「さあ、さっさと撃退してしまいましょう!」
「え、えっと……」
「さあさあ!」
「う、う~ん……」
「レッツ……」
「い、いや……」
「ヒアウィーゴ―!」
「お断りします!」
「ええっ⁉」
わたしのはっきりとした拒否に九十九くんは当惑する。わたしは頭を下げる。
「い、いや、ごめんなさい、いきなり大声を出しちゃって……はしたない……」
「そ、それは別に……断る? 拒否するということですか?」
「え、ええ」
他に何があるというのだ。
「何故です?」
九十九くんは不思議そうに首を傾げる。
「何故って……」
「いいですか? 貴女には搭乗者ライセンスがあるんですよ?」
「いや、そう言われてもだね……」
「なにか問題が?」
「いや、問題だらけでしょう……」
わたしは自らの鼻の頭をポリポリと掻く。
「え?」
「まず、ライセンスを取得した覚えがないのだけれど……」
「ああ、そんなことですか」
「そ、そんなことって……」
「それなら大丈夫です」
「だ、大丈夫なの?」
「ええ、資格にふさわしい方には自動的に交付されるシステムですから」
「え、ええ?」
なんだその勝手なシステムは。
「よろしいですね?」
「……お金とかは? 後から請求されても困るわよ」
「いえいえ、無料で交付しております」
「そ、そう……」
やだ、いまどき良心的……って、そうじゃなくて。
「ではあらためて……よろしいでしょうか?」
「いや、ちょっと待って!」
「はい?」
「持ってないんだけど」
「何を?」
「いや、何をって……ライセンスよ。不携帯はマズいでしょう」
わたしはポケットのあたりをポンポンと叩く。
「ああ、それも大丈夫です」
「ええ?」
九十九くんはそっと自らの左胸あたりに手を添える。
「ライセンスは……それぞれの心の中にありますから……」
「ふざけんな!」
「は、はい?」
「い、いや、ごめんなさい……でも、勝手に人の心の中にわけのわからないものを……その、差し込んだりしないでくれる?」
「刻み込んだだけです」
「もっと質が悪いな」
九十九くんがふっと微笑む。
「まあまあ……」
「まあまあじゃないわよ」
「……そろそろ、よろしいでしょうか?」
「よろしくないって……」
「他に問題が?」
「最も重要な問題があるわよ」
「? 伺いましょう」
「わたしに搭乗する気がさらさらないってこと!」
「⁉」
九十九くんが愕然とする。わたしは首を傾げる。
「あ、あれ?」
「……」
「だ、大丈夫?」
「………」
「ちょ、ちょっと!」
「あ、失礼しました。あまりのことに思考回路がショート仕掛けておりました」
「あ、ああそうなの……」
サイボーグ結構脆いな。
「……………」
ロボットがゆっくりとこちらに接近してくる。わたしはそれを見て慌てる。
「ロ、ロボットが近づいてきているわ!」
「……ご提案があります」
「え?」
わたしは九十九くんに視線を戻す。
「今回はあくまでも試乗という形を取ってみてはどうでしょうか?」
「し、試乗?」
「そうです、試しにです」
「た、試しに……」
「そうです、無料です!」
「た、無料……」
タダというのに心が揺らいでしまった。
「いかがでしょう?」
「そ、それなら良いかな~?」
九十九くんがニコっと笑う。
「では、搭乗!」
「ああ、しまった⁉ ……⁉」
九十九くんが合図をすると、どこからともなく人型の巨大なロボットが現れて、両手でわたしたちをすくい上げ、内部に無理やり押し込む。
「……搭乗完了」
「こ、これは……⁉」
シートに座ったわたしはキョロキョロと周囲を見回す。どうやらコックピットのようだということは分かった。
「ロボットです」
「え、ええっ⁉」
「機体名は……『ジャングル』にしておきましょうか」
「ジャ、ジャングル?」
「この険しいコンクリートジャングルにちなみました」
九十九くんが新宿の街並みを指し示す。そう、コックピットから全周囲が見渡せるようになっているのだ。
「……!」
「あ、相手のロボットが迫ってくるわ!」
「問題ありません!」
「‼」
相手ロボットが両腕を振り回して襲いかかってきたが、九十九くんは慣れた様子で手元の操縦桿を操作し、ジャングルにパンチを放たせる。鋭いパンチを喰らって、相手ロボットは粉々に破壊された。
「! な、なんというパワー……!」
「お褒めに預かり光栄です……」
九十九くんが少し得意気な顔をする。
「…………!」
相手ロボットが頭部だけで飛びかかってきた。わたしは驚く。
「あ、頭だけで⁉」
相手ロボットの強烈な頭突きを喰らう。
「どわあっ⁉」
「きゃあっ⁉」
「……………!」
「ま、また攻撃しようとしている! あ、あれっ⁉」
「ぐっ……」
衝撃をモロに受けたのか、九十九くんが操縦桿から手を離してしまっている。
「ど、どうすんのよ⁉」
「お、お任せします……」
「任せられても!」
「貴女なら出来ます!」
「え、ええい! ああっ⁉」
わたしは目の前のコントロールパネルを手当たり次第に押してみた。すると、ジャングルの口から炎が噴射された。炎を喰らった相手ロボットは一瞬で燃え尽きた。
「お、お見事です! これからもよろしくお願いします!」
九十九くんがパチパチと拍手してくれる。いや、わたしは仮のパイロットだって……。