真人間には向かないプラン   作:ikos

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10秒でわかるこの話の前提(あらすじ)

・時間を逆行したフロイトが621に惚れてる話
・前周ではなんだかんだあってコーラルリリースを目論んだフロイトを621が撃破
・デキてたようなデキてなかったような、とりあえず621がヴェスパーに勧誘されてすごい回数戦ってた

以上だけ踏まえていただければたぶん大丈夫な、フロイトが主人公のお話となります。
一応前周はこれ。




CHAPTER 1:A good beginning makes a good ending.
壁越えと勧誘と


 

 

 悪くない死に方だった。

 いつだか(うそぶ)いた望みの通りに、最愛の女と最高に楽しい戦闘を繰り広げ、まあ敗れはしたが、わりと満足して死んだ。――そのはずだった。

 

 気がついたら、ルビコンに来て半年ほどの時点に時間が巻き戻っていたのは、一体何の悪魔のいたずらだろうか。

 

 さすがにこれが地獄というわけでもないだろう。ヴェスパー部隊も健在で物資も豊富、娯楽は少ないが実際のところ大した不自由はない。ルビコンという辺境の、なにより「封鎖惑星」にありながら、恵まれた環境にも程がある。

 それを維持するのが大変だと実感してしまえば、面倒ごとのすべてを一手に引き受けるスネイルに感謝のひとつも湧いてこようというものだ。一度何かの(はず)みでそう口にしたところ、本気で心底気持ち悪いものを見るような目でドン引きされた。その次には何を企んでいるのかと腹を疑われた。そういうやつだったな、となんだか懐かしいような気分になる。

 

 それにしても、わけの分からない状況だ。

 特に未練があったつもりもないんだが――と考え、ふと、記憶に引っかかりを覚えた。

 それがどんなものだったのかを思い出したのは、巻き戻ってから10日ほども経った頃だった。

 

 それは、嗚咽(おえつ)の声だった。

 よく知る声だった。

 ……擦り切れそうな声で、名前を、呼んでいた。

 

 死の間際に知覚したそれらをあらためて取り出して、なんとも言えない感情が浮かんだ。

 まさか、あんな風に泣かせるとは思っていなかったのだ。

 自分が楽しいからあいつも楽しんでいるものだと思っていた。だが、どうやら、何かを決定的に間違ってしまったらしい。

 情の深いところはあれど(つよ)い女だ。1年以上あれだけ一緒にいて、泣くところなど一度だって見たことがなかった。その女が悲痛に名前を呼んだ意味をさらに3日ほど考えて、ようやく、納得した。

 これは多分、反省というものだ。

 

 ACそのものになるということも実際そこまで面白くなかったことだし、せっかくやり直すことができるのだから、今度はもう少し別の面白さを突き詰めたい。

 

 どんな道をたどるにしても、隣にはもちろんあの存在が必要だ。そうでなければ人生自体が退屈すぎる。

 そして今度は、手放す気はない。

 

 決めるが早いかスネイルのところへ足を運んだ。「レイヴンという独立傭兵から売り込みが来たら、絶対に俺を出せ」と言い含め、指折り数えてその日を待った。スネイルからは(ワニ)がドレスを着て踊っているのを見るような目で見られた。本当に失礼なやつだ。

 本音を言えば前倒ししてしまいたいくらいだったが、下手に変えて失敗するわけにはいかない。暇つぶしにRaDの土建AC(WRECKER)一式で適当な番号付きと模擬戦をやったりもしたが、気を紛らわせるためだったはずなのに、ついつい「今のあいつならどう動くか」などと考えてしまう。重症だ。

 

 

 

 そして、ようやくその日がやってきた。

 ルビコン解放戦線防衛拠点、通称「壁」の攻略。

 

 

 

 モニタ内で展開される攻防戦は激しさを増していた。解放戦線は先に到達したベイラムの部隊をどうにか撃退したものの、そこを狙ってきたアーキバスとの交戦は厳しいものがあるのだろう。

 だが、思ったよりも善戦しているようだ。前回は経緯も状況もまったく気にしていなかったが、改めて色々考えて眺めてみると、なかなか頑張っていたのだと感心する。要塞というだけのことはあった。

 レイヴンはもう到着しているだろうか。

 友軍から送られてくるデータをしきりに切り替えていると、スネイルが苦々しげに小言を繰り出した。

 

《もう一度確認しますが、フロイト。作戦目標はあくまで重装機動砲台 「ジャガーノート」の撃破です。やたらとレイヴンとかいう独立傭兵を気にしているようですが、待ちくたびれて出迎えに行くような真似はしないように》

「必要ない。あいつならすぐに来る」

《……どういう意味です? 今まで、あれと接点はなかったはずですが》

「さあな。ちょっとはしゃいでるんだ、忘れろ」

《まったく……。いいですか、間違っても街区で駄犬と遊ぼうなどとは思わないことです》

「わかっているさ、スネイル。作戦終了後の壁上ならいいってことだろう?」

 

 力の限りのため息で返された。反対はしなかったのが回答だった。

 やがてスネイルからゴーサインが出た。MTを蹴散らしながら壁上へと向かう。あまりに待ちに待っていたせいで、どうしようもなく気持ちが逸ったが、早く着きすぎてしまっては仕方がない。途中で少し遠回りをすることにした。

 わざわざ表に回って、立ち並ぶ砲台をレーザーブレードでのんびりと潰していく。高くから見下ろす旧街区は薄い雪化粧に覆われて、なかなか綺麗な光景だった。天気が良いから、雪面が光を弾いて輝いている。

 

 やがて天候は悪化し、風が強くなって雪を舞い散らせ始めた。

 

 白く塗りつぶされた壁上に降り立つと、ちょうどよく隔壁が開いたところだった。

 やっと会えたレイヴンは、懐かしい灰色(ロービジ)の二脚ACだった。――そう、一番最初はこれだった。

 もうやたらと気分が盛り上がってしまって、平静を装うのに苦労した。

 

「お前がレイヴンか。ウォルターの子飼いだと聞いたが……いいな、かなり面白そうだ」

《それはどうも》

 

 愛想のない声に笑った。記憶通りの塩対応だ。

 警告音とほぼ同時に、派手な破壊音が響く。

 重機をそのまま兵器にしたような、無骨な四角いフォルムの大型兵器が、滑り込むように姿を見せた。

 

「まずはさっさとこいつを片付けよう。その後で俺と遊んでくれ」

《……どういう意味?》

「後でわかるさ」

 

 雪煙を立て、ジャガーノートが突進してくる。重量と速度はなかなかだが、動きは直線的だ。前面しか守っていない分厚い装甲といい、改めて見ると、あくまでこれは“移動砲台”なのだろう。前面の装甲で攻撃に耐えつつ、遠距離から大口径の弾を撃ち出す設計思想なので、懐に潜り込まれると後手に回る。それをカバーするための地雷散布と機動力なのだろうが、おそらくこれは後付けだ。うまく機能しているとは言いがたい。

 片付けるのは簡単だったが、途中で思い直してレイヴンのサポートに回った。確か、前回はそうしていたはずだ。

 最初こそ動きに振り回される様子だったレイヴンは、すぐに順応して頭上を取り始めた。

 首尾良く1台目のジャガーノートを破壊したところで、スネイルから通信が入った。

 

《フロイト、解放戦線がそちらに戦力を集約させようとしているようです。編成は――》

「ああ、大体わかってるからいい」

《は? フロイ――》

 

 会話をするのももどかしく通信を切った。

 レイヴンのACがこちらへ向く。

 

「司令部のスネイルから通信が入った。どうも、こちらに結構な数の増援が向かっているらしい。挟撃を狙ったようだが……仕事が早くて結構だ。その心配はなくなったな」

《……そうね。それで?》

「わざわざ向こうから来てくれるんだ、迎えに行く必要はない。……追加が来るまでの間、お前とやり合って待っていればいい」

 

 唖然としたような沈黙が落ちた。

 その顔が目に浮かぶようで、笑みを噛み殺す。

 

《……楽しくない冗談ね。私にメリットがないわ。仕事でもないのに、トップランカーと戦わなきゃいけないの? 弾も修理費もただじゃないんだけど》

「メリットか。そうだな、とりあえず50万COAMでどうだ?」

《……50万?》

「ああ」

《条件は? 貴方に勝てたらってこと?》

「いや、純粋にファイトマネーだな。俺に勝てたら、そこからさらに50万出そう。合計で100万だ」

 

 困惑気味にレイヴンが沈黙する。ワクワクしながら返答を待った。

 今の彼女は、身体を治すために金を必要としている。

 (yes)、という回答が出るまで、そう時間はかからなかった。

 

 途方もない程の喜びを覚えながら銃口を向けあった。

 照準補正(FCS)のごまかし方にまだ慣れていないのか、ずいぶんと素直に当たる。苛立ちと焦燥が伝わってきた。

 そこで諦めずに無茶な機動を試してみたり、実に気持ちいいタイミングで弾切れの武器を投擲してきたりと工夫をこらしてくるのだから、たまらない。思い切りがいいのに捨て身ではないのだ。――勝つためにそうしている。

 

 今のレイヴンは記憶よりも弱かったので、あっという間に終わらせてしまわないよう、手加減にまた苦労した。

 考えてみれば当然だ。前回散々自分(トップランカー)と戦って強くなった女と、今の彼女では、腕前に天地ほどの差がある。そして、蓄積した戦闘の経験は、こちらの技量をも大きく引き上げていた。前回と同じようにはいかないほどに。

 

 それでも、楽しかった。

 このうえなくワクワクした。少しもがっかりせずに確信した。これは紛れもなくレイヴンで、これからどんどん伸びる、可能性の塊だ。胸が高鳴らないわけがない。

 

 やっと会えた、と、心底思った。

 

 

 

 

          - / - -

 

 

 

 

 記憶通りに増援が邪魔に入ったが、そろそろレイヴンの装甲が厳しそうな状況だったので、まあ良い頃合いだった。

 

 仕事を終え、ますます逸る気持ちを抑えて拠点に戻った。スネイルの小言を右から左に聞き流して浮足立ちながら戦闘ログを見返し、大体同じくらいの時間に通信を入れる。

 かなり待たされてから、耳に馴染んだ声が応じた。

 

《――こんばんは、第1隊長さん。何か用事でも?》

 

 いい声だな、と思った。

 高くなく、それでいて、すっと綺麗に通る声だ。女の撃ち筋によく似ている。

 

「フロイトだ。そう呼んでくれ、レイヴン。今日は本当に楽しかった。礼を言う。……お前の戦い方、まさに猟犬といった感じだったな。いい腕だ」

《……それはどうも。お値段に応じられたなら良かったわ》

 

 淡々としていたが、ほんの僅か、拗ねたような響きがあった。

 力量差をわかっているのだろう。負けず嫌いぶりが健在で嬉しくなる。

 

「一つ確認しておくが、お前はウォルターの猟犬なんだろう?」

 

 心なしか、向こうの空気が張り詰めた気がした。

 

「ハンドラー・ウォルターの噂は俺も聞いている。(かび)の生えた旧世代型の強化人間ばかりを拾っては手駒に加え、ルビコンを目指している、とな。奴が何を目的にしているかは大して興味がないが……コーラルのもたらす莫大な利益とやらがそれだと、お前は思っているのか? それにしては割に合わないほど大きな“投資”をしているようだが」

《……それこそ、大して興味はないわ。私は私の仕事をするだけよ。借りを返して、それ以上に稼ぐだけ》

 

 抑揚なく答えてくる。

 あからさまな警戒の気配に、喉で笑った。

 

「なら、質問を変えよう。いくら出せば、お前は俺のものになる?」

《……どういう意味?》

「そのままの意味だ。俺はお前を手元に置きたい。ウォルターの子飼いのままだと好きな時に戦えないからな。毎回50万払うのも、一括で5000万を払うのも大差はないさ。100回やれば(つり)が来る」

 

 レイヴンが動揺に息を呑む。

 まぎれもなく本音だ。実際に釣が来たし、あの一年間にはそれ以上の価値があった。

 

《いきなり、何を……本気なの?》

「悪くない話だろう? 別に、ウォルターからの仕事を受け続けても構わない。お前の行動を縛るようなことはしないさ」

 

 迷うような沈黙の後、レイヴンが言った。

 

《……わからないわ。貴方になんの得があるの? 正直に言って、買い被られるには力の差がありすぎる》

「そうでもない。お前はこれからどんどん伸びる奴だ。俺はそれと戦いたい」

《……純粋に、可能性を買ってくれたということ?》

「まあ、そうなる」

 

 純粋かと問われると言葉に困るのだが、とりあえず頷いておいた。

 それにしても、こんな会話があっただろうか。やたら疑われている気がする。手加減の仕方が下手だったのかもしれない。機体の構成をもう少し考えたほうが良さそうだ。

 

 今度の沈黙は長かった。

 やがてレイヴンが、心を決めたように、ひとつ息を吐いた。

 

《……悪いけど、遠慮しておくわ》

 

 予想だにしない返答だった。

 そのまま通信を切りそうな気配さえあったので、あわてて引き止める。

 

「待て、何が悪かった? 条件なら交渉に応じる」

《貴方を信用する根拠がないの。どちらにしても縛られるなら、今の飼い主を選ぶわ。……どうにも下心がある気がするし。そんな意味で飼われるのは遠慮したいわね》

「仕方ないだろ、どれだけ待ったと思ってるんだ!」

《今日が初対面だと思うけど?……まあ、今回みたいな戦闘ならいつでも応じるわ。ちゃんと対価を貰えるならね。――じゃあ、また、機会があれば》

 

 今度こそ通信を切られた。

 呆然として声を失う。

 暗くなったモニタが、なんとも言えない虚しさを漂わせていた。

 

 

 

 

          - / - -

 

 

 

 

 

 翌日になっても結構引きずっていたので、たまたま目についた第4隊長を模擬戦に付き合わせた。

 たまたま通りかかったからだ。あくまでそれだけだ。女に振られたことなどありませんが、といった感じの爽やかな面に腹が立ったからなどではない。断じて。

 

 いつも通り、自分に枷をはめたようなつまらない戦い方だったが、今日は少しばかり手応えが違った。

 おかげで結構楽しめた。それがどうにも腹立たしい。

 よほど普段と様子が違って見えたのか、そのV.Ⅳが探りを入れに来た。

 

「いつになく感情的な戦い方だったな、首席隊長殿。貴方にしてはめずらしい」

「どうめずらしいんだ?」

 

 キャットウォークで手摺りにもたれ、ロックスミスを見上げたまま訊ねた。隣からは、少し驚いたような気配が返ってきた。

 今日はまったく、不甲斐ない戦いだった。愛機(こいつ)に申し訳ない。

 

 アセンブリを変えて一回目の戦闘だ。手加減のしやすさを色々と考えて、とりあえず一発の攻撃力を下げることにした。

 右手は引き続きRF-024 TURNER(普及型アサルトライフル)

 左手はレーザーブレードからVP-67LD(レーザーダガー)に、

 肩はスプレッドバズーカをKRANICH/60Z(パルスキャノン)に変えた。レーザードローンはそのままだ。前のレイヴンが気に入っていたので、しばらく見せたい。ちょっとやってみたいこともある。

 

 全体的に火力を落としたのは事実だが、今日の問題点はそこではない。被弾の多さだ。

 フレームも内装も変えていない。重量が少し減っただけなのだから、これは単純に、集中力の欠如が原因だった。

 憮然と黙り込んでいると、V.Ⅳが慎重な声音で言った。

 

「そうだな……。気を悪くしないでほしいんだが、人間を、相手にしているようだった」

 

 遠慮するわりに、随分な言いようだ。

 いつでもお行儀の良かったこの男が、これまでこんな言い方をしてきたことはない。

 そうだろうとも、人生で一、二を争うくらい落ち込んでいるところだ。せっかくあの日まで我慢して待ったというのに、一体何をしくじったのだろう。

 やる気が出ないまま、適当に応じた。

 

「お前たちより人間の比率は高いからな」

「いつもはそうは思えない、ということさ」

「……いつもか……そっちのほうが良かったんだろうかな……」

 

 ずるりと手摺りにずり落ちた。とうとうため息までこぼしてしまう。

 

「何か悩み事でも?」

「ああ。……手に入れたいものができた」

「……貴方がか?」

 

 小器用に片眉を顰めてみせる。ヴェスパーの首席隊長がそれを言うのかと、態度がそう言っていた。その権限と重要性と財力に物を言わせて手に入れられないものはないだろう、と。

 普通ならそうなのだろうが、こればかりは、ベイラムのパーツのように横車を押せばなんとかなるものでもないのだ。

 それを自覚できただけ、我ながら、かなり成長したと思う。

 答えないでいると、4番が冗談めかして言った。

 

「女とも思えないが、まるで恋(わずら)いだな」

「いや、女だ。間違ってない」

「……それは……。……驚きだな……」

 

 言葉を選ぼうとして、結局諦めたようだった。どのあたりが意外だと言われるのか、自分ではわからない。

 もうひとつため息を吐いた。なるほど、()()だ。

 最初に失敗してしまった以上、あの頑固な女が気を変えてなびくとは思えない。

 つまりはアーキバスに来ることはないということで――下手をすると、隣に立つためには、前回の終着地点までたどり着かなければいけないかもしれなかった。

 

 考えてみれば、まあ彼女の独力ではないにしても、よくあれほどの多勢力を取りまとめて調整したものだ。

 

 まずはオーバーシアー。

 彼女の飼い主が志を同じくしている。オールマインドの言を借りれば「コーラルの可能性を否定し、危険性ばかりをみて根絶を企む」組織だ。

 

 次にオキーフ。

 ヴェスパーの情報部門統括責任者だ。前回の動きはあくまで個人としてのものだったが、その諜報網と人脈の広さは組織のそれに近い。これもオールマインドが言うには「コーラルリリースがもつ可能性を理解できなかった離反者」である。しかしあの男があれに賛同するところが思い浮かべられないので、おそらく普通に、業務上の情報収集の延長線上だったのだろう。

 

 更には、ルビコン解放戦線。

 企業勢力の駆逐を願いルビコンの独立を狙う不法滞留者の集団である。生活のためにコーラルを必要としているはずだ。コーラルを焼くなど本来は言語道断ではないのか、いまだによくわからない。

 

 おまけに、それら一切合切をまとめてルビコンから追い払い封鎖を完成させようという立場の、惑星封鎖機構まで協力関係にあった。これはさらに、輪をかけてわからない。逆にここまでくると、さすがだと感嘆する気持ちにすらなる。

 

 ことごとく利益相反がとんでもない話だ。これを全部用意しようとなると、どうにも、面倒だなと思わざるを得ない。遠回りにもほどがある。もっと何か、手っ取り早いものはないだろうか。

 ぼんやり考えながら、なんとなく訊ねた。

 

「……なあ、ルビコンの平和って何だろうな」

 

 V.Ⅳが行儀のいい笑顔を浮かべたまま固まった。

 多分、ぎょっとしたのだろう。反応までにかなりの間があった。

 

「……貴方の口から出た言葉とは思えないな……。もしかして、その相手は、解放戦線の関係者なのだろうか」

「いや、独立傭兵だ」

「……独立傭兵とルビコンの平和に、何か関係が?」

 

 いかにも怪訝そうだ。とうとう上っ面を捨てて本気の質問になってきた。

 別に聞かれて困るものでもない。頷いて返した。

 

「どうやらそうらしい」

「そう『らしい』、とは。……ずいぶん曖昧だが……名前を聞いても?」

「別にいいが、横から取ろうとするなよ」

 

 なにしろ前科がある。また同じように解放戦線へ引き抜かれるのは業腹だ。

 本気で釘を刺したつもりだったのだが、Ⅳは手の甲を口元に当てて顔を背けた。

 どうやら吹き出しそうになったらしい。少しばかり肩を震わせ、咳払いでごまかしている。

 

「……承知した。約束しよう。それで、名前は?」

「Rb23 レイヴンだ」

「ああ、“壁越え”の。……なるほど、そこで見初(みそ)めたというわけか」

「そういうわけでもない。ずっと前から知っている」

「ずっと前? どこでの話だろう。アイランド・フォーで因縁でも?」

「いや、そっちじゃなく……まあ、色々あったんだ」

 

 適当に言葉を濁した。下手に色々と喋らないほうが良さそうだ。

 首をひねる4番の顔に探るような色はないが、それなりに嘘の巧い男だということは知っている。まあ、探って真相にたどり着けるようなものでもないので構わない。

 

「事情はよくわからないが……その女性が実際『ルビコンの平和』とやらにご執心ならば、貴方の立場は、確かに障害になるだろうな。なにしろ星外企業の武力実行部隊のトップだ」

「だろうな。その辺はどうとでもなる。とりあえずは……」

 

 口にしてから考えた。

 とりあえずは、なんだろう。――まあとりあえず自分の欲求としては2回目をやりたい。戦うことは拒まないと言われたわけなのだし。

 当面はとにかく、接点を持って距離を詰めていくしかないだろう。

 後のことは追々だ。

 

「……とりあえずは、まあ、金を使うか」

 

 V.Ⅳが何故か盛大に()せた。

 

 

 

 




2回目だからって詳細な会話の再現ができるわけないんですよね、がんばれ


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