皆さんも体壊さないようにミネラル取ってくださいね。
七月下旬。
結局、丸坊主という見た目が雑誌の撮影にそぐわないと神奈さんからお達しで、髪が延びるまで仕事の延期が決まった。
休日のショッピング街を散策し、業務用のスマホを確認しながら画面を閉じてポケットにしまう。
そのタイミングで振動が伝わり、再び携帯を手に取る。
着信が鳴り続け、見覚えのある名前が画面に表示されていた。。
スーさんだ。
スピード
『やぁ、トレーナー君。夏季が訪れ、蝉時雨が絶えない日本はどうかな? 君のことだ。夏が過ぎ去る晩夏の蝉のように、私の声が聞けない……嘆いていると想って電話したんだ』
鬼門
「スーさん……。勝手に捏造するのやめてくれません?」
スピード
『いや、すまない。それは私の方だったな……。電話の件だがね、トレーナー君。やよい君から、ふと耳に入ったんだよ』
鬼門
「理事長から、ですか……?」
スピード
『あぁ……。なんでも情報誌に載るそうじゃないか……結婚の」
鬼門
「そ、そうですが。それが何か……?」
スピード
『君がモデルを兼業している事は、当初からやよい君から聞いている。君が担当する、ウマ娘の進捗状況も』
鬼門
「そんな報告、理事長から聞いてませんけど……。スーさん。いい加減、そのストーカー行為やめませんか――」
スピード
『まぁ、これくらいにしよう。本題なのだが、私がURA海外事業部チーフとして心血を注いでいる事は知っているだろ?』
鬼門
「食い気味で遮りましたね……。欧州やドバイとかアメリカで活躍してるのは存じておりますけど……」
スピード
『私の活動拠点を暫くの間、日本に移そうと思う』
鬼門
「は……?」
脳が一瞬バグを起こし、開いた口が塞がらない。
電話越しに、聞きなれたアナウンスが聞こえる。それに、床をゴロゴロ転がる音が聞こえてくる。
これは、トロリーバッグを引き摺る音?
スピード
『お察しの通り、私は空港に居る。日本の』
鬼門
「その事前報告も無いんですが……」
スピード
『サプライズだよ。俺から君へ、休日の打ち上げ花火だ。楽しみに待つといい、ハル君』
電話は切られ、呆然と立ち尽くす。
行動力が高い人物の突発的振る舞いには、精神的疲労が格段に上がる。思案するだけ無駄と感じ、書店で栄養学の教本を買いに急ぐ。
清涼な部屋と灼熱のアスファルトの下を行き来する度に、体調が崩れてくる。教本は買えたが、少しの時間で酷使したような体を休める為に、いつもの喫茶店に向かう。
休日の為、店内に人は少し多め。
涼しい店内で深呼吸しながら、街並みが見えるテーブルに座る。
いつものブラックコーヒーを嗜みながら、行き交う人混みを眺め、る――。
何か、明らかに見知った人物がこっちに来てるな……。
その人物は喫茶店に入店し、一瞬のどよめきが生まれた。そのままトロリーバッグを横に付け、対面側に座る。
鬼門
「何でここが分かったんですか……?」
スピード
「電話口で君との会話で、ショッピング街特有の入り交じる音楽。寮生活をする君が近隣で利用する買い物スポットとなれば、自ずと導き出せる。加えて真夏の日差しに耐えかねるトレーナー君の心理的嫌悪状態を鑑みて、恐らく休憩所として使うのは行きつけの茶店だと……結論付けたまでだ。これも日頃から君の生活習慣を見てきた、観察眼の賜物だな」
鬼門
「俺への執着も極まると、ここまで行きつくんですねぇ……」
スピード
「嫌だな、プラトニックラブと言って欲しいものだね。こうやって逢えたんだ、もっと歓喜するべきだろう。ハル君?」
脚を組み直しながら指を交差させ、前屈みに近付いてくる。
俺は照れ隠しで天井を仰ぎ、あまり覗き込まれないよう視線を逸らす。
スピード
「ふふっ。相も変わらず、その癖を直せないようだな。覗かれるのが恐いのか、すぐに目線を逸らす。それも君の魅力か、愛嬌と言った方がいいのか。全く……愛らしいな、君は」
鬼門
「……恥ずかしいんでやめてくれません?」
スピード
「いやぁ、すまない。君の愛くるしい表情を見てると、自然と言葉が出てくるんだ。気を悪くしないでくれ」
正直、ドキドキするからやめて欲しい。
スーさんは自嘲的な笑みを浮かべ、反省の意味を込めて掌でゴメンのポーズを作る。
その表情から一変し、背もたれに
スピード
「さて、電話でも話した具体的な議論に移ろう」
鬼門
「何故、日本に拠点を移すのか――」
スピード
「そう! 君が誰とメインの表紙を飾るのかという議論だっ!」
鬼門
「全然違うっ……!」
スピード
「
鬼門
「それは……?」
スピード
「私にその表紙の任を任せ、夫の居城に妻が入城する。それ相成れば、
鬼門
「あのぉ……言ってる意味が分からないんですが――」
スピード
「トレーナー君と一緒に住むという意味だが?」
鬼門
「いや、そこも何ですけど……。任を任せるというのは、スーさんが一緒に写るって意味ですか?」
スピード
「そうだが?」
鬼門
「俺が絡むと著しくIQ下がるのやめません? スーさん……」
スピード
「俺が被写体として不足なのか! ええっ、トレーナー君!」
鬼門
「老翁の気迫こわ……。何と言うか、趣旨が変わるといいますか……」
立ち上がりながら抗議するスーさんの圧に押され、焦燥感に駆られながら不意に窓を横目で動かす。
あれはルドルフ――。
何か雰囲気が……。
そこに眼鏡を着用したルドルフが口を噤んで瞳孔を開かせ、こちらを凝視してる。
遠目にも関わらず、ピンポイントで照準を捉えている。顔にも一切の感情が見受けられない故、読み取ることが出来ない。
何と言うか、怖い。いや、今対面してる人も恐い。
考える間に、ルドルフは捉えきれない速さで喫茶店に体を向け、入口に向かう。無論、姿が見えなくなるまで視線を外さず。
鈴の音と共に、ルドルフは真っ直ぐ俺が座ってるテーブルを目指す。
ルドルフ
「……トレーナー君、
スピード
「やぁ、ルドルフ。懐かしの対面、だな」
ルドルフ
「……」
ルドルフ何も喋らんし、顔恐い。
てか、何でスーさん……俺が坊主頭だって聞いて来ないんだ?