前回に引き続きフロイト以外。今回はラミーさん視点です。
正直とても楽しかった。
ジャンカー・コヨーテスによって仕掛けられた機密情報窃取防衛戦において、ラミーは引き続きレイヴンと組むことになった。
躍り上がって命令を受けたのは言うまでもない。
なにしろすっかり魅了されてしまった。実力は折り紙付きだ。現場に急行しながら、何の文句もなくレイヴンの指示を聞いた。
《私はハッキングドローンの探索と破壊に集中するわ。周辺の安全確保をお願い》
「へっ、ようは奴らを蹴散らしゃいいんでしょう? 見ててくださいよォ!」
《よろしく。遅れないようついてきて》
最初の隔壁を開き、
威勢良く応じたものの、レイヴンの動きはあまりに速かった。
機体速度も勿論なのだが、まるで最初からハッキングドローンの設置場所をすべて把握しているかのように迷いがない。最短距離で次々と見つけ出しては破壊していくものだから、ボスが呆れ混じりに称賛をこぼしていた。
《やるねえ、レイヴン。どうやって把握してるんだ?》
《無線通信のトラフィックから算出して、マッピングして、最短経路をナビゲート、ってところ。詳しくは企業秘密》
《……へえ?》
平然とそんな会話をしながら、狭い施設内で障害物にぶつかることなく高速移動している時点で尋常じゃない。ひいこら言いながら追いついて、見慣れたRaD製の機体を破壊していく。
4つ目のハッキングドローンを破壊した時点で、嫌な駆動音が聞こえた。
飛びかかるような勢いで現れた機体に、レイヴンが言った。
《4脚は私が対応する。そこの隔壁を開けて》
「っと、任せろ!」
解錠プロセスを走らせながら、扉を背にショットガンを構えた。
レイヴンの射撃を受け、敵機がRaDの4脚MTの独自仕様で天井へとしがみつく。ちょっと意表を突かれたような間があったが、レイヴンは素早く距離を詰めて、その脚へレーザーブレードを振り払った。天井を傷つけないギリギリの間合いだ。射線上が空いたので、落下する4脚MTへ引き金を引いた。
レイヴンはMTの正面へ跳ねるように回り込み、背面兵装の砲口内へリニアライフルの弾を叩き込んでいる。殺さない趣味だとは聞いていたが、ここまで手際が良いと感心の域だ。思わず口笛を吹いたとき、解錠プロセスが完了した。
「姐さん、開いたぜ! そっちは引き受ける!」
《了解》
入れ替わるように
機動力が落ちた4脚MTを追い回しているうち、ハッキングドローンはすべて破壊できたようだ。ボスから上機嫌な通信が入った。
《よくやったね、二人共。まさかこっちのカウンターハックより早く片付けるとは思わなかったよ。……さて、あとは、かわいそうな我が子達の成れの果てを片付けてやってくれ。その間に仕事を済ませる》
残りは無人機ばかりだ。大して時間もかからず片付き、その場で待機となった。
武装を維持したまま、レイヴンが声をかけてくる。
《最後のあれ、いい仕事だったわ。息が合ってきた感じね》
「いやあ……」
ほとんど追いつけていなかったので、本当に最後だけだ。
もし今後も組む機会があるのなら、ボスに色々と相談したほうがいいかもしれない。
コーラル中毒のチンピラのコミュニケーションなど大体がそんなものだ。馬鹿にし合って脳を使わず悪態を吐いて、時々行き過ぎて流血沙汰になる。双方向の自虐と嘲弄で同類意識を云々と言っていたのは
それをMTの名前にしていた奴もいたが、あいつはどうなったのだったか。まだ生きていたか、もう死んだのだったか。現実と幻覚が入り混じっていまいち自信がない。
そんな具合だったから、数少ないACを与えられ、「
そんな折に出会った
まるで極上のコーラルだ。パチパチと弾けながらガツンと目を醒ますような鮮烈さ。「強い」というのはそれだけで特権めいた引力を持つ。うっとりするような純粋な力を見せつけられ、心臓を鷲掴みにされた。
ランク1と対等にやりあえるAC乗りなど――本人は「まだ手加減されてるけど」などと不満げだったが――もはや仰ぎ見すぎて首が痛くなるほど頭上の星だ。
その特別な星が、蔑むでもなく邪険にもせず、ごく普通に仕事相手と認めて接してくるのだ。メジャーリーガーに声をかけられた野球少年のようなもの。浮足立たないわけがない。
ましてや、命を救われたとなればなおさらだ。あまりに忘れたくなくて、記憶が定着するまではと、コーラルの量を少しばかり控えた程度には。
待機中の時間つぶしにそんな話をすると、レイヴンがため息をついた。
《あれはびっくりした……。貴方からしたら巻き込まれたようなものよね。ごめん》
「いやいや姐さんが謝ることじゃねえや、この通りピンピンしてますって!」
ぶんぶんとACの腕を振り回して見せる。実は打ち身であちこち痛かったが、そこは見栄の張りどころだ。
大体がRaDは酔っ払いだらけで、20日に1回はキャットウォークから誰かしら落ちている。そしてわりと死んでいない。
そんな話を大げさに話すと、ようやく笑ってもらえた。
《「姐さん」はちょっと。レイヴンでいいわ》
「あー……じゃあ、レイヴンさん?」
なにか敬意を付け加えたくてそう言うと、それは止められなかった。
ふむ、と考えるような気配がする。
《じゃあ私も、「さん」をつけることにするわ》
「うえっ!? 勘弁してくださいよォ!」
《敬意には敬意を返す方なの。最初があれでもね》
「……意地が悪ぃや」
へへっと肩を竦めて笑った。ちょっとばかり据わりは悪いが、なんだか特別感があってむず痒い。ボスでさえ呼び捨てだというのに。
「それにしても、あの……V.Ⅰ? だったか? ……あいつ、レイヴンさんの迷惑になってんじゃないんすかねえ。ケツ追いかけ回されてるとかって聞きましたよ。なんだったら俺がバシーッと」
《……昨日の今日でそれを言えるの、本当にすごいと思うわ》
呆れよりも感心めいた声に、つい調子に乗ってしまう。
「そりゃ昨日はうっかりやられちまいましたがね、ドーザーにはドーザーのやり方ってのがあるんでさあ。あんまり舐めてもらっちゃ困る」
《なるほど……そういう考え方もあるのね》
「遠慮はいらねえ、ボスなら良い知恵をくれますって!」
《……遠慮……遠慮というか……》
パチパチとコーラルの弾けるような音がした。
あれ、と違和感を追っているうち、レイヴンが絞り出すように言った。
《……なんて、いうのか。……意見の相違があるだけで、迷惑ではないというか、対価は貰っているし……》
「んん? わかんねえな、ようは何なんすか?」
《っ……ようはただの痴話喧嘩未満なのでご対応は不要です、以上!》
「……あ、そうすか……」
《…………》
「……レイヴンさん……言っちゃ悪いがあんた、趣味が悪い……?」
《私も人のことを言える人間ではないから、ノーコメントで……!》
そんなこたないだろうがなあ、と首を傾げた。
愛想はそんなにないが、気さくでそこそこ折り目正しい、気の良いやつだ。こんな風に恥ずかしがる辺り、それなりに可愛げもあるだろう。
それにしても、あの背筋がぞくぞくするような戦闘が、
だがまあ――コーラルもキメずにしょっちゅうあんな事をやっているのなら、確かにちょっとばかり、ぶっ飛んでいるかもしれない。
レイヴンが唸るように言った。
《……予想外過ぎて、実際、自分でもまだ困惑してる……》
「あー、まあ、そういうもんなんでしょうや。惚れた腫れたってのは」
《そうかな……こんな状況で、そんなのやってる場合かって我ながら……》
どうにも違和感のある言葉に、顔をしかめて首を捻った。
「そりゃあ違うんじゃねえか、レイヴンさん。やってる場合もクソもねえや。そんなこと言ってるうちに、おっ死んだらどうすんだ」
《それは……もう、そういうものだったんだってことでしょう》
「そうかあ? なんでわざわざ後回しにするんだ? あんたの人生だろう。俺ぁ馬鹿だからわかってねえだけかもしれねえが、遠慮するなんて馬鹿らしいや」
レイヴンが言葉に詰まり、迷うような様子をみせる。
いらないことを言ったような気になって慌てたとき、ボスから笑い混じりの通信が入った。
《こりゃ一本取られたねえ、レイヴン。さてと、カウンタープログラムも完走だ。連中と主要取引先のサーバーを全部焼いておいた。これでコヨーテスもしばらくは大人しく……
――待ちな、レーダーに敵影。増援か?》
あわててレーダーを確認した。反応はひとつ。機体を反転させたレイヴンが外へと向かうのを追いかけた。
カメラが機影を捉える。やがて機体情報が反映された。
AC「エンタングル」――ランク15位、識別名は。
《……スッラ》
レイヴンが名を呼んだ。思わずこちらまで身を竦めてしまうほど、凍てつくような声だった。
大きく息を吸って吐き出し、威嚇するように低く続ける。
《……早々に姿を見せてくれて何よりだわ。貴方だけは、殺しておかないと安心できない》
《これはこれは。盗人がよく吠えたものだなァ、犬。……殺せるのか、お前に?》
ねっとりとした声に、レイヴンはミサイルで応じた。
鋭い声がこちらに飛んでくる。
《マッドスタンプ、屋内に下がって。庇いながらは戦えない》
「はい!? いや、でも――」
《いたらこいつに利用される。離脱して。早く!》
《言うとおりにしな、ラミー! あんたは足手まといだ!》
レイヴンが避けたプラズマミサイルが近くに着弾し、紫色の光を散らす。
ボスの声に唸り、指示へと従って後退した。
《――よし、このまま施錠する》
「ボス!?」
《あいつは手段を選ばない。こっちの拠点に入られたら対処が厄介だ……。レイヴンなら心配なんざいらないさ。相手はドブみたいな
よく知っているかのような口振りだった。嫌になるほどに。以前に、とんでもない苦杯を飲まされたかのような。
焦燥感に駆られながら格子越しに戦闘を見る。ボスがため息を吐き、「少しは離れな」と言ってモニタにカメラ映像を映した。
一対一かと思いきや、予想しない場所からレーザーの光線が飛んでいる。ちらちらとモニタがちらつき、ボスが舌打ちした。
《ステルス機……MDDか? 面倒な……!》
《……やっぱりお供をつれているというわけね》
レイヴンの言葉に顔色を変えた。
多対一、それも並々ならぬ因縁の相手という感じだ。
「――ボス!」
《やかましい、黙ってな! 今準備させてる……あんたじゃ援護には不向きだ!》
かつてなく余裕のない、苛々とした声に言葉を飲み込んだ。
拳を握りしめ、戦況を見守る。
レイヴンはステルス機から対処することにしたようだ。ACから視線を離すことなく、飛び交う攻撃を避け、最小限の動きで1機ずつ破壊していく。
躊躇なくジェネレーターのあるコア部分を狙っているということは、無人機なのだろう。
この数でこのサイズの無人機など見たことがない。機能もほとんどACだ。
加速したエンタングルがレイヴンに迫る。撃ち抜いた無人機を掴んだレイヴンが、その機体を叩きつけるようにして蹴りをいなした。
驚くような気配がした。すかさず距離を詰めてブレードを振るうが、敵機を掠めただけだ。そのまま中距離で撃ち合う。その合間に、レイヴンは着実に無人機を減らしていった。
《血相を変えたわりに、随分と慎重だなァ、猟犬。仇を前に随分と回り道をするじゃないか。これなら、この間私が殺した犬の方が気概があったぞ?》
《お粗末な挑発ね。メインディッシュは黙っていて》
《ククッ……雌犬らしく、我慢を知らぬらしい》
《逆じゃない?》
自分の方が頭に血を上らせたが、レイヴンは冷ややかに一言で切り捨てた。
そうして、挑発的に鼻で笑う。
《よく口が回るようだけど、大人しく順番も待てないのかしら》
《さて、飽きて帰ってしまうかもしれんぞ?》
《何をしに来たのか不思議になるわね》
ステルス機が放った鞭のような武器が標的を捉えそこねて床を打つ。懐に入ったレイヴンがワイヤー部分を引き倒してレーザーブレードを突き込み、返す手で、エンタングルへとリニアライフルを放った。
《私を殺しにきたんでしょう? 無人機を失っただけで逃げ帰るほど、腰抜けではないと思いたいところね》
《……なるほど。死兵だらけの猟犬は言うことが違う。もっとも、その大半は無駄死にのようだが……なんとも実に、憐れだなァ》
《貴方がどんな感想を持とうが勝手だけど、気持ち悪いからそろそろ黙ってもらえる?》
《おお、なんという言い様だ、嘆かわしい。先達への敬意が足りんな》
《無駄に長く生き過ぎじゃないかしら、ご老体。さっさとその悪運を使い果たして》
弾を撃ち合うのと同じくらい、悪意を突き刺すようなやりとりだった。
ぶち殺す、という副音声が聞こえた気分だ。氷点下の殺意に思わず首を竦めたとき、レーダーに反応があった。
飛来したミサイルが最後の無人機を潰す。AC「サーカス」――ボスは懐刀を投入したらしい。無機質な声が言った。
《ボスの命令だ。手を貸そう、レイヴン》
《……カーラ……》
《遠距離支援だけだ。逃がしたくないんだろう、渋るんじゃないよ》
レイヴンの渋い反応に、ボスが顎を上げた様子で言ってのける。
レーダー反応は、残りひとつ――AC エンタングルのみ。
ため息が聞こえた。
《……そうね、貴方の言うとおり。今度こそ終わらせないと》
《物語の主人公にでもなったつもりか、猟犬? 実に寒々しい。だが……残念ながら、こちらの雇い主は、臆病な枯れ枝として振る舞うことをご希望のようでな》
《な――》
息を飲んだレイヴンのノーデンスがブーストを噴かし、エンタングルにブレードを叩き込もうとする。
それをグレネードでいなし、不意に、男が気味の悪い笑い声をこぼした。
異変を察知してか、レイヴンがプロテクションを展開する。
破損した無人機が振動を始めたかと思うと、一斉に派手な爆発を起こした。熱と爆風に思わず顔を逸らす。心臓が縮まるようだった。
「自爆かよ!? ふざけやがって……レイヴンさん、無事か!」
爆発の余波が収まり、レイヴンの機体を探す。
展開したプロテクションでやり過ごしたらしい。ノーデンスは無事のようだったが、敵機の機体反応は消えていた。
《……まあ、ぎりぎり。目立った破損はなさそう》
「そりゃあ何よりだ……」
《普段はアサルトアーマーにしているんだけど……この機体だと危なっかしいかもね……。パルスアーマーにすべきかな……》
先ほどまでの殺気をすっかりと収めてひとりごちている。
切り替えの早さに空笑いして、肩から力を抜いた。
ボスからは無人機の残骸の回収命令があった。ようやく開いた隔壁から出て、ほとんど原型を留めていない機体を手分けしてチマチマと集めていく。
一旦離脱したチャティがコンテナを運んできた。散らかった玩具を片付けるかのように、その中へばらばらとパーツを放り込む。
「高そうな機体っすねえ」
《そうね。出所がわかれば良いんだけど》
「ボスならなんとかしてくれますって。……そういやぁ、あいつ、今日は来やせんでしたね」
《え?》
ああ、と気付いたようにレイヴンがこぼして、苦笑した。
《呼んでいるわけじゃないから、そういうこともあるわ》
「でも間が悪ィや。今日こそ来てほしかったでしょうよ」
《さすがにそれは、甘えじゃない? 逃げられたのは私の失態だもの。……次は、多少無理をしてでも、まずあのACを墜とすわ。仕留め方を考えておかないと》
真面目だなァと渋面になった。
拾った腕を眺めていたレイヴンが、ふと、思い出したように口を開く。
《そういえば、ラミーさん。さっきの話なんだけど》
「はい?」
《どうして“今は駄目”なのか》
「ああ! ……あー、なんだ、安心してくれていいですぜ! 明日にはきれいさっぱり忘れ――」
《……多分、こわいんだと思う》
「へっ?」
予想外の言葉だった。
思わず声が引っ繰り返ったが、レイヴンは少し笑って、その続きをはぐらかした。
《ウォルターにはもう、とびきりの我が儘をひとつ……ふたつかな? 聞いて貰っているから。ちゃんとその分を返さないとね。線引きは必要だわ》
「はあ。……そういうもんすか」
《そう。そういうもん、なの。やるべきことを見失わないようにしないと》
ふしぎと穏やかな声だった。
決意とも諦めとも、自制心ともつかない、やわらかな感情だった。
輝ける星。圧倒的な強者。その傲慢さが許されるほどの。
――そうか、と、理屈よりも感覚で理解した。
そもそも彼女は自由を選ばない。自分が番犬であるように、選んで、猟犬であるのだ。
なんだか妙に、手を貸してやりたいような気分になった。
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《レイヴン、カーラだ。カーゴランチャーの件だが……例の
《あとはアンタ次第だ。最速を求めるならゴーサインを出しな》
《向こうではウォルターが待機している。……まあ、悪いことにはしないだろうさ。生きていれば、ね》
《あいつの腹は決まっているようだ。返答を待っているよ》
ラミーさん絡みでは台詞含めこちらがかなり好きです。カッケェ……
https://twitter.com/zHgczzWNLw0jMhF/status/1705847270217077029
多分このあとこのノリで突破してる
(そしてレイヴンが後に引けなくなる)(シースパーダーはレイヴンが片付けたのだと思われる)
というわけで今回はカーゴランチャールートです。アンケートへのご協力ありがとうございました!