「一応確認させて頂きますが、最寄田静香さん……でお間違いはありませんね?」
「は、はい……」
わたしは戸惑いながらに頷く。
「はあ……少しばかり時間がかかってしまいましたが、やっとお逢い出来ました……」
小柄な身体に藍色のボディースーツ――全身タイツと言った方がしっくりくるかもしれない――に包んだヴァイオレット色の髪の少年は自らの胸に手を添えて、ほっとした様子で呟く。そう、少年なのだ。体つきはそれなりにたくましいが、それよりもまず、そのあどけない顔立ちに目を奪われる。ただ、目鼻立ちは良い。各々のストライクゾーンに入るかどうかは別としても、世の女性の多くは彼のことをイケメンだと判断するだろう。だがしかし……。
「……」
わたしは自然と距離を置こうとする。少年はそれに気が付いて、首を捻る。
「? どうかされましたか?」
「いや、なんというか……」
「ひょっとして……警戒されていますか?」
「ま、まあ、そうですね……」
数週間前の今日だし、それも仕方がないことだろう。わたしは素直に頷く。
「……自分は決して怪しいものではありません」
「そ、そうですか⁉」
わたしは思わず大声を上げてしまう。ブレザー姿の高校生が集まっている中、ピッチピッチの全身タイツを着ている少年は怪しい寄りだと思う。年代的には違和感は少ないが。
「そうです。ですからそんなに警戒しないで頂きたい」
「……何故、わたしの名前を知っているんですか?」
「それはもちろん、貴女に用事があるからです」
「用事?」
「ええ、そうです」
「……一応、伺いましょう」
「では……」
少年はタイツの袖をまくる。まるでロボットのような機械的な腕が覗く。
「え? ……? き、機械……?」
「ええ、自分は
「サ、サイボーグ⁉」
わたしは思いがけない自己紹介に驚く。
「そうです、ごくごく普通のな」
九十九と名乗った少年は頷く。
「サイボーグはごくごく普通ではありませんよ!」
「そうですか?」
「そうですよ! フィクションとかでしか見ませんよ」
「……東京はこんなにも巨大な街だというのに?」
九十九くんは両手を大きく広げて、周囲を見回す。
「はい」
「そちらの新宿駅は世界で一番の利用者数だと聞きますが?」
「そ、それはそうらしいですけど……」
「それならば中にはいるでしょう、サイボーグの一体や二体」
「た、体とか数えている時点で……そ、そうかもしれませんが……確認とかはしたことないから知らないですけど」
「それらしい反応はありますけどね……」
九十九くんはこめかみのあたりを抑えながら呟く。こっちが反応に困る。
「……あの、もういいですか? ホームルームが始まってしまいますので……」
わたしはその場から離れようとする。
「ちょっと待って……!」
「はい?」
わたしは呼び止められ、振り返ってしまう。
「………索敵開始……」
九十九くんはなにやらブツブツと呟きながら、周囲の様子を伺う。
「あ、あの……?」
「……ああ、とりあえずは大丈夫のようですね」
九十九くんは頷く。
「は、はあ……?」
「……そうですね……用件が終わった後またお話をしたいのですが……どうでしょう?」
「え、ええ……」
わたしは露骨に嫌な顔をしてしまう。九十九くんは苦笑する。
「怪しいものではありませんよ?」
「怪しいものしか着ないよ、全身タイツは」
わたしはついついタメ口で返してしまう。
「ぜ、全身タイツって……まあ、そういう言い方もあるかもしれませんが……」
九十九くんがタイツの襟の部分を引っ張りながら苦笑交じりで呟く。
「そもそも、サイボーグってなんですか?」
「サイバネティック・オーガニズムの略語です。サイバネティックは自動制御技術、オーガニズムは生体のことです」
「ロボットとは違うんですか?」
「異なります。ベースが生きた人間ですから」
「に、人間なんですか?」
「一応は」
「日本の方?」
「まあ、そう受け取って頂いても構いません」
「ええ……」
なに? その含みのある言い方……。しかし、サイボーグとはどうしたものか……。
「……いかがでしょうか」
「……失礼します」
「お待ちしております」
わたしは軽く会釈をし、その場を後にして、教室に向かう。午後になり、ホームルームも終わる。このあどけないイケメンと鉢合わせしたりしないように裏門から帰れば……。
「げっ……」
裏門から帰ろうとしたわたしは顔をしかめる。九十九くんが何故かいたからだ。
「どうも」
「……どうしてここに?」
「いや、自分もホームルームが早目に終わったので……この辺りを調査しておりました」
「……そ、そういえば、もしかしてなんですが……」
「ああ、自分はこの学園の転入生です」
「せ、制服を着なくて良いの?」
「特別に許可を頂きました」
全身タイツに許可出すなよ。 わたしは首を傾げた後、一応尋ねてみる。
「……調査とはなにを?」
「反応がないかを調べております」
「は、反応ですか?」
「そうです……お、この反応は……現れたな、ロボットだ。さあ、共に撃破しましょう」
「はいいいいいいっ⁉」
九十九くんの発言にわたしは驚く。