ブレムさんは自らの顎に手を添える。
「はあ……」
「……では、あれだ」
「あれ?」
わたしは首を傾げる。
「とりあえず形から入ろう」
「え?」
「静香ちゃん、イグアナの形態模写について教えてくれ」
「は、はあっ⁉」
何を言い出すんだこの人は。
「出来ないのか?」
「で、出来るわけないでしょう⁉」
「いやいや、なかなか見事なもんだったぜ」
「そんなことは……」
「どうすればいいんだ? 頼む、教えてくれ!」
「! こ、こう、前傾姿勢で……」
ブレムさんの真剣な眼差しにやられたのか、わたしはイグアナの形態模写について熱心にレクチャーをすることになった。わたしの昼休みを返して欲しい。