俺はトレーナーの
冬の寒い日、最近困っている事がある。
鬼門
「結婚してぇ……」
先輩
「何だよ急に……。出会いが無い職場じゃないんだから、女性陣に声掛ければいいだろ?」
鬼門
「いや、俺等と職種同じじゃないですか? 業務量も多いし、お互い時間も取れないから色恋沙汰に割いてる暇なんて無いですし」
先輩
「まぁ、そうだがよ。かと言って、諦めるのは早いんじゃないか? たづなさんとか、理子ちゃんとか……」
鬼門
「そこで俺は、初めての試みで挑もうと思います」
先輩
「ホント急だな……」
鬼門
「マッチングアプリで、婚約相手を探します!!」
先輩
「えぇ……アプリはやめとけよ。絶対、結婚相談所で探した方が――」
鬼門
「早速名前の登録を――」
先輩
「聞けよ」
俺はアプリをインストールし、プロフィールを作成する。呆れた様子の先輩を尻目に、トレーナー室のドアが開いた。
ルドルフ
「トレーナー君、トレーニングメニューの修正案を提示したいのだが……。ん?」
先輩
「あぁ、ルドルフ。お前のトレーナー、暫く会話は不可能だぞ」
ルドルフ
「そうですか。忙しいのであれば、これをトレーナー君にお願いします。それでは」
自己紹介文を書き終え、今度は気に入った相手に
先輩
「おい、お前の担当が書類持って来たぞ」
鬼門
「邪魔しないで下さい、今いいね送ったんで」
先輩
「はぁ……。お前の担当が浮かばれねぇよ」
鬼門
「キターーー!!いいね返ってきたーーー!!」
先輩
「いつかお前、担当に殺されるぞ?」
鬼門
「この後、どうすればいいんですか?!」
先輩
「説明くらい読めよ……。はぁ……お互い、いいねを送り合ったらマッチは済んでるから、メッセージでも返してやれ……」
鬼門
「よっしゃ! 順調じゃないですか!!」
先輩
「のめり込みすぎるなよ、顔も知らない女ばっかりなんだから。後で痛い目見るぞ……」
そう言いながら先輩はトレーナー室を出て行き、一人で相手の写真とプロフィールを見る。
鬼門
「おぉ、可愛い。二十一歳で、球場の売り子さんか……。バイト中にスカウトされるのが、たまに迷惑。何にスカウトされてるのか分からんが、可愛いのは確かだな。連絡してみるか」
メッセージを送ろうとした時、再びドアが開く。
エース
「よぉ、トレーナーさん。お昼は食べたか、小腹空いてるならあたしの作った浅漬け食べるか?」
鬼門
「……」
エース
「おーい、トレーナーさん?」
鬼門
「ん? おぉ、エース。どうした?」
エース
「ずいぶんスマホ眺めてたけど、何してんだ?」
鬼門
「あぁ、少しな」
エース
「何だ、あたしには言えない話かよ。知らない仲でもないのによ」
鬼門
「そんな事は無いんだが……。それより、エースの浅漬け食べていいか?」
エース
「おう! トレーナーさんと二人で育てた野菜で作ったから、美味いぜ」
鬼門
「白菜漬けか。……美味いな」
エース
「だろ? へへ、作った甲斐があったぜ」
鬼門
「何でも出来るな、エースは。本当に頭が下がるよ」
エース
「何でもは買い被り過ぎだろ……」
素直に褒めると、エースは照れくさそうに頬を掻く。そして突然、エースが何か思いついたように声を張る。
エース
「そうだ! トレーナーさん、今日の夜、空いてたりするか? パーマーと一緒にゲームしようと思ってよ。トレーナーさんの部屋で遊べないか?」
鬼門
「あぁ、ゴメン。今日は少し野暮用が……」
エース
「あぁ、そうか……。予定が変わったら、いつでも言ってくれよ。それじゃ……なるほどな」
帰り際のエースの声が少し元気が無いように思えたが、気のせいだろう。そんな事より、メッセージだ。
鬼門
「取り敢えず、送ってみるか」
今って大丈夫ですか
お昼休憩なので、大丈夫ですよ
七海さんって、球場で働いてるん
ですね。すごいです!
トレーナーだなんて、そっちの方が
すごいです。尊敬します!
気軽に、連絡しても大丈夫?
だし。いつでも待ってますね!」
鬼門
「めっちゃ良い子そう。なんか先輩がデタラメ言ってたけど、全然大丈夫じゃん。そしたら、夜にもう一回――」
シービー
「何してるの? トレーナー」
鬼門
「どわっ!?」
ソファーに座っている横に、シービーが座っている。思いの外近い……。
シービー
「何かニヤニヤしてるけど、良い事あった?」
鬼門
「べ、別に……」
シービー
「ふ~ん……。隙あり!」
鬼門
「あっ! おい、俺の携帯返せ!?」
シービー
「ヤダよ~、どれどれ……。ねぇ、トレーナー。なにこれ?」
鬼門
「ただのメールのやり取りだが?」
シービー
「誰と……?」
鬼門
「今知り合った人……?」
シービー
「マッチングアプリだよね、これって。トレーナーに必要なの?」
鬼門
「いや、結婚したいし……」
シービー
「開き直った」
鬼門
「この年齢になると、親伝いに耳に入ってくんだよ!? 誰々が結婚したっていう情報が!? その度に焦るし、そろそろ身を固めなきゃなって考えんの!!」
シービー
「アタシにすればいいじゃん」
鬼門
「だってシービー、学生じゃん」
シービー
「適正年齢だけど?」
鬼門
「じゃあ、結婚するか……」
シービー
「はい、決定! じゃあ、婚姻届と身分証明と戸籍謄本と二人の印鑑を用意して――」
鬼門
「おい、本気か……?」
シービー
「本気」
軽はずみで言った言葉を真に受け、早口で作業を進めようとするシービー。そしてまた、トレーナー室のドアが開いた。
シリウス
「おい、
パーマー
「トレーナー、放課後のトレーニングちょっと遅れるかも」
ヒシアマ
「トレ公、数学の問題解いてくれよ……」
ケイミラ
「トレーナーさん、何か手伝えることないですか?」
鬼門
「ミラクル、シービーを止めてくれ……」
ケイミラ
「シービーさんをですか? 説明してくれない事にはどうしようも……」
シービー
「トレーナーと結婚するから、よろしく~」
シリウス
「シービー、お前何言ってんだ……? 自由人過ぎて可笑しくなったか?」
パーマー
「シリウスさん、落ち着いて?! 取り敢えずシービーさん、説明してもらっていいですか?」
シービー
「だって、トレーナーが言ったんだよ? 結婚するか、って」
ケイミラ
「トレーナーさん、それ本当ですか? 軽はずみとはいえ、そんな言葉は口にして欲しく無いなぁ……」
ヒシアマ
「何にせよ、昼休憩も終わりそうだよ。話は放課後にしとくよ、みんな」
担当バたちはトレーナー室を出て行き、午後の授業を受けに行く。俺は今日の練習メニューを練り、体調に合わせて準備をする。
ある程度目途がつき、窓を開けながらタバコを吸う。スポーツマンである彼女達には当たり前だが極力、目の前では吸わないようにしている。
終鈴が鳴り、トレーニング前にもう一度一服吸っていると、パーマーとミラクルが入ってくる。
ヒシアマ
「来たよ、トレーナー。って、一服中かい?」
ケイミラ
「あまり吸っちゃダメですよ、トレーナーさん。おれ、トレーナーさんに病気になって欲しくないんで……」
鬼門
「わかったよ、一日一箱だけにしとく。それより、パーマーは何で遅れるか聞いてる?」
ヒシアマ
「後輩の頼みごとに付き合ってるんだとさ、そこまで遅くなることは無いと思うけどね」
ケイミラ
「そう言えばトレーナーさん、お昼の時のシービーさんのアレ。詳しく聞いていいですか?」
鬼門
「あぁ……。結婚したいなと思って、その話に流れただけ。大丈夫、お前達に手は出さないから心配すんな」
ヒシアマ
「そう言われてもねぇ……。ねぇ、ミラクル?」
ケイミラ
「寧ろって感じですけど……」
濁すような言い方を二人は続け、語尾がよく聞き取れない。あまり気にしないよう、残りのタバコを吸いながら待つと、パーマーが勢いよく入ってくる。
パーマー
「ギリギリセーフ! あっ、トレーナーまたタバコ吸ってる! ダメだよ、それだけはパーマーさんオススメしないな」
鬼門
「今度から隠れて吸うかな……」
三人は揃ったが、高学年の四人はまだ来ない。暫く待ってはいるが、時間がもったいない為、先に三人でコース場に向かう。
いつものようにトレーニングを熟し、陽がどんどん傾いてくる。三人の練習風景を眺めながら指示を出していると、携帯が通知を知らせる。
気になった為、開いてみるといいね通知がもう一つついている。こんなに早く通知が来るものなのか考えるが、初めての為、よく分からない。
取り敢えず、いいねを送り返して寮に戻った後に確認しよう。
携帯を眺めていた為、後ろから肩を叩かれる。後ろを振り向くと、担当バの四人が揃っている。
シービー
「またスマホ見てる……。もう浮気?」
鬼門
「まだしてないから。それにしても、高学年組は遅かったな。長引く事でもあったか?」
シリウス
「どうもこうも、ルドルフとエースがスマホを持ち出してよく分からん会話をおっぱじめやがったから遅くなったんだよ」
鬼門
「珍しいな、二人でなんて。何か始めたのか?」
ルドルフ
「少々試したい事があってね、時間を取らせて済まない」
エース
「まぁ、初めての事だからよ。色んなことに挑戦すんのも、悪く無いと思ってさ」
鬼門
「内容は教えてくれないのね。今日は遅いし、学外のランニングだけにしよう。神社までの一往復で、今日の練習は終わり。四人共、言ってこい」
そしてルドルフを先頭に、四人は走り出して行った。
シリウス
「なぁ会長さんよ、何か企んでないか?」
ルドルフ
「そんなふうに見えるかい?」
シービー
「悪い顔してるし、エースと何か考えてるでしょ?」
エース
「そうだな。日頃クソボケなトレーナーさんに、一泡吹かせてやりたいのさ」
シリウス
「へぇ……。それ、私も噛ませてくれるか? 最近調子づいてる仔犬に、一発お見舞いしてやりたいからな」
シービー
「アタシもいい? なんだか面白そうだし」
ルドルフ
「では、先ず概要を説明しよう――」
日没を迎え、辺りは徐々に暗くなっていく。そろそろと思っていると、四人が帰ってくる。
鬼門
「おぉ、お帰り」
ルドルフ
「ただいま、トレーナー君。突然すまないが、トレーナー君は私達の事をどう思っているのか、聞かせて欲しい」
鬼門
「どうって……。大切な、担当ウマ娘だけど……」
ルドルフ
「女としては……?」
鬼門
「それ言ったら、気持ち悪いだろ? ルドルフとは五つも離れてんだぞ?」
ルドルフ
「君がそう言うのならそうだろう。ただ、今後はどうするか決める時がくる。取り敢えず、おやすみトレーナー君」
鬼門
「あぁ……。おやすみ」
よく分からず、首を傾げながら彼女達の背中を見つめた。俺も取り敢えず、トレーニングの片づけをして寮へと戻る。
ご飯を食べ終え、マッチングアプリを確認する。二人目の方にはメッセージが残されており、早速返事を帰す。
経理で働いてるのか。それに、好きな物がコーヒーって気が合うな。
二十八歳の生き遅れです……。
どう呼べばいいですか?
エミリさんって、コーヒー好きな
んですね。俺も好きなんですよ
あたしも好きでよく飲むんですよ。
この間も喫茶店でブレンドコーヒー
飲んで、優雅に過ごしてます!
一緒に行きたいですね。
色々気が合いそうですね
楽しく会話が続き、暫くすると七海さんから返事が返ってくる。内容は休日遊びませんか、という誘いの文だった。
俺は快く承諾し、次の休みの日に合う事になった。
平日を乗り越え、約束の日となった。駅での待ち合わせとなり、デートをするのも久しぶりである。
緊張で待ち合わせの時間まで、ソワソワしながら携帯を眺める。待ち合わせまで時間がある為、今日行くレストランの予約の確認をする。
すると、アプリの通知が開いて彼女からメッセージが届く。
彼女はもうこの場に居るとのことで、辺りを探し回ると声を掛けられる。