戦士咆哮シンフォギアK【加筆修正作業中】   作:名無しのごんべい

10 / 20
 気分が乗って早めの更新。

 ……やらなきゃいけないことに直面した時、作者の執筆速度は加速する。




第十話 「大人」

 

(ボール……返せなかったな……)

 

 夜の街。

 人気の全くない場所でクリスは一人、ゴムボールを手にして佇んでいた。

 

 思い出すのは昼間のこと。

 今まで何度かクリスの邪魔をしてきたクウガと、あの時夜の公園で出会った少年が同一人物だったこと。

 あの夜に受け取ったボールをまだ持ったままで、返せなかったこと。

 赤髪の大男……弦十郎が言った、「大人だから」という言葉の意味。

 

(大人だからなんだって言うんだ……。大人はみんな敵だ……!)

 

 クリスは2年前まで虐待を受けていた。

 否、虐待というほど生易しいものではなかっただろう。

 両親を紛争によって目の前で殺され、その後捕虜として生活。

 さまざまな大人がクリスに乱暴を繰り返した。

 クリスが何を言っても誰も耳を貸さず、そんな生活が数年間続いた。

 

 2年前にやっと解放され、それ以降はフィーネのもとに身を寄せていたが、結局フィーネにも裏切られた。

 

(……あたしは……これからどうすれば……)

 

 クリスは歩き出す。

 どこにも行く当てはなく、唯一信頼していた人に裏切られた少女は、夜の街をただ歩く。

 自分がどこに向かっているのかも、どこに向かいたいのかもわからないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特異災害対策機動部二課本部司令室。

 改めて未来に事情を説明するためと言われて集合がかけられた響と未来が見たのは、睨み合う雅人と弦十郎の姿だった。

 

「……なにがあったんですか……?」

 

 隣で状況を静観していた了子に問いかける響。

 

「ん~……。ま、いくら大人ぶっていてもやっぱり男の子だったってことかしらね?」

 

「へ?」

 

 訳が分からず間の抜けた声を出す響。

 状況を全く呑み込めず困惑する未来。

 そんな二人のために朔也とあおいが説明を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遡る事数分前。

 最初に翼が到着し、その次に雅人が司令室に入ってきた。

 その時点で雅人は周りから見ても一目で苛立っているとわかった。

 そして最後になった響と未来を待つために、ソファに座り翼と了子が談笑していた時のこと。

 

「おっさん……」

 

 それまで一言も喋らなかった雅人が口を開いた。

 

「おっさんと呼ぶなと……なんだ?」

 

「なんで、ノイズが大量にいる前線に出てきたんだ?」

 

 それは、つい先日の戦闘のこと。

 ピンチになったクリスを助けようとして前に出た雅人の、そのさらに前に出てノイズから二人を庇った時のこと。

 

「あの時も言っただろう? お前たちが子供で、俺が大人だからだ」

 

「理由になってないんだよ! 一歩間違えたら死んでたんだぞ!?」

 

「それは普段の君たちも同じだ」

 

「同じじゃねぇよ! 俺にはクウガの鎧があるし、風鳴さんや立花さんたちもシンフォギアがある! だけど、あんたは生身の人間だろ!? なのに何でそう簡単に出てくるんだよ! 力もないくせに、なんで俺の前に出てきたんだよ!」

 

「力がない……か」

 

 雅人の言葉に、弦十郎は雅人をまっすぐに見つめながら言葉を返す。

 

「何度でも言ってやろう。俺がお前を守るのは、力の有る無しではなく、俺がお前よりちょっとばかし大人だからだ。俺たち大人の役目は、お前たちが何の心配もなく伸び伸びと成長していくのを守ることだ。お前たち子どもが、安心して暮らすための盾になることだ。それは、翼や響君たちはもちろん、お前もそうだ」

 

「なんだよそれ……意味わかんねぇよ……。大きなお世話だ! あんたに守ってもらわなくても、俺は負けない!

俺は! なんの力もないただ逃げ回るだけの大人になんか守ってもらわなくても生きていける! それを証明してやる!!

勝負だ! 風鳴 弦十郎!」

 

「……いいだろう。それでお前の気が済むなら、付き合ってやる。そして、お前に教えてやる。世の中は、そんな大人だけじゃないと言うことを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言うことがあったんだよ」

 

「元々司令も熱くなりやすい性格だし、売り言葉に買い言葉ってところね」

 

「青春よね~♪」

 

「いやいやいやいやいや! 誰か止めましょうよ! それでこんな、訓練場まで使って!」

 

 所変わって、特異災害対策機動部二課本部特別訓練場。

 そのすべてが一望できる展望エリアに、響たちは集まっていた。

 朔也とあおいが説明を始めたころに、勝負をする二人のために思い切り体を動かせる場所に移動。

 その場所が、ここだった。

 

「こういうのはね? 変に溜め込むよりもどこかで発散させる方がいいのよ。それに、2人とも男の子だしね」

 

「……関係あるんですか?」

 

「大有りよ♪」

 

 未来の問いかけに、人差し指を立てながら答える了子。

 そんな彼女たちの下で、今まさに二人の戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が勝ったら、あんたは二度と俺を守ろうだなんて考えるなよ。足手まといに守ってもらうほど俺は弱くない」

 

「自分が強いと思っているうちは、まだまだ子供だ。それがわからないお前じゃないだろう?」

 

「……ッ! 後悔するなよおっさん!」

 

「ああ……」

 

 雅人が弦十郎に向かって拳を振り上げ、その顔を殴る。

 それを弦十郎は微動だにせず受ける。

 

「……なんで、避けないんだよ……」

 

「どうした? それで終わりか?」

 

「ッ! おぉぉおお!!」

 

 雅人はさらに弦十郎を殴り、弦十郎は全く避けずに雅人の拳を受け止め続ける。

 

「なんで……なんで!」

 

「……どうした? 変身しないのか? お前の手でどうにかなるわけではないと言うのはわかっただろう? 変身して攻撃しても、俺は文句は言わん」

 

「クウガは! ノイズと戦うための力だ! 人を護るための力だ! 人に向かって振るう力じゃない!」

 

「わかっているじゃないか」

 

「え?」

 

 弦十郎の突然の言葉に、雅人は手を止める。

 

「お前のその手も、その力も、人を護るための力だ。そしてそれと同じように、俺たち二課も人を……誰かを護るために力を使っている。お前が言う人の中に俺たちが入っているのと同じように、俺たちが言う誰かの中にはお前も入っている」

 

「……俺も?」

 

「ああ。いいか? 雅人。

 人を護るために戦う……それは素晴らしいことだ。だがな、お前だけが誰かを護っていると思うな。お前が護っていると思うな。それはただの思い上がりだ。お前が誰かを護りたい……そう思うのと同じくらい、お前を護りたいと思っている者たちがいる。今までお前は独りだったんだろう。だが、今お前は独りじゃない。お前が護りたいと言った仲間がいる。お前を護りたいと思う仲間がいる。だから、何でも一人で背負い込もうとするな。背伸びをしようとしなくていい。これからは、俺たちを頼れ。

 無理に俺たち大人に合わせる必要はないんだ。……だからそんな泣きそうな顔で我慢するな。泣きたければ泣けばいい」

 

「……ッ」

 

 独りじゃない。

 

 雅人は、この二年間ずっと独りだった。師である雄介が死に、たった独りでノイズと戦ってきた。

 それでも生きていくためには金が必要で、そのために日雇いのバイトを探して稼ぎ、日本中を旅しながらノイズと戦ってきた。

 当時14歳の少年にとって、それは過酷な旅だった。

 人のぬくもりと言うものを忘れてしまうには、十分な時間だった。

 

 雅人が忘れてしまったぬくもりを、弦十郎は取り戻させたかった。

 それは大人としての義務だと感じていたし、何より弦十郎自身がそのような雅人を見ていたくなかった。

 

 雅人の眼からは涙があふれてきていたが、本人はそれに気づいていない。

 そんな雅人を、弦十郎は抱きしめる。

 雅人が忘れてしまった人のぬくもりを思い出させるために。

 

 それからしばらくの間、雅人は子供のように泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特異災害対策機動部二課本部訓練場前通路。

 

 風鳴 弦十郎はそこで膝をついた。

 その額からは汗が滝のように流れ、呼吸も荒い。

 

「流石の弦十郎君も、今回は危なかったみたいね?」

 

「……了子君か」

 

 現れた了子は、弦十郎に肩を貸しながら通路を歩く。

 

「まったく、無抵抗で殴られ続けるなんて無茶するわねぇ。でも、正直あなたがここまでボロボロになるなんてちょっと想定外だったわ」

 

「……どうして……分かった?」

 

「お説教してる間、何度か膝が笑ってたわよ。う~ん……罅は入ってるけど折れてはなさそうね。普段から鍛えてるおかげね」

 

「……俺も、ここまでとは思わなかった」

 

「それは私もよ。体内に聖遺物と同等の物が埋め込まれているから何かあるとは思っていたけど、まさかここまでとはねぇ」

 

 了子がいくら記憶を掘り返しても、目の前の大男が膝をつく光景を思い出すことはできない。

 それほどまでに、風鳴 弦十郎は人間として規格外の存在だった。

 トラックに跳ね飛ばされても、次の瞬間には何事もなかったかのように起き上る。むしろ、トラックを吹き飛ばすかもしれないと言う妙な信頼があった。

 

 そのもはや人外の域に到達しようとしていた弦十郎を相手に、こうも簡単に膝をつかせることができる。

 五代 雅人と言う存在は、了子の中ではすでに人外にカテゴリされていた。

 

(理由は多分一つだけ……その体に埋め込まれた『アークル』……あれを見るたびに記憶が刺激される。はるか昔……どこかで見た覚えがある。興味は尽きないな)

 

「ホント……興味深いわぁ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺は、あんな奴らのせいで誰かが泣いてるなんて許せないんだ』

 

 青年が言葉を紡ぐ。

 どこかの山奥で、大きな石に腰掛けた青年とその隣で青年を見上げる少年。

 少年は問う。

 

 ―――――どうして、戦うんですか?

 

 その問いの答えを、青年は既に見つけていた。

 

『あんな奴らのために、誰かが泣いてるのなんて見たくない。みんなに笑顔でいてほしい。だから、俺は戦うんだ。だって、クウガだから』

 

 そう答える青年が、少年には眩しく見えた。

 

 ―――――僕も……戦えますか?師匠のように。

 

『俺自身、君が戦う必要がない世界にしたいんだけどなぁ……。君が修業を終えるまでにあいつらを倒しきるのが、俺の目標の一つだし。

 だって、俺は君が修業を受けるのにも反対なんだ。できれば、君にはクウガになってほしくない』

 

 ―――――僕が、弱いからですか?

 

『違うさ。君がまだ子供だからだよ』

 

 ―――――子供?

 

『そう。俺たち大人はさ。子供の前では格好つけたいんだよ。それが君たちには鬱陶しく感じるかもしれないけど、それでも人生の先輩として、君たち子どもを護る義務が俺たち大人にはあるんだ。

 だけど、それでも君は俺のもとで修行をすると言った。だから修行では手は抜かないし、君が一人前のクウガになれるようにする。俺の感情とは別にね』

 

 ―――――……よくわかりません。

 

『う~ん……まぁ、君がなんて言っても俺が君の師匠をやめるつもりはないって覚えておいてくれるだけでいいよ。君がこの道を選んだんだからね。途中下車は無しだよ。君も、そして俺もね。

 そんな君の問いに今度は俺が返すよ。

 

 君が、戦う理由は何?君が、クウガとして戦うときに掲げる『覚悟』は?』

 

 ―――――…………僕は、――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「師匠の跡を継ぐ」

 

 そして、雅人は目を覚ます。

 見上げる天井は以前使っていたテントではなく、ふらわーの自分の部屋の天井でもない。

 二課の仮眠室。先日のノイズによる町の襲撃によってふらわーも住める状態ではなくなった為、雅人は二課で寝泊まりをしている。

 雅人が記憶を掘り返すと、夢を見る前は演習場で弦十郎の暖かな言葉に涙を流した後そのまま眠ってしまったらしい。

 

「そう、夢だ」

 

 体を起こす。

 思い出すのは先程の懐かしい夢。

 まだ雄介のもとで修業を初めて1年もたっていない頃の夢。

 

(俺に、師匠を殺してしまった俺に、自分の覚悟を語る資格はない。

 だからこそ、師匠の夢を引き継ぐんだ。俺のせいで夢半ばで倒れてしまった師匠の代わりに、俺が『誰かの笑顔のため』に戦うんだ)

 

 腰に……アークルがある位置に手を当てて、改めて決意する。

 

 かつて決意した自らの戦うための『覚悟』を捨て、雅人は借り物の『覚悟』で戦うことを決意する。

 

 その危うさと歪さに、まだ誰も気付いていない。

 

 

 

 

 

 

 

 






 これ、大人出来てるよね?

 どうも作者です。かっこいい大人って難しい。いやほんとに。
 迷走するクリスちゃん、一歩ずつ二課と歩み寄っていく雅人君。少しずつ和解フラグを立てていきます。
 弦十郎さんとの殴り合い〈一方的〉。
 当初はほんとに殴り合いさせるつもりでしたが、あの弦十郎さんが素直に殴り合いに応じるのかと思い直してこのような形に。結果的に最初考えてたものより良くなったと思うので満足です。セリフは勢いで言わせました。
 そしてあの弦十郎さんが膝をつくと言う異常事態。クウガを知っている人ならアークルがどういうものかわかりますよね?そう、フラグは少しずつ立てていきます。
 雅人君の夢は当時の修業の最中、どこかの山奥での一幕です。五代さんと雅人君の当時の様子が分かる貴重な一幕。不穏な言葉も出てきて物語は加速していく。



 では次回予告。




「平和……ですかねぇ?」

(あいつは敵だ。さっきのクウガだって敵だ! なのに……なんなんだよ、このイライラは!)

「翼さんのマネージャーもやってます。これから、風鳴 翼をどうぞごひいきに」

「歌……か……。戦い以外で歌を聞くのは、2年ぶりだな」

『今まで1人で、ずっと戦ってきたんでしょ? だから、今日は五代君はお休み!』

(……何やってんだろ……俺…)


               『歌女』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。