ヤベぇ女、決定戦   作:泰然

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長くなりました。


8話 君が居なくなる未来を想像しただけで……

 今日は休みの日に、行きつけの喫茶店でコーヒーを楽しんでいる。窓際が一番のお気に入りでエースとこの前、一緒に座った場所と同じだ。

 日当たりもよく、朝起きたばかりとはいえ、眠くなってくる。外を眺めながら飲んでいると、偶々歩いていたエースと目と目が合う。

 

 

 

エース

あー! トレーナーさん!!

 

鬼門

「声でっか……。窓越しなのにすげぇ……」

 

 

 

 買い物をしていたのか、手には大きな袋を持ちながら店内に勢いよく入ってくる。

 

 

 

エース

「水臭いぜトレーナーさん、言ってくれればあたしも付いて行ったのに」

 

鬼門

「一人で飲みたい時もあるだろ?」

 

エース

「あたしはトレーナーさんとなら、何処でも行きたいけどな」

 

鬼門

「嬉しい事言ってくれるねぇ……。今日は買い物か?」

 

エース

「おう! 今日は畑の肥料を変えようと思ってな。鶏糞だったんだけどよ、精肉店のおじさんが牛糞分けてくれたんだよ」

 

鬼門

「その量で足りる?」

 

エース

「新しい野菜で試そうと思って、この量にしてもらったんだ。最初はトラクターで運んでくれるって話だったんだけど、申し訳ないからお試しサイズにしてもらったぜ!」

 

鬼門

「人と馴染むのが早いなぁ」

 

エース

「田舎じゃあ、こんなの当り前だぞ? お米なんかも三十キロの袋で、二つ貰う事もあるし」

 

鬼門

「いいな……」

 

エース

「でも、多すぎて消費しきれない時があるけどな」

 

 

 

 喫茶店でエースの実家の話で盛り上がり、すっかりお昼を過ぎていた。コーヒーを飲み干し、店を後にして学園へと帰る。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 公園に差し掛かったところで、エースがとあることを聞いてきた。

 

 

 

エース

「トレーナーさんは女の人と……付き合った事はあるのか?」

 

鬼門

「まぁ、あるにはあるけど……」

 

エース

「あるのかっ!? いつ!?」

 

鬼門

「いつって……だいぶ前だぞ? 中学生とか、その時に三回告白された事はある。でも、学生の彼氏彼女なんて付き合ったうちに入らないだろ? みんな気の迷いで付き合うんだから」

 

エース

「あるのか……」

 

鬼門

「そんなに落ち込む事あるか? ただ、手を繋ぐとか触り合う事しかしなかったぞ? キス以上、何もしなかったけど」

 

エース

「キス以上の事してるだろっ!? さ、触ったって……何処触ったんだよ///」

 

鬼門

「取り巻きの女子に押されて、ラッキースケベで胸は触った事はあるかな。後はハグくらいか」

 

エース

「ステップ踏み越えてるだろっ!! 胸なんて触ったら、赤ちゃんできるだろ///」

 

鬼門

「えっと……。いいか、エース? それだけじゃ、子供は出来ないぞ?」

 

エース

「いや、ウチの親が言ってたぞ! エースはキスして生まれてきたんだぞって。それだったら、む、胸なんて触ったらどうなっちまうんだよ……///」

 

鬼門

「えぇと……保健の授業でやらなかったか? 男女の体の仕組みとかで」

 

エース

「あぁ……その時、朝練で寝てたな。それでシリウスに叩き起こされたのは覚えてる」

 

鬼門

「そうだったか……。取り敢えずエース、子供は出来ないとだけ覚えておけ。シービーとか、シリウスに笑われるから」

 

エース

「じゃあ、トレーナーさんは知ってんのか? だったら教えてくれよっ! どうすれば子供が生まれる! 何でもするから、教えてくれ!」

 

鬼門

「こ、公園であまりデカい声で叫ぶな……。俺が変な目で見られるだろ? それは……ほら! ルドルフに教えてもらえ。分かりやすく、丁寧に解説できるから」

 

エース

「確かに……ルドルフなら分かりやすいな。ありがとう、トレーナーさん!」

 

鬼門

「ほっ……」

 

 

 

 何とか言い逃れる事は出来たが、後々ルドルフから咎められるのが怖い。

 

 

 

 


 

 

 

 

 突発で変なこと聞きすぎた。トレーナーさんの過去を探るようで、気持ち悪がられてないか心配だ。

 正直ショックだったのは、付き合った事があると言う事実。それはそうだ、トレーナーさんがモテない訳がない。学生のウチは男女関係にカウントされないとは言っていたが、あたしは在学生だ。

 そんなあたしも、その中に数えられないと判断されたしまうのか。それが心配でならない。あの時も好きだと彼に伝えたものの、返事はもらえてない。

 トレーナーさんの好みも、あまりよく知らない。これだけ長く一緒に居ても、分からない。

 どうせなら、女性経験に慣れてるトレーナーさんに、少し()()()()()事にした。

 

 あたしは、トレーナーさんの袖を軽く引く。

 

 

 

エース

「なぁ、トレーナーさん。手……繋いでいいか?」

 

鬼門

「どうかしたか?」

 

エース

「い、いいだろ別にっ!? こういうのは黙って繋ぐもんだろ……///」

 

鬼門

「いいけど、肩に持ってる肥料あるけど大丈夫?」

 

エース

「い、いいよ! どうせトレーナーさんじゃ持てないだろうし……/// そう言うとこだぞ……

 

 

 

 初めてトレーナーさんと手を繋ぐ。それだけのはずなのに、体中がホワホワ温かい。もっと強く握りたいけど、躊躇いがちになる。

 顔を見られたくないあたしは、横を向きながら口元を緩ませる。シービーとはよく繋ぐことはあるが、何もかも違う。好きなだけで手を繋いでいるだけなのに、何でこんなに嬉しいんだろ。

 

 トレーナーさんも同じ気持ちなのかと思い、アタシは恐る恐る彼の方を見た。

 

 

 

鬼門

「……///」

 

エース

「えっ……トレーナーさんが照れてる?」

 

鬼門

「仕方ないだろっ、久しぶりなんだから……///」

 

エース

「えへへ……いいもん見れたぜ。……好きだぜ、トレーナーさん」

 

鬼門

「ばっ!? お前、よく面と向かって言えるな……」

 

エース

「言いたかったんだ、仕方ないだろ?」

 

鬼門

「男らし」

 

 

 

 少なからず、トレーナーさんはあたしが嫌な訳では無い。それに、これだけ照れる姿を見れたのは初めて。あたしは他の担当に対して、優越感を覚える。

 これだけ長く手を繋ぐ事など、ルドルフでも見た事がない。それだけで、あたしの尻尾は大きく揺れ動き、感情が体に出てしまう。

 だからこれを、もっと長く味わいたい、いつまでもこうしていたい。そんな感情だけが、あたしの中で廻り続けている。

 これが永遠と感じることが出来るのであれば、手放したくない、離れたくない、誰にも渡したくない。誰かも分からない他人がトレーナーさんに触れるだけでも、胸が痛くなるような気がする。

 まだハッキリとは分からないけど、そんな感じがする。

 

 

 

 


 

 

 

 

 そして学園に着き、名残惜しさに手を離すのが嫌で仕方なかった。

 

 

 

鬼門

「エース着いたぞ」

 

エース

「栗東寮まで……繋ぐ」

 

鬼門

「フジキセキに茶化されるぞ? それでもいいのか?」

 

エース

「いい……」

 

鬼門

「気持ちは分からんでもないが、いつでも繋げるだろ?」

 

エース

「本当か?! 絶対、次も繫ぐからな?!」

 

鬼門

「そんな泣きながら宣言せんでも……涙出てるぞ?」

 

エース

「や、やめろっ!? 目元は、性感帯なんだよ……/// それとも、そういう気分なのか……?」

 

鬼門

「はぁ……何で子作りは知らないで、そう言うのは分かるんだか」

 

エース

「何の話だ……?」

 

鬼門

「掘り下げなくていいから。明日も朝練だし、ゆっくり休め」

 

エース

「いつでも繋げるなら、こっちのもんだ! 月曜日から頑張ろうぜ、トレーナーさん!」

 

鬼門

「よく分からんけど、またな」

 

 

 

 


 

 

 

 

 トレーナーさんと別れ、小走りで自分の部屋に入る。そして部屋には、パーマーがスマホで動画を見ながらくつろいでいる。

 

 

 

パーマー

「エースさん、何処に……肥料買いに行ってたんですね」

 

エース

「しまった?! 部屋に持ってきちまったぜ」

 

パーマー

「何か飲みます? 私、ミルクティー買ってきますね」

 

エース

「お、おい! ……別に気い使わなくても。……ん?」

 

 

 

 テーブル置かれたパーマーのスマホが通知で画面が光り、待ち受けが画面が目に入る。

 それには、トレーナーさんとパーマーが仲良く映し出された画面が表示されている。パーマーとは仲のいい友人だ、色んな悩み事や知らない事を教えてくれるルームメイト。

 だが、それを見てあたしは少し、心にモヤがかかった。それが何なのか分からない、良好な関係の二人であるはずなのにどうして

 

 

 

パーマー

「エースさん、ミルクティー……どうかしました?」

 

エース

「え、いや、何でもない……。ありがとな、パーマー」

 

パーマー

「いえいえ。それより、部屋に持ってくるほど浮かれていたという事は、何かいいことありました?」

 

エース

「あぁ、トレーナーさんと喫茶店に行って来たぜ!」

 

パーマー

「また行ってきたんですか?! やる~」

 

エース

「おまけに手まで繋いできてやったぜ! 凄いだろ?」

 

パーマー

「へぇー、やるじゃないですか!」

 

 

 

 そしてあたしは、細かくトレーナーさんについてパーマーに自慢し、さっきの事はすっかり忘れてしまった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 そして次の日、朝練を終えて校門で待つトレーナーさんの下へ走る。すると、校門前で人だかりが出来ている。カメラを持った取材陣が、トレーナーさんの周りを囲んでいる。

 

 

 

鬼門

「あの、すいません。今日はトレーニングの日ですので、日を改めて取材を――」

 

「トレーナー業とモデルを兼業されているそうですが、これからどのような方針で決められていくおつもりですか?」

「噂ではトレーナー業を足掛かりに、モデルで一儲けしようなどというコメントがされていますが、お気持ちをお聞かせ願いますか?」

 

鬼門

「ですから、学園を通してから取材を――痛っ……」

 

 

 

 何だコイツら、寄ってたかって噂に過ぎないコメント記事を鵜吞みにしやがって。

 

 

 

エース

ジャーナリストなら、ちゃんと許可取って取材してこいっ! 感情も読み取れねえ奴が、記事なんか書いてんじゃねえ!!

 

鬼門

「エース……」

 

 

 

 その言葉を最後に記者団は居なくなり、蜘蛛の子を散らしたように静かになった。

 

 

 

鬼門

「ありがとう、エース。でも、あんな言い方したら悪質な記事書かれるぞ?」

 

エース

「いいんだよ、あんなの屁でもねえ。それに、デカい声も出してトレーナーさんも守れたんだ、スカッとしたぜ!」

 

鬼門

「エースはイケメンだな」

 

エース

「トレーナーさんに言われると、何か照れるな……///」

 

鬼門

「まぁ、問題が起きても大丈夫だとは思うけど……」

 

 

 

 


 

 

 

 

 そして午後を迎え、案の定あたしの朝の件について、取材陣に対しての恫喝記事が書かれていた。それに関して、まともに取り合う必要は無いと思い、教室で傍観していた。

 

 だが、記事での反応が芳しくなく、辛辣なコメントが飛び交う。

 

 

 

シービー

「エース、このフェイク記事、訴えた方がいいんじゃない? いくら何でも……」

 

エース

「大丈夫だろ? その内時間が何とかしてくれるだろ」

 

シリウス

「それはそうだが、トレーナーに対しても飛び火してるぞ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってな」

 

ルドルフ

「このままだと、トレーナー君への悪評が広まりかねない。恫喝について便宜説明をするか、記者団に対する虚偽記載に異議申し立てるか……。一先ず、トレーナー君に相談してみるのはどうだろう?」

 

エース

「そうだな……ルドルフの言う通り、聞いてみるか」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ルドルフに言われた通り、トレーナー室に向かうことにした。

 ドアを開けると、トレーナーさんが居ない。一応、名前を呼んでみるが反応が無かった為、校内を探し回る。理事長室を通った時、微かにトレーナーさんの声がする。

 

 恐らく、理事長と何かを話している。けど、よく聞こえない。

 

 

 

秋川

「――やめ――ることが――るのか?」

 

鬼門

「はい、やめます」

 

 

 

 やめる? 何をやめる? もしかして、トレーナーを?

 

 あたしのせいだ、感情に任せたから、あんなことに。ルドルフなら、もっと上手く出来た。だったら、記者を宥める事だって出来たはず。

 

 

 

エース

「トレーナーさんッ!!」

 

鬼門

「うおっ、エース!?」

 

エース

「トレーナーさん、辞めないでくれっ!? あたしが謝れば済む問題だろっ? こんな形でトレーナーさんと別れるのなんて、耐えられない……。あたし、何でもするから……辞めないでくれっ」

 

鬼門

「勘違いだ、勘違い! 取材側のフェイクニュースを止めることが出来るって話だ」

 

エース

「え……それじゃあ」

 

鬼門

「辞めないから、安心しろ」

 

エース

「よ、よかったぁ……」

 

鬼門

「顔がグシャグシャだぞ、はいティッシュ」

 

エース

「ありがと……」

 

 

 

 トレーナーさんから詳しく聞くと、忍ばせていたボイスレコーダーが証拠となり得る為、件の鎮静化が図れる。

 そしてそれを会社に提示し、この事件は無事、事なきを得た。

 ただ、この時思ったのが、本当にトレーナーさんが居なくなる未来が訪れるのはそう遠くない。これを考えるだけで、胸が苦しくなる。

 分かってはいたが、あたしは体を動かす事で忘れようと目を瞑っていた。

 

 本当にこの未来が訪れた時、あたしはどうするのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

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