エースの一件から数日、平日の午前中。
今日のトレーニングで使うスポーツドリンクを作る。人数分用意が出来、窓を開けてタバコを吸う。
暫くすると鐘の音が鳴り、昼休みに入る。
リラックスしていると、トレーナー室の扉が開き、シリウスが入ってきた。
シリウス
「よう、仔犬。タバコより良いものやるよ」
鬼門
「ん? 缶コーヒーか、ありがと。飯は食ったのか?」
シリウス
「鐘が鳴り終わって、直ぐに食べれる訳ないだろ? 今からここで食べるんだよ。仔犬もまだだったら、私が食べさせてやろうか?」
鬼門
「いいでーす」
シリウス
「ふん……。本当、可愛くないなウチの仔犬は。揶揄い甲斐が全くない」
鬼門
「何年も飽きる程やられれば、慣れてくるだろ」
シリウス
「それじゃあ仔犬、ポッキーゲームでもしたら少しは真新しさが生まれるだろ?」
鬼門
「やだ」
シリウス
「勝負の前に投げ出すのか? お前は私のトレーナーだろ? そんな勝負根性で示しがつくのか?」
鬼門
「シリウスとやると碌なことにならないのは、目に見えて分かるからやらない」
シリウス
「なっ?! ここまでして……。これでどうだ!!」
シリウスはポッキーを咥え、頻りに俺の周りを動く。
相手にしないように無視しながら、残りのタバコを吸う。痺れを切らして、シリウスは俺の咥えタバコを外に捨てる。
鬼門
「あっ、何すんだよ!?」
シリウス
「これで互いに咥えられるだろ? これだけして、やらないのは男じゃないよな?」
鬼門
「この……」
流石に怒りが湧き、シリウスの髪を掻き毟ろうとしたが、再び扉が開きルドルフとシービーが入ってくる。
ルドルフ
「トレーナー君、久しぶりに昼食を一緒に――」
シービー
「あっ! シリウス、トレーナーにおねだりしてる」
シリウス
「ち、違う!? トレーナーを揶揄おうと……///」
ルドルフ
「シリウスは本当に、トレーナー君が好きだな」
シリウス
「う、うるさいっ! こんな奴、誰が……」
シービー
「顔が真っ赤だね、図星だった?」
シリウス
「うぐぐ……。興覚めだ、もう一人で食べる!」
ルドルフ
「話の続きだが、トレーナー君。どうだろう、一緒に食事というのは」
鬼門
「誘ってもらって申し訳ないけど、ここで食べるよ」
シービー
「残念、アタシ達だけで食べよっか」
ルドルフ
「時間を取らせて済まない、トレーナー君。またの機会を楽しみにしているよ」
そう言うと、二人は部屋を出て行った。
シリウスはバツが悪そうに、ソファで黙々と惣菜パンを食べている。そこで俺は、流石に意地悪し過ぎたと思い、シリウスの隣に座る。
シリウス
「何だよ……」
鬼門
「購買まで行くのめんどいから、一つ恵んでくれないか?」
シリウス
「ふん、私にお手の一つでもしたらあげなくも――」
鬼門
「はい」
シリウス
「――ッ! 次は私の足を舐めろ!」
鬼門
「調子に乗んな」
シリウス
「痛っ……」
優しくしてやればこうだ……。
そんな奴にはチョップをお見舞いしてやり、黙らせる。何だかんだ、彼女はコロッケパンをくれた。
調子に乗らなければ優しいのだが……。
放課後になり、シリウス以外練習に参加できないらしく、二人でトレーニングを行った。
スタミナ強化として、心肺機能向上トレーニングを実践する。インターバル形式をとり、二十秒間ダッシュを行い、十秒ランニングするように指示する。
これを三十分続けるが、普通の人間は十分が限度。
インターバルを終え、俺が作った特性ドリンクを渡す。
シリウス
「んぐんぐ……はぁっ。疲れた……」
鬼門
「お疲れさん。前に比べて、だいぶスタミナが伸びたな」
シリウス
「当たり前だ、これだけキツイメニューばかり組まれれば、嫌でも体力が付く」
鬼門
「ただ、無理はするなよ? 限界までやって、倒れる前に休めよ?」
シリウス
「仔犬は過保護なんだよ。それとも何か? 甘える建前でも作ろうとしてるのか?」
鬼門
「あのな……人が折角心配してやってんのに」
シリウス
「分かったよ、トレーナー様。倒れそうになったら、お前の胸で受け止めてもらうよ」
鬼門
「だからっ――」
シリウス
「今日のトレーニングは終わりだろ? 後は寮に戻らせてもらうぜ」
鬼門
「おい! ちゃんと帰ったら、体伸ばせよ!」
シリウス
「わかったわかった。……私はこれでいい、このやり方でしかアイツと一緒に」
鬼門
「何だ、アイツ……。遅くなる前に、出走登録済ませるか」
俺はやり損ねた資料をやる為に、トレーナー室に戻る。
私は揶揄う事でしか、アイツに近付けない。
ルドルフの話に乗って、あのすまし顔に一発面食らわせてやりたかったが、している事はいつもと同じ。
こんなんじゃあ、仲良くなんてならねえよな。
ナカヤマ
「ストレッチしながら、何眉間に皺寄せてるんだい?」
シリウス
「何でもない。自分に嫌気がさすだけだ……」
ナカヤマ
「へぇ……。アンタのトレーナー絡みかい?」
シリウス
「はぁっ!? 何でそうなるんだよ!!」
ナカヤマ
「だってシリウス、事あるごとにトレーナーにイチャもん付けてるだろ? それで毎日ご機嫌が左右される、気付いてないのか?」
シリウス
「チッ、そんなんじゃねぇ……」
ナカヤマ
「本音しか言わないシリウスが、まさかあの男にだけ回りくどい言い回しをするとはねぇ……」
シリウス
「うるさいっ! 外に出る!」
ナカヤマ
「はいはい、頭でも冷やしてきな」
私だってわかってるさ、正直に言えば済む事ぐらい。
私は取り敢えず、校内を回りながら頭を冷やした。
すると、トレーナー室から明かりが漏れ出している。そこには、ルドルフとトレーナーが書類整理をしている。
私は咄嗟に隠れ、バレないように聞き耳を立てる。
鬼門
「悪いな、手伝ってもらって」
ルドルフ
「これくらいお安い御用さ。私達の為に、心血を注いで頑張っているんだ。尽力するのは当然だろ?」
アイツはいつもそうだ。レースでも、物事でも、担当トレーナーでも。いつも邪魔ばかりしやがる、やることなす事、達観した目線の上から目線。
いつまで私を弄べば気が済むんだ。
そして作業が終わったのか、ルドルフがこちらに向かってくる。
ルドルフ
「失礼するよ。……おぉ、シリウス。居たのなら声くらい掛けてくれ、心臓に悪い。シリウス……?」
シリウス
「流石だな、皇帝様。出し抜くのも一流って訳だ!」
ルドルフ
「どういう意味だ?」
シリウス
「人間掌握が上手いって意味さ。弱い所に付け込むのが、アンタのやり方だろ?」
ルドルフ
「……。私は少なくとも、トレーナー君にそのような付け込み方をした覚えはない。言葉が過ぎるぞ、シリウス」
シリウス
「おいおい、今度は脅しか? 流石はライオン、気圧される」
ルドルフ
「シリウス、君は少し頭を冷やした方がいい。門限も近い、用があるなら早めに済ませて置け」
ルドルフはそのまま寮に戻り、私はトレーナー室に入る。
シリウス
「よう、トレーナー。相変わらず、精が出るな。会長様との密会は楽しかったか?」
鬼門
「シリウス、もう遅いから寮に戻っとけ」
シリウス
「私との扱いが段違いだな、それほど私とは居たくないのか?」
鬼門
「そうじゃなくて、ヒシアマに怒られるのが俺だからだ。だから、さっさと行け」
アンタも、私を邪魔者扱いするのか……。
シリウス
「あぁ、分かったよ。帰るよ……」
扉に手を掛け、帰ろうとすると後ろから足音が近づいてくる。
鬼門
「シリウス、何か気に障るようなことしてるか?」
シリウス
「してねぇ……」
鬼門
「気に障ってるじゃん」
シリウス
「してねえ!! 構うな、バカッ!」
鬼門
「……。あのさ、もしかしてと思ってクッキー焼いたんだけど……食べる?」
シリウス
「い、要らねぇよ、そんなもん!」
鬼門
「そうか……」
シリウス
「――っ。……ああ、もう! 貰う、貰えばいいんだろ!!」
鬼門
「ありがとう」
シリウス
「御礼言う筋合いなんて無いだろ……///」
鬼門
「まぁ、いいさ。シリウスが元気になれば、俺も嬉しいし」
シリウス
「はぁ!? ……ば、バカやろぉぉぉぉ///」
私はクッキーを握り締め、寮へと戻った。
ナカヤマ
「お帰りー、ずいぶん早かっ――。お熱いねぇ、クッキーか」
シリウス
「う、うるさいっ! 私はもう寝る!」
ナカヤマ
「はいはい、ごゆっくりー」
今日は午前中からトレーニングとなり、担当同士で併走してもらう事にした。
昨日、様子が変だったシリウスはいつも通りニヒルに笑っている為、一安心。
しかし突然、大声で宣言し始める。
シリウス
「ルドルフ、アンタにはゼッテイ負けねえ。この仔犬は、私の物だ」
ルドルフ
「ふっ、調子を取り戻したようだなシリウス。いいだろ、私も一度狙った獲物は逃すつもりはない」
鬼門
「何言ってるか分かんないけど、併走トレーニングの話だよね?」
エース
「本当にそう思うのか、トレーナーさん」
シービー
「アタシは違うと思うけど」
ケイミラ
「いつも通りの二人ですね」
パーマー
「熱いねぇ」
ヒシアマ
「タイマンか!?」