戦士咆哮シンフォギアK【加筆修正作業中】   作:名無しのごんべい

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 ……過去最長記録更新。

 お菓子でも食べながらゆっくり読んでください。


第十五話 「贈物」

 

 特異災害対策機動部二課仮設本部司令室。

 数日前起こった『ルナアタック』の際、リディアン音楽院地下に存在した本部が崩壊したことによって急遽用意された潜水艦が仮設本部である。

 その仮設本部内は、今大いに賑わっていた。

 

 シンフォギア装者たちの発見と五代 雅人の意識の回復。

 

 『ルナアタック』の際月の欠片を破壊するために宇宙空間に飛び立ち絶唱を放った装者たちはその後行方不明となっていたが、つい先ほど彼女たちを発見、保護したとの知らせがあった。

 さらに朗報は続く。

 フィーネとの戦闘の後、響に言われた場所に辿り着いた弦十郎たちは意識を失った状態の雅人を発見。酷く衰弱した状態だったため命の危険を危惧されたが、響たちが発見されたと言う報告より数分後に覚醒。起き上がることはできないがハッキリと喋れることから後遺症などはなくこれからの生活にも問題はないと診断された。

 

「一時はどうなる事かと……」

 

「まったくね。これでみんな無事じゃなかったら私この仕事辞めてたかもしれないわ」

 

「あおいさんもですか?」

 

「あら? 藤尭君も?」

 

 笑い合うあおいと朔也。二人だけじゃなく、周りの者たちも一様に安堵の表情をしている。

 肩を叩きあって喜ぶもの。抱き合って喜ぶもの。涙しながら喜ぶもの。

 その様子は様々だが、みな変わらず笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、月に突っ込んでボロボロになって帰ってきたのか」

 

「いや~……ホントにだめかと思った」

 

 所変わって数時間後の医務室。

 既に回復し自由に歩けるようになった雅人と、おとなしく安静にしている響たちが話をしていた。

 

「俺が寝てる間にそんな事態があったとはな……」

 

「五代、お前は動いて大丈夫なのか? 数日間全く目を覚まさなかったらしいが……」

 

「寝てただけですしね。風鳴さんたちよりはよっぽど軽傷ですから」

 

「うわ……敬語似合わねぇなクウガ」

 

「目上には敬語を使うべきなんだよ雪音さん。あとクウガ言うな。名前で呼べ」

 

「嫌だね!!」

 

「ちょ、喧嘩はやめようよ雅人君、クリスちゃ~ん!」

 

 仮にも医務室だと言うのに対してこの賑やかさ。

 中に入ろうとしていた弦十郎も、これには溜息を吐いてしまう。

 

 その顔が嬉しそうにニヤついていたのを、一緒に来ていた慎次は見逃さなかったが。

 

「お前ら……病室だと言うのに静かにできんのか?」

 

「御久しぶりです、皆さん」

 

「師匠! 緒川さん!」

 

「司令……緒川さん……」

 

「……ふん」

 

「ようおっさん。緒川さんもお久しぶりです。全然そんな気がしませんけど」

 

 それぞれの特徴がよく出たあいさつの返し方である

 

「仕方ないですね。五代君はずっと寝てたわけですし」

 

「雅人……なぜ緒川と俺でそうも態度が違う? あとクリス君。それは挨拶ではないぞ」

 

「そりゃぁ……」

 

「……だって」

 

「「おっさんだし」」

 

 雅人とクリスの息の有ったコンビネーションに弦十郎はたまらず膝をつく。

 

「すごい……雅人君とクリスちゃんが師匠を倒した!」

 

「あの司令に膝をつかせるとは……見事だ、二人とも」

 

「息ピッタリでしたね」

 

 ハッとクリスが雅人を見る。

 雅人はクリスが自分の方を見ているのに気付くとクリスに向かってサムズアップをするが、クリスはすぐにそっぽを向いた。

 それに残念そうな顔をする雅人たち子供組だが、弦十郎と慎次の大人組からはクリスが真っ赤になっているのがよく見えた。

 

 クリスが彼女たちに馴染む日も、そう遠くはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、本題に入ろう」

 

「本題?」

 

「漫才しに来たんじゃなかったのか?」

 

「そんなわけあるか。本題というのは雅人を除いたお前たち三人のこれからについてだ」

 

 それは、大人たちの都合に子供が巻き込まれると言う本来あってはならないこと。

 曰く、現在シンフォギアの存在が先の戦いによって公になってしまったため各国から憲法違反だ、という批判と追及が日本政府に行われていること。

 曰く、米国などの一部の国が櫻井理論の開示とシンフォギア装者の個人情報の開示を要求していること。

 曰く、今の日本政府にとってそれら全てを退ける力はないと言う事。

 

「だから、公式にはシンフォギア装者三人は『ルナアタック』によって死亡したと言うことになっている」

 

「っていう事は……私たち死んだことになってるんですかぁ!?」

 

「おいおっさん、それはいくら何でも……」

 

「話は最後まで聞け。死亡したのは『シンフォギア装者』だ」

 

 その弦十郎の言葉に、疑問符を浮かべる雅人と響とクリス。

 逆に翼は合点がいったような表情をする。

 

「なるほど、そういう事ですか」

 

「え? ……どういうことですか?」

 

「つまりシンフォギア装者はいったん死亡したことにして、今回のごたごたが収まるまで責任を追及できないようにするんだ」

 

「何時までになるかは解りませんが、それでも皆さんに対しては少し不自由を強いてしまいます。本当にすみません」

 

「我々の都合で勝手に振り回すようなことをして、本当にすまん」

 

 弦十郎と慎次が頭を下げる。

 それに慌てたように返したのが響と翼であり、クリスはあまり気にしていないようだった。

 因みに雅人は蚊帳の外だ。

 

 それからは響たちの今後についての話があった。

 

 何時までになるかはわからないが、しばらくはこの仮設本部から出られないこと。

 死亡ということにしたため、事情を知ってしまった一般人の人達には響たちはいまだに見つかっていないと話していること。

 あと数日で響たちの捜索を打ち切ると言う設定になっていること。

 それまではこの仮設本部で自由にしていていいと言う事。

 

「未来にも、話せないんですか?」

 

「……ああ。すまない」

 

 それを聞いて落ち込む響。

 

「雅人、お前にも話がある」

 

「ん? なんだよおっさん」

 

「ここではできない話だ。別の部屋に行くぞ」

 

 そう言って移動する弦十郎と慎次。

 

「何だろうな……まぁちょっと行ってくる」

 

 それに続いて雅人も部屋を出る。

 

 そして通されたのは一般的な病院の診察室と似た作りの部屋だった。

 照明代にはレントゲン写真が掛けられている。

 

「これが何かわかるか?」

 

「……さぁ?」

 

「これはお前のレントゲン写真だ。腰の部分に見えるのが、お前の言う『アークル』だろう」

 

「へ~……」

 

「……ここを見ろ。『アークル』から神経のようなものがお前の全身に伸びている。結論から言うと、お前は確実にその『アークル』に蝕まれている」

 

 それは通常のレントゲン写真ではありえない光景だった。

 腰のアークルから伸びた神経が体全体に伸び、もうすぐ頭まで到達しようとしていた。

 

「お前が気を失っている間に精密検査させてもらったが、お前の体は普通の人間とは逸脱したものになりつつある。このままいけばお前は……」

 

「戦うための生物兵器だろ? それくらい知ってるさ」

 

 まるで世間話のような気軽さで、雅人が言葉を発した。

 

「「……」」

 

 あまりに普通に、あっけカランと言い放つからか、弦十郎も慎次も固まってしまった。

 

「クウガの歴史だって長いんだ。何もせずに戦い続けたやつがどうなるかなんて知ってるさ。それを防ぐ方法もちゃんと師匠から教わってる」

 

「そ……うか。そうか、よかった」

 

 ホッと安堵したように一息つく弦十郎とその後ろで胸をなでおろす慎次。

 この仕草だけで二人がどれだけ雅人を心配していたかがわかり、がらじゃないと思いつつも雅人も少し嬉しくなる。

 

(ま、嘘なんだけどな)

 

 確かに生物兵器にならない方法を雄介は知っていたのかもしれないが、少なくとも雅人は聞いたことがない。さらに最後に話したフィーネの言葉からして、治療法はないと思っていいだろう。

 だけど雅人に後悔はない。

 

(たとえどんな存在になったとしてもノイズと戦い続ける。誰かの笑顔のために、師匠の代わりに戦い続ける。だけど、その為には……)

 

 今の雅人では圧倒的に力が足りない。

 

「おっさん」

 

「……なんだ?」

 

「そういう事だから、俺はちょっと冒険に行ってくるよ」

 

「待て、どういう事だ?」

 

 雅人の急な言葉に、さすがの弦十郎も慌てる。

 

「修行だよ修行。今回の戦いで自分の力の無さを痛感したからな。一度昔のように冒険しながら自分を鍛えなおすことにするよ」

 

「……ここで修行するわけにはいかないのか?」

 

「仮にも一子相伝の秘術とかあるからな。なるべく人目に付くところではやりたくないな」

 

「そうか……寂しくなるな」

 

「ええ……雅人君はムードメイカーでしたからね」

 

「やめてくださいよ。それは響の役目ですし、俺じゃそう言うのはできないですよ」

 

「それで、いつ行くんだ?」

 

「準備ができ次第……ですかね」

 

「そうか……」

 

 室内に沈黙が下りる。

 

「それでさ、冒険をしようと思ったら足が必要だと思うんだ」

 

「足?」

 

 唐突に言った言葉に理解できなかったのか、弦十郎がおうむ返しに訪ねてくる。

 

「一番いいのはバイクかな。免許を取りたいんだけど、おっさん融通できる?」

 

「バイクか……確かお前は響君たちと同い年だったな。

 ということは今年で16歳か……いいだろう。その代わり、しっかり試験は受けてもらうからな」

 

「わかった」

 

「冒険という事なら、パスポートも必要ですかね? 国外に行くのなら入用でしょう」

 

「今まではどうしてたんだ?」

 

「……」

 

 雅人はそこで、今思い出したと言うかのように固まる。

 

「……どうした?」

 

「いや……そう言えば師匠はどうやって俺のパスポートを用意したのかな……と」

 

「……え?」

 

 室内に、異様な沈黙が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後、雅人は自分の病室で荷物をまとめていた。

 さすがに響たちと同室にするわけにはいかないので、別の部屋を使っていた。

 既に試験は終わっており、無事免許を手に入れている。

 あとはどうやってバイクを確保しようか……と考えていたところに扉がノックされる。

 

「はい!」

 

 返事をすると、弦十郎と見知らぬ男が2人入ってくる。

 

(……? だれだ?)

 

「彼で……間違いないんですね?」

 

「ええ」

 

「……」

 

「ああ、済まない。自己紹介をしないとな」

 

 そしてスーツを着こなした弦十郎より少し年上に見える50過ぎの男が居住まいを正し、白衣を着た同じく50歳に見える男も少し真面目な顔をする。

 

「初めまして、クウガ。いや、雅人君。私は一条 薫、君の師匠の親友だ」

 

「俺が椿 秀一……君の師匠の世界でたった一人のかかりつけの医者だ。よろしく」

 

「……え? あ……はい。よろしく、おねがいします」

 

 いきなりの事態に混乱を隠し切れない雅人。

 

「ほら見ろ一条。だから急に来るのはまずいって言ったんだ」

 

「む……だが今日でないと意味が」

 

「だからって事前に連絡を入れるなりなんなりやり方があっただろう。そう言うところは変わらないなお前」

 

「え、ちょっと待ってください! 師匠の親友って……?」

 

 その雅人の言葉に逆に2人は驚いたような表情をする。

 

「……あいつ俺たちの事言って無いのか?」

 

「……当時の話だけして名前を言ってないかもしれないな」

 

「ああ、なるほど」

 

 ポンッと手を打つ秀一。

 薫が苦笑しながら雅人に声をかける。

 

「聞いてないか? 当時あいつが作った例外の話」

 

「例外……もしかして、師匠の相棒の刑事さん?」

 

「その通りだ」

 

 はっきりと頷く薫。

 それを聞いて、雅人はどう反応していいのかわからずに呆然としている。

 

「レントゲンは見せてもらった。まさかたった2年間でここまで浸食が進むなんてハイペース過ぎやしないか? 適度に戦闘間隔をあけていたら浸食も抑えることができるのに、今までどんなペースで戦ってきたんだよ」

 

「あ、えっと、週に3,4回くらい……」

 

「はぁ!? どういう生活してんだよ!?」

 

「ここ数年は日本のノイズの発生確率が段違いに高くなっていたからな。五代の時とは状況が違う」

 

 驚く秀一と薫。日本に出現したノイズは、それほど異常な量だった。

 

「とりあえず死にたくなかったら1か月はクウガになるのは禁止な。わかったか?」

 

「……わかりました」

 

「よし、あとは一条の方だな。ほら」

 

「ああ」

 

 薫はうなずくと、細長い箱を雅人に手渡した。

 

「……なんですか? これ」

 

「五代からの誕生日プレゼントだ」

 

「師匠から……!?」

 

「自分に何かあった時に君が16歳になったら渡してくれと頼まれていた。予定していた日に取りに来なかったから、何かあったのだろうと思っていたが……」

 

「ここに来るまでに聞いた話じゃ、やっぱり無茶やったみたいだな……」

 

 二人が悲しそうな顔をする。

 それを見た雅人は、まるでその話題を逸らすかのように話を進める。

 

「それで、中身は?」

 

「ん? ああ、五代から預かっていたものだ。中身の物を使いたいなら、ここに行くといい。きっと、クウガである君にとって役に立つものだ」

 

 そう言って薫が渡してきたのは一枚の地図。

 場所はどこかの倉庫のようで、雅人から見ても少し古いものであることが分かった。

 

「昔話もしたかったけど、俺も一条も忙しいからまた今度だな。ちゃんと体を労われよ?」

 

「名残惜しいが、またの機会に五代について語ろう。あいつは話題には事欠かない男だからな」

 

「……はい、機会があれば必ず。ありがとうございました」

 

 去って行く薫と秀一に向けて頭を下げる雅人。

 二人は手を振って弦十郎と共に部屋を後にした。

 

「師匠からの……プレゼント……」

 

 それは、もう二度と貰えることがないと思っていた物。

 雄介は雅人の誕生日には必ず何かプレゼントを用意していた。

 それは旅暮らしの邪魔にならないように小さな物だったが、それでも雅人は嬉しかったのを覚えている。

 

 今回もそれだと思っていた雅人が箱を開けると、中から出てきたのは一本の棒と鍵だった。

 

「……棒?……いや、ハンドルか?」

 

 自転車やバイクに使われるようなハンドル。

 ボタンが付いていて、押し込むと先端部分が伸び伸縮式の警棒のようになる。

 

「……ここに行ってみるしかないか……冒険の最初の目的地は決まったな」

 

 呟きながら、用意した荷物を背負い、部屋を出る。

 

「あれ? 雅人君?」

 

 部屋を出た先に、響がいた。

 

「響? 起きて大丈夫なのか?」

 

「うん! 丈夫なのが取り柄だしね。雅人君のその荷物は? どこかに出かけるの?」

 

「ああ。また冒険に出ようと思ってな」

 

「え?」

 

 雅人の返答を聞いた響が固まる。

 

「元々クウガの活動範囲は世界中だ。いろんな場所を冒険しながらノイズを倒す当てのない放浪の旅だ。今まではこの日本で立ち止まっちゃってたけど、ここでの戦いも一段落したみたいだし……これからは元の旅暮らしに戻るさ」

 

「……急……だね。どうしても行くの?」

 

「悪いとは思ってる。だけど、必要なことなんだ。このままここにいれば、俺は一歩も踏み出せなくなる。二課は居心地が良すぎるから……クウガの力が必要なのは、ここだけじゃないからな」

 

「……」

 

「日本は響たちに任せる。俺は、世界中を回ってノイズを倒してくる。別にこれでもう会えないってことじゃない。年に一回は戻るようにするし、呼んでくれたらすぐに駆けつける。

 ……だから笑ってくれ。響は、笑ってるのが一番だから」

 

「うん……うん!」

 

「風鳴さんに、いつか手合わせしようって言っといてくれ。雪音さんには、次に会ったらお手玉を教えるって。二課のみんなにはお世話になりましたって。おっさんには……別にいいか、おっさんだし」

 

「そ、それは流石に……」

 

「未来と店長には自分から挨拶に行くよ。……名残惜しいけど、もう行く。次に会うときは、俺はもっと強くなる。だから、またな、響」

 

「うん! またね、雅人君!」

 

 それだけ言い残し、雅人はサムズアップをしながら出口に向かって歩き始める。

 その背中が見えなくなるまで、響は雅人と同じようにサムズアップをしながら見詰め続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうかい……寂しくなるねぇ」

 

「店長も、早く怪我を直してください。店長のお好み焼きがいつまでも食べられないのは常連客にとっては辛いでしょうから」

 

「あんたたちの漫才が見れないことを寂しがる人達の方が多そうだねぇ……。頑張ってきな。部屋は空けておいてあげるよ」

 

「! ……ありがとうございます。お世話になりました!」

 

「行ってらっしゃい。気を付けていくんだよ」

 

「はい!」

 

 店長へのあいさつを済ませ、店を出る。

 その足で今度はこの間の騒動で家を無くした人たちがいる仮住宅地へと行く。

 そこには自らの家を無くして呆然としている人たちの姿があった。

 前回のノイズの出現は過去に例を見ない規模だと言われており、あまり建造物などを破壊しないノイズでも、今回ばかりはその限りではなかった。

 いくつかのビルが倒壊し、町を襲ったフィーネの攻撃によって家を無くしたものも大勢いる。

 

 だが、この仮住宅地に一番多く住むのはリディアン音楽院の生徒たちである。

 

 騒動の直前で多数のノイズに襲撃されており、さらにはその地下から出てきた『カディンギル』のせいで学院は崩壊。その被害は生徒寮にまで及んでおり、部屋が無事だった者も倒壊の危険があると言われ出入りできなくなっている。

 結果、全寮制であるリディアンの生徒は全員が帰る場所を失う羽目になり、実家に帰った者たち以外はこの仮住宅地で生活することになった。

 現在はリディアンも仮校舎と仮の学生寮を探しているところであり、寮生はそれが見つかるまでの我慢が必要になる。

 

 そんな場所から少し離れた空き地に、小日向 未来はいた。

 

 来ている服はリディアンの学生服で、夏が迫ってきている時期には暑いと判断したのかブレザーは脱いで腕にかけている。

 彼女はここ数日はいつも空を……正確には欠けて少し不細工になった月を見上げている。

 

「まんまるお月様……あと数年もしたら無くなる言葉かな?」

 

 その問いかけは、まるで隣に誰かがいるかのような問いだった。

 彼女自身、答えが返ってくるとは思っておらず、ただの逃避だと言うことも自覚している。

 

 だが、その問いに返すものがいた。

 

「お月見はだいぶ形が変わるかもな。団子じゃなくて三日月型のクロワッサンでも飾るかもな」

 

「……雅人君?」

 

「おう」

 

 未来の隣に立ち、共に月を見上げる雅人。

 未来はそんな雅人を少しの間見ていたが、やがて同じように月を眺め始めた 

 

 しばしの沈黙が流れる。

 

 先に沈黙を破ったのは雅人だった。

 

「俺さ、あの時寝てたんだよ」

 

「……うん」

 

「響たちが頑張ってあの月からとれたでっかい欠片を破壊しようとしているとき、あの塔の下で1人寝てたんだよ。情けないよなぁ。みんなが頑張ってる時に、俺だけへばって動けなくなるなんてよ」

 

「……仕方ないよ。雅人君も頑張ってたって緒川さんから聞いたよ? 学校が襲われたときに1人で戦ってくれたし、その後だって1人であの人を追って死にかけたって……」

 

「それでもだよ。そんなことじゃダメだ。もっと強くならなきゃならない。強くなって、師匠に追いつかないといけない。今の俺じゃあ響たちにも勝てないんだ。こんな事じゃいつまでたっても師匠に追いつけない。

 だから、俺冒険に出ることにした」

 

「え?」

 

 未来からの驚いたような声を無視して、雅人は語り続ける。

 

「今のままじゃ、いつまでたっても俺は弱いままだ。だから、旅に出て自分を鍛えなおすよ。今日ここに来たのは、その挨拶だな」

 

「……雅人君も、いなくなるの?

 響があの空に消えちゃって、帰ってこないのに……雅人君も?」

 

 未来は、響が生きていることも知らない。今は元気に二課の仮設本部でクリスと漫才を繰り広げていることを知らない。雅人は、知っているけど言えない。

 

「元々クウガは世界各地を飛び回るからな。そもそも2年間も同じ場所にいたのがイレギュラーなんだ。

 それにさ、未来は響が死んだと思ってるのか? 響が、高々石ころ一つ壊しに行った程度で死ぬと思うか?」

 

「……」

 

「だから、未来は信じて待ってればいいんだ。周りがどう言おうと、どう決めようと気にせずに信じて待ってるだけでいいんだ。響は絶対帰ってくるってな」

 

「……うん」

 

「俺も、また帰ってくるから。ちゃんと強くなって帰ってくる。だから、それまで響と一緒に待っててくれ。

 約束、ちゃんと覚えててくれよ?」

 

「約束?」

 

 首を傾げる未来。

 そんな未来を見て苦笑しながら、雅人はかつて交わした約束を口にする。

 

「俺と、響と未来と、風鳴さんで。今なら雪音さんも一緒で、またどこかに遊びに行くって」

 

「……あ」

 

「ちゃんと覚えててくれよ。いつになるかわからないけど、絶対にその約束を果たしに戻ってくるから」

 

「うん……!」

 

「じゃあ、またな!」

 

 そして雅人は未来に向けてサムズアップをする。

 未来も控えめに、だけど確かに雅人に向けてサムズアップをして雅人を見送った。

 

「また……会えるよね。響。雅人君……」

 

 その呟きは、風と共に誰にも聞こえないまま消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ここか?」

 

 郊外の倉庫街。

 無数にある倉庫のうちの一つの前で立ち止まった雅人は、そう呟いた。

 町から離れたところにあるため前回の騒動の時の被害はなく、比較的きれいなまま残っている。

 

 雅人は薫から受け取った箱から鍵を取り出し、倉庫の鍵穴に突き刺す。

 鍵はぴったりだったようで、問題なく開いた。

 

 扉を開けて中に入ると、中は真っ暗だった。

 

「……電気は……これか?」

 

 手探りのまま照明のスイッチを探し、それらしきものを発見した。

 そのままスイッチをつけると、倉庫の中央に当たる部分にあった照明が付く。

 

 その証明に照らされて姿を現したのは、1台のバイクだった。

 

「……バイク? ハンドルが片方ない……」

 

 箱からハンドルのようなものを出し、バイクに突き刺してからひねる。

 その瞬間、バイクは息を吹き返したかのように唸りをあげた。

 

 それと同時に、目の前のバイクから音声が流れてくる。

 

『誕生日おめでとう、雅人』

 

「……師匠?」

 

『君がこれを聞いてるってことは、俺は君の誕生日に直接これを渡せなかったんだろう。それはとても残念だし、そんなことは考えたくはない。それは、俺が君の成長を見守れないと言うことだから。

 だけど、俺はクウガだから、そう言う事態になった時のためにこの記録を残しておく』

 

 それは、雄介からのバースデープレゼント。

 自分が死んでもなお雅人のために用意した、師から弟子への最期の祝福。

 

『このバイクの名前はビートチェイサー。俺が君と出会う前、まだ日本を活動の拠点にして戦っていた時に使っていたものだ。いろんな人に協力してもらいながら『ゴウラム』と適合するように作ったから、どれだけ融合しても金属疲労による崩壊や故障は起きないはずだ。これからの君の戦いに役立ててほしい。

 俺のおさがりでごめんな?』

 

「そんなことはない……そんなことはないです師匠……。

 今までの、どんなものよりも…………うれしいです」

 

『俺が、君にどれだけ多くのことを伝えられたかはわからない。ちゃんと師匠をできていたのかも、不安で仕方がない』

 

「最高の師匠でした……。多くの、本当に多くのことを教えてもらいました!」

 

『君には、俺に関わらずに幸せに生きてほしかった』

 

「幸せでした! 貴方と過ごした日々は、俺の一番の宝物です!」

 

『それでも君がこれからもクウガとしての道を歩み続けるのなら、どうかこれを受け取ってほしい。

 ……体に気を付けて、無理はしないように。何かあったら、一条さんや椿さんを頼ってくれ。

 あんまり長く喋るのもあれだし、ここまでで。

 誕生日おめでとう。これからの君の人生が、どうか平和で幸せなものでありますように……』

 

 雄介からの祝福が終わっても、雅人は動かない。

 俯き、肩を震わせ、涙をこらえ、それでも堪え切れなかったのか両の眼からとめどなく涙があふれてくる。

 

 やがて雅人は服の袖で涙をぬぐい、顔を上げる。

 

「……もう一度、貴方の声が聞けて良かった。

 ビートチェイサー……確かに受け取りました」

 

 ビートチェイサーのハンドルに引っ掛けてあったヘルメットをかぶり、その席に跨る。

 留め具を蹴って地面と平行に立たせ、エンジンをふかせる。

 

 それと同時に倉庫のシャッターが勝手に開く。

 ゆっくりと開いていくシャッターを見ながら、かつて雄介に教わったことを思い出す。

 

「行こう、ビートチェイサー。俺達で師匠の代わりになるんだ。誰かの笑顔の為に!」

 

 シャッターが開き切ったところでハンドルを回す。

 普通のバイクとは違う少し高い音を響かせながら、雅人はビートチェイサーに乗って走り出す。

 

 6月9日。

 この日を境に、クウガは日本から姿を消す。

 

 彼がこの地に戻ってくるのは、それから3ヶ月後。

 

 新たな力と僅かな闇を抱えて日本の地に降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 というわけで第一部エピローグ代わりの十五話。嘗てない長さでお送りしました。
 当初はこの半分くらいの長さだったのにどうしてこうなった! 前後編に分けてもよかったんですけど、どこで切ろうか悩んで結局そのまま投稿。この長さはこれ以降ないと思いたい。

 今回と次回は戦記絶唱しないシンフォギアあたりでしか語られなかった響たちが行方不明になってから本編開始までの間の話。そして雅人君の旅立ちです。ちょっと時間がかかったのはプロットの大幅変更をしたからです。というのも、当初は雅人君はここで一度二課から離脱させるつもりだったんですよ。冒険中に行方不明になり音信不通。戻ってきたらF.I.Sと一緒にいた的な構想を考えてたんですが、途中で今考えているストーリーを思いついて路線変更。どっちにしろウェル博士には散々な目にあってもらいますがね。要望があればIFルートとしていつか載せます。

 そして登場したのは一条さんと椿さん。口調が若干違ったり立場が違うのは五代さんの世代からだいぶ時間がたってるからです。イメージとしては二人とも40代後半~50代前半ですね。なぜ仮設本部に入れたかというと、そこまで偉い地位に上り詰めちゃったからです。因みにこれ以降出番は考えていません。今回限りのゲストです。ポレポレ書きたい。

 ひびみくとの別れシーン。この時の未来さんの心情を考えると結構つらかった。親友はお空の上で今も見つかってなくて仲良くなった気になる男の子が遠い国に言っちゃうとか……作者は鬼畜ですかね? でも仕方ないです。雅人君強化フラグを立てたかったんです!

 そしてみなさんお待ちかねのビートチェイサーさん。トライチェイサーアニキはすでに全国の白バイ警官さんの標準装備にされています。ここにあるのは五代さんが長年使い続け、雅人君を弟子に取ると同時に一条さんに預けたものです。この録音を残している時点で、五代さんは自分の命が長くないと確信していました。


 パスポートは突っ込んじゃダメよ? 作者との約束だ☆!

 うん、ごめんなさい。いい理由が思いつかなかったからはぐらかしただけです。た、たぶん一条さんとかに頼んだんじゃないですか?(震え声)
 誰かいい案が浮かんだら教えてください。



 というわけで次回から第二部! みんな大好き杉田博士の登場だよ!



 次回予告……第二部からはシンフォギア風の予告になります。



 異国の地、たった一人修行の旅に出た戦士は狂気と出会う。

 狂気を狂気と気付かず、彼は一人、異国の地にて戦い続ける。

 師に、友に、戦友に追いつくために。

 第十六話 『帰還』

 新たな力を手にした戦士は狂気と共に祖国の地を踏む。

 ここに、世界終焉へのカウントダウンが刻まれる。
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