ヤベぇ女、決定戦   作:泰然

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11話 好みが偏るトレーナー

 

 

 月日は少し流れ、肌寒い三月から春の陽気に移り変わり、トレセン学園に新入生が次々と門を潜っていく。新入生同様に、トレーナーを志したうら若き男児、乙女も瞳を輝かせていた。

 俺は二階にあるトレーナー室で、その光景をタバコを吹かしながら眺めていた。

 

 

 

鬼門

「俺にも……あんな時期があったなぁ……。今は良いが、徐々に自分の時間が作れなくなるぞ〜……」

 

 

 

 自分でも、ここまで忙しくなるとは微塵も思わなかった。ルドルフをスカウトしてからを皮切りに、いろんなトロフィーを取ってきた。そのせいで、()()()()()()()という荷の重い二つ名を貰っている。

 

 

 それについて改めて、俺がスカウトしてきたウマ娘の特徴を考える。

 

 

 

鬼門

「……俺の担当、だいたい高学年だな。加えて強いウマ娘ばかりだし、みんないい子……シリウスはいい子じゃないか。それに可愛いし、シリウス以外……。まぁ、シリウスも可愛いところはあるか……照れた時とか」

 

 

 

 それを思い返しながら、俺は吸い終わったタバコを蓋付きの灰皿に捨てる。

 そして、自分の仕事机に座りながら考える。

 

 

 

鬼門

「後は……胸が大きい事か。いや、でも……ミラクルとエースはそんなに大きくないか。しかし、学生にしては大きいのか? いやいや、自分の担当の胸なんか考えるとか……気持ち悪すぎだろ。ウマ娘の体質だし、俺が考えても――」

 

ヒシアマ

「胸がどうしたんだい? トレ公」

 

鬼門

「どわっ!?」

 

ヒシアマ

「そ、そんなに驚くことかい? それにしても、何の話だい? 胸がどうこうとか、ウマ娘の体質がどうとか。まさかトレ公、アンタ……」

 

鬼門

「うっ……」

 

ヒシアマ

「常日頃から、アタシたちの為にトレーニングを考えてくれてたのかい! いや〜……勉強熱心だね」

 

鬼門

「ほっ……」

 

ヒシアマ

「それよりトレ公、もうすぐ入学式だよ。在籍トレーナーは待機する時間だよ。中等部と高等部の新顔を、拝みに行くよ!」

 

鬼門

「そうだな……行くか」

 

 

 

 ヒシアマに言われた通り、目的の場所を目指す。

 今回の入学式の会場は、体育館に入り切らない為、トレーニングでも使われる砂のグラウンドで行う事になった。

 グラウンドに着くと、想像していたより多数のウマ娘と、その保護者で埋め尽くされている。

 俺もトレーナー区画の椅子に腰を掛ける。

 パイプ椅子でリラックスしながら時間を待っていると、偶然にも先輩が隣に座っている。

 

 

 

先輩

「よっ! 鬼門も一緒か。しかし、保護者を見る限り新入生が多いな」

 

鬼門

「今年は例年よりも、数百人多いらしいですからね。まぁ、俺はもうウマ娘をスカウトする余裕はないので、今回は見送りですかね」

 

先輩

「んなこと言って〜……どうせ気に入ったら引き込むつもりだろ?」

 

鬼門

「勘弁してくださいよ……。ただでさえ、忙しいのに。トレーナー兼モデルって……人気なんか出なきゃ、直ぐに辞めるつもりだったのに……」

 

先輩

「いいじゃねぇか! そのお陰で、新規トレーナーも応募して来て万々歳だろ?」

 

鬼門

「多くなるのはいいですけど、変な輩が増えないか心配ですよ……。烏滸がましいですけど、俺の宣伝で増えたトレーナーなんて、碌な奴じゃないでしょ?」

 

先輩

「確かにな。それだったら、最初に理事長に言えばよかっただろ?」

 

鬼門

「まぁ……その時は、頭が回らなかったと言うか……」

 

先輩

「仕方ねぇか、そんな話振られたら。まぁ、新しい女性トレーナーでも口説いて元気出せよ」

 

鬼門

「婚活会場じゃないんですから、そんな事する訳――」

 

ルドルフ

トレーナー君……? 私が懸命に祝辞を反芻している最中に、愉快な談笑をしているねぇ……。トレーナー君は、新人勧誘と表して女性を毒牙に掛けるようなことはしないだろうね……?」

 

鬼門

「いえ……決して……そんな事は……」

 

ルドルフ

「私はシービーの一件、何も言うつもりは無かったが、許したつもりも無い。この問題は学園内、はたまたシンボリ家の耳に入れば説明責任を問われる。そんなトレーナーを、私の下に置かないシンボリ家は、恐らく君を――」

 

鬼門

「一切考えてませんので、何卒お願いします! シービーの件も、軽率な行為だった……許して下さい!」

 

ルドルフ

「……私も、そこまで言及したいわけではない。ただ、同じ担当ウマ娘に対して平等に扱うのが、本来の礼儀ではないのか? トレーナー君」

 

鬼門

「と、言いますと?」

 

ルドルフ

「私も……/// 私も、トレーナー君と一緒にベッドで寝たい!!」

 

鬼門

「平等とは言っても、それは流石に――」

 

ルドルフ

「君にそれを断る事が出来るのか? こちらはトレーナー君の心臓を握っている。よく肝に銘じておくように……それでは」

 

 

 

 そのままルドルフは、わざとらしく靴音を大きく鳴らしながら去っていった。

 

 

 

先輩

「……ライオンだな、ありゃあ」

 

鬼門

「何故バレた……何処でバレた……?」

 

先輩

「お前……担当と寝たのか?」

 

鬼門

「寝たけど、そういう意味では寝てない!」

 

先輩

「そ、そうか……。それより話折るんだけどよ、なんでも今日転入してくるウマ娘が居るらしいぞ。アメリカで米国三冠を、三十七年ぶりに達成したヤバい奴らしいぜ?」

 

鬼門

「どうでもいいですよ……今そんな事……」

 

先輩

「でもお前、一時期フロリダに居ただろ? 練習風景を見たいとか言って」

 

鬼門

「フロリダ州にウチの師匠と少し前に行った事はありますけど……。それくらいですよ?」

 

先輩

「その時に居たんじゃねぇか? そのヤバいウマ娘とさ。名前が確か――」

 

たづな

「これより、中等部と高等部による……トレセン学園、合同入学式を執り行います」

 

 

 

 たづなさんのアナウンスにより、その先の言葉は遮られる。先輩が言いそびれた名前も気になるが、新入生たちに目を向ける。

 次々と生徒が入場し、体格がしっかりした子、少々小柄なウマ娘が行進する。

 先輩と話していた時は、スカウトを見送ると言ったが、眺めていると勝たせてあげたい意欲が湧いてくる。

 入場が終わり、開式の言葉が述べられて滞りなく進んでいく。

 そして、このイベントで一番長い新入生呼名。

 一人一人、名前が呼ばれる流れが一番苦痛ではある。たづなさんも、数百人の名前を読むのは流石に疲れると思う。

 それもやっと終わり、校長式辞、来賓祝辞、在校生代表の言葉と終わりに近付いていく。

 閉会式に移ると思いきや、転入生の紹介に移る。

 たづなさんが呼ぶ声に、俺は聞き覚えのある名前だと気づいた。

 

 

 

たづな

「それではここで、転入生を紹介します。()()()()()()()()()さん、ご登壇下さい」

 

アメリ

「ハイ」

 

 

 

 嘘だろ、何で。

 

 もう、その言葉しか思い浮かばなかった。

 

 

 

アメリ

「皆さん、はじめまして。アメリカから来た、アメリカンファラオといいます。今回来日した理由は、日本のレースを知るため。それは建前ですが、本当の理由は――」

 

 

 

 突然、エジプト風の髪飾りをした褐色の彼女は周りをキョロキョロし始める。彼女の特徴とも言える、尻尾の部分が()()()の出来事で短い。俺がそれを眺めていると、彼女と目があった。

 

 

 嫌な予感がする。

 

 

 

アメリ

「あ〜! 春暁!!」

 

「「「「「「「はるあき!?」」」」」」」

 

 

 

 一際デカい声を上げたのは、恐らく俺の担当だろう。正直、俺の方が驚いてる。

 

 

 

鬼門

「何でアメリが居るんだ……?」

 

アメリ

「逢いに来た。ついでに、こっちのレースも走りに来た」

 

鬼門

「優先順位が違うだろ……」

 

たづな

「アメリカンファラオさん……あの、挨拶は終わりましたか?」

 

アメリ

「あっ、すいません。これで終わりまーす。春暁、また後でね」

 

 

 

 そう言い残し、アメリは手を振りながら降壇して何事も無かったように椅子に腰掛ける。

 閉会式となり、保護者とウマ娘は先に戻っていく。俺を含め、他のトレーナーは地面に付いたパイプ椅子を拭き取り、それを片付ける。

 

 

 その最中、先輩から詰問を食らう。

 

 

 

先輩

「お前、あのウマ娘と知り合いなのか?!」

 

鬼門

「たまたま見学した場所で知り合ったんですよ……。ちょっとトラブルになりましたけど……」

 

 

 

 アメリがまだ、レースを走り始めた頃だ。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

アメリカンファラオの担当を

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