IA-02「アイスワーム」のリアクティブシールド突破には、それ相応の下準備がいる。
ベイラムとの一時停戦協定も結ばれ、スケジュールが想定想通りにぽっかりと空いた。またとないチャンスだ。これを幸いとシュナイダーに連絡を取り、新型機の試乗を取り付けた。
開発援助の決定を前倒しした割に時期がずれ込んだのは、彼らの望み通り2タイプの機体を作っていたからだろう。むしろ、かなり巻きの入った完成と言えた。
以前から打診しておいたデートのお誘いだ。レイヴンは通信越しにもわかるほど乗り気だったが、問題はウォルターだった。
シュナイダーのルビコン支社はベリウス地方にある。あちらで長距離航空機を用意しているとはいえ、ACを載せられるほど大きくはない。つまりは、人間だけで移動することになる。
一泊二日の不在期間、ACを降りたレイヴンに身を守る技能があまりないこと、
そこまでするのかと絶句したウォルターは、疲れ切ったため息とともに、レイヴンの外出を了承した。
当然スネイルには言っていない。
愛機に対して少しばかりばつの悪さはある。帰ったら久々に、自分で一から十までメンテナンスをするつもりだ。
当日、海岸近くの離着陸場までウォルターに送られてきたレイヴンは、例のストールを羽織っていた。
思わず表情が引っ込む。反射で複雑な気分が湧いてブレーキがかかったため、結果的に、無難に挨拶を交わすことができたのだが。
ウォルターに最後の念押しをされて送り出されたレイヴンが、スーツケースを傍らに苦笑いを浮かべ、小声で話しかけてきた。
「貴方が贈ってくれたんじゃない。似合わない?」
「似合う」
即答すると、意外だったのか目を丸くした。
似合うなんて褒め言葉はさんざん言ってきたつもりだったが、そういえば、AC以外のことで言うのは初めてだったかもしれない。
レイヴンはそろりと視線を落として、顔を伏せた。指がストールの
「……そ、う。……ありがとう」
「これで照れるのか」
「照れてない。いい大人なんだから」
身を寄せて囁きあっているのが周囲にはいちゃついているように見えたのだろう。待っていたシュナイダーの技術者がわざとらしい咳払いを落とし、営業が慌てた様子でその脇をどつく。それに気づいたレイヴンがしまったとばかり顔色を変えたので、営業が愛想良く笑いながら技術者の足をしたたかに踏み、物凄い勢いで手と首を振った。
「いえいえいえすみませんお気になさらず! 大変失礼を致しました、出発いたしましょう!!」
ちなみに今回、エアは欠席だ。
おしゃべりが丸二日喋れないのはきついだろうと、何らかの形で“参加”できるよう手を回そうかと打診したのだが、「……デート、ですから……っ!」と苦渋の滲みまくった声で辞退してきた。交信も感度を下げてくれるらしい。いいやつだな、と改めて思った。
エアがいるといないとでは、やはりレイヴンの態度が少し違う。
輸送機のタラップでレイヴンに手を差し伸べた。先程ほどではないが目を瞬かせたレイヴンが、気恥ずかしげにして首を傾げる。
「エスコート?」
「まあ口実だ」
ここで立ち止まっているのも、周囲に見られている状況で断るのも体裁が悪いと踏んだのだろう。降参するように苦笑して、大人しく手を預けてきた。
機内はそれなりの座席数があった。製造拠点をいくつか中央氷原に移したことから人員の移動が増え、急ピッチで用意した輸送機なのだという。
キャビンの席についても離さなかった手の柔らかさをふにふにと確かめていると、レイヴンがあきれたように言った。
「……少しは肉がついた?」
「ああ。順調だな」
「悪い魔女みた――……待って、今のは無し。何も言わないで」
「お前が言い出しておいてか?」
「予想通りのことをここで言ったら、着くまで口をきかないから」
太らせて食べるだのなんだのという会話になると予測したのだろう。正解だ。
手を取り返したレイヴンが憮然とした顔になって、心持ち距離を取る。そして、鉄壁の笑顔を張り付けている営業に声をかけた。
「あの、
「承知しました。約6時間のフライトとなりますので、こちらにサインを頂きましたら、当該試作機の概要を説明させていただきます」
端末に送られてきたデータに、レイヴンは冒頭からきちんと目を通していた。自分の方は要点だけ押さえて早々にサインを終え、真面目な横顔を眺める。
会うのは何日ぶりだったか。悪くない時間だ。
思案げになったレイヴンが、やがて顔を上げた。
「内容には問題ありませんが、期間の設定は入れていただきたいです。先日の
「……ええ。ただ、同様に適用するには問題がありまして」
「今回知りうる情報は、おそらく発売後には公になるものばかりでは?」
「勿論、おっしゃるとおりです」
笑みを崩さずに営業が応じる。
こちらのデータには期限の記載があった。どうやら、少しばかり差をつけて契約書を作成したらしい。
シュナイダーはアーキバスの系列企業で、レイヴンは身元の知れない独立傭兵だ。気持ちはわかる。
成り行きを面白がって眺めていると、それを容認と受け取ったのだろう。営業は大きく息を吐いて身を乗り出した。
「……実は、こちらは元々、技術検証を目的とした試作機なのです。一般販売できるかどうかは……。いえ、率直に申し上げましょう。おそらく今のままでは売れません。我が社はこの機体をベースに、より市場に受け入れられる
「あれを改良なんて言うんじゃ――!」
技術者がいきなり激昂した。
営業はレイヴンに向けた笑顔を全く崩さないまま、ごつい手で同僚の顔を叩き掴んだ。
バチンと派手な音がした。そのままぎりぎりと拮抗する。
「……失礼、安全性について
「安全性」
復唱したレイヴンがこちらを見る。口角を上げて返した。
「面白い機体だ。きっとお前も気に入る」
「な――」
「なんとお目の高い!」
絶句した営業の手を引き剥がし、技術者がきらっきらした目で立ち上がる。そのまま両手で手を掴んでぶんぶん振られたのは予想外だった。
「さすがヴェスパーの首席隊長でいらっしゃる! いやいやぜひともお礼を申し上げたかったんですよ! おかげさまで当初の設計通り、理想の機体ができました!」
「そうか」
「つきましてはぜひヴェスパーで正式採用を――」
「おい馬鹿! ……申し訳ありません忘れてください」
「さっきから痛ってえな! 何だよ!」
「スネイル閣下から却下されてるって言っておいただろうが!」
「売れるなら売ったって構わねえだろ! あいつはあのままで完璧なんだ!」
「あんな変態機が売れるわけねえだろこの空力馬鹿! 頭まで空力か!」
「劣化版なんて作りたくねえって皆言ってんだよ!」
「劣化言うな! 有人兵器が生存率無視できるわけがねえだろ、売れるもん作らねえと会社が潰れるわ! 満足行くまで作らせてもらえただけで満足しろや!!」
おっさん二人が口角泡を飛ばして喧嘩を繰り広げるという光景に、レイヴンは目を瞬かせていた。
「……一体、どんな機体なの?」
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言葉より図面より、実物を見ることで伝わるものがある。
ガレージに佇む特徴的なシルエットの機体を、レイヴンは感嘆を込めた眼差しで見上げた。
装甲を削りに削って軽量化し、コアブロックまで剥き出しという「笑える」設計だが、その思想は一貫していて気持ちがいい。信念を隅々にまで宿した機体だ。データ上では伝わらなかった統一感のようなものが、奇妙な形状に、美しさにも似た迫力を与えていた。
見上げるレイヴンの目に子どものような憧憬を見つけて、声に出さずに笑う。
「綺麗……」
無意識めいた呟きに、当然ながら技術者が躍り上がった。
「そうでしょうそうでしょう! アサルトブーストで飛んでいる姿なんてもう最高ですよ!」
「……
「そうそうそうなんですよー!!」
さすがに手を握るような真似はしなかったが、殆ど踊っているような勢いだ。ノリノリである。
レイヴンが「白く塗りたい……」などと不穏なことを言い出したので、軽く背を叩いて注意を向けさせた。
ぱちりと目を瞬いて、少し気まずげに首をすくめる。
「さすがにこれで実戦はやめておけ。物欲はわかるが」
「……わかってる。コアブロックに装甲がないんだものね……ウォルターが腰を抜かしそう」
「いやいやいやいや、当たらなければいいんですよそんなもん!」
「空力馬鹿の発言はお忘れください。ところで、どちらを先にされますか? より負荷が高いのはタイプA――腕のない方になりますが」
譲るつもりなのだろう。レイヴンが「どうする?」と首を傾げた。
強引に決裁を通したことからも当然に、どちらの機体もコアブロックは無強化の操作に対応している。タイプAに乗るのは初めてだが、耐G的には新しいパイロットスーツを使ってもちょっと限界を超えていた。失神したらそこで試乗会自体が中断してしまうだろう。先に、Bの方に乗っておきたい。
対戦形式のテストでは実弾入りの武装は載せないが、お互い戦闘機動は試すつもりだった。だいたいどんな動きをするか、内容を話し合うレイヴンの口元が緩んでいる。装甲の薄さも極端な速度もかかるGもデータで把握しているにも拘らず、なんの不安も抱かず純粋にわくわくしているのが伝わってきて、やっぱり同類だなと楽しくなった。これだからたまらない。
ベリウス地方の空は薄く晴れていた。
きっと前よりも、ずっと楽しめるに違いない。
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耐G動作の基本はドローインとブレーシング、呼吸法での胸腔内圧管理だ。いずれも脳への血流量を増やすためのもので、今ではほとんど意識を
これで稼げるのはプラス3Gほどだが、強化人間なら同じ動作で耐G性を5Gまで引き上げられるらしい。
前回は結局強化手術を受けたものの、実際乗ってみると機動の癖がすっかり染み付いていて、限界を検証する機会がなかった。
新しいパイロットスーツを使ってもそれは同様だ。笑えるほどの加速能力を持つじゃじゃ馬を
意識が戻ったときには、救護室のベッドの上だった。
レイヴンの声がする。
「……起きた? 大丈夫?
「ん」
矢継ぎ早の質問に一音で答え、腹筋だけで身を起こした。どうやら救護室のベッドのようだ。パイロットスーツのままだが、外部装置は外されていた。
うまく焦点が合わない。空いた方の手底で眉間をぐりぐりと押し込むと、ようやく人心地ついた。
心配そうにレイヴンが顔を覗き込んでくる。残念ながら二人きりではなく、シュナイダー側の二人がほっとしたように声をかけてきた。
「お元気そうでなによりです……。大変申し訳ありません、やはりリミッターを設けるべきですね」
「いいやとんでもない! 連続して負荷を掛けないよう抑えながらもあの戦闘機動、素晴らしいデータが取れました! さすがと言いますか、うちのテストパイロットとは比べものになりません! ううむ、やはり機体性能を最大限に発揮するには、横方向のGの緩和は課題か……」
興奮した様子の技術者を営業が肘でどつき、にこやかに笑って言った。
「夕食はご用意しておりますが、まだお時間が早いですね。少しこちらで身体を休められてはいかがでしょう? 私どもは退室いたしますので、何かございましたらそちらのインターホンでお呼びください」
「えっ。いやいや、まだ色々聞きたいことが山ほど――」
「これは連れて行きますので。重ね重ね大変申し訳ありません」
「助かる」
「そんな! 待っ、せめてレポートを……!」
ずるずると技術者を引きずって部屋を出て行くのを確かめ、ベッド脇の椅子に座るレイヴンへ顔を向けた。
どこか所在なさげだ。どうしたのかと首を捻ると、子どものように勢いをつけて首を振った。やわらかな色の髪が広がる。めずらしい仕草だった。
追求するより先に、丸まりかけた背筋を伸ばして気持ちを切り替えてしまう。
「……さすがの貴方でも、ちょっと無茶だったんじゃない? 無強化なんだもの」
「心配したか?」
「それはそう」
「多分、俺も似たような気分だった」
レイヴンが、コーラル絡みで意識を失った二回の話だ。
逃げようとしたものを捉まえられた気がした。苦いものを飲み込まされたような顔で、レイヴンが目をそらす。
「……ごめん」
「実感したか?」
「……不本意ながら……」
「ならいい。楽しかったか? 俺は楽しかった」
あっさりと話を変えると、虚を突かれたように目を瞬いた。
それからそっと唇を綻ばせて、はにかむような笑みを浮かべる。
「正直、すっごく、楽しかった。加速度がすごくて振り回されたけど、極端なだけあって唯一無二よね。まだどきどきしてる。……誘ってくれてありがとう、フロイト」
「礼を言うなら俺もだ。お前がいると、やっぱり楽しさが倍くらいになる」
「言いすぎじゃない?」
「本音だ。言いすぎじゃない」
逆もそうだといいのだが、実際どうなのだろう。
そろそろさわりたい欲が押さえられそうになかったので、左手を差し出した。レイヴンは不思議そうにしながらも右手を重ねてきた。酷使しているはずなのにやわい手を、軽く握る。
引っ張り込むことだけはどうにか自重した。
「この手が動かすACと戦うのが一番好きだ。お前がいなかったら、俺は多分、そう遠くないうち全部に飽き飽きしていた」
「飽き飽き? ……貴方が?」
「どんな疑問だ?」
「だって、いつも……大体楽しそうだから」
「それはそうだろ。お前がいると楽しいって話なんだから、お前が見てるときはいつでも楽しいに決まってる」
「……それはどうも」
「お前も楽しいなら嬉しいんだが」
レイヴンが言葉に詰まる。いい返事以外が出てくることは考えていないが、今回はどんな風に、素直じゃない言葉をこねくり返すだろう。
手を包んだまま期待して促すと、うろうろと視線をさまよわせてから、ぎこちなく手を握り返してきた。
拗ねたような声が言った。
「……楽しいに、決まってる……」
「そうか」
そんな返事をもらえたら盛り上がるしかない。いやもう無理だろこれ、と思いながら両頬をつかまえた。レイヴンは逃げそうな様子で身動ぎしたが、逃げなかった。気温の低さからか、ひんやりとした肌の感触がやわらかく手のひらを押し返してくる。
親指で唇をなぞると、頬を赤らめて目を瞑って、首を竦めた。それでも逃げない。
食べてしまいたい、というのはこういう感情なのだろう。嗜虐心に似た何かが腹の底をくすぐる。その衝動に逆らうことなく顎を上げさせて、唇へ噛みつこうとしたとき、通信機が鳴った。
見計らっていたかのような、あまりにもひどいタイミングだった。
我に返ったレイヴンがあわてて通信に出る。探る余地もなく、相手はウォルターだった。
「あ、うん、大丈夫。……え? ……買ってないわよ? そもそもまだ売ってないし……わかってる、ちゃんと相談するから」
先に言っておけばいいような話だ。絶対に口実だなと思って、背中からベッドに倒れ込んだ。
まだ顔の赤いレイヴンが、通信を続けながら目を細めて笑った。
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事実上の一泊旅行とはいえ、保護者に釘を刺されるまでもない。至極健全に用意された別部屋で大人しく夜を明かし、アーレア海の復路を経て、ウォルターへと無事に引き渡した。
進駐拠点に戻ると案の定大騒ぎになっていて、スネイルから最長記録の説教に付き合わせられた。V.Ⅰとしての自覚だの真人間の脆さだの毎回似たようなことだというのに、良くそんなにボリュームを膨らませられるものだ。
G-LOC(加速度誘発性意識消失)を起こしたこともしっかり伝わっていて、またしても精密検査に放り込まれた。医者の太鼓判をもらってようやく解放され、有休使って個人的に行ったんだから別にいいだろうと始末書を拒否して、新型機のレポートを代わりに提出しておいた。
総じて、面白い機体だった。
わざわざ4脚の前2脚に腕武装を装着するという突飛な発想も、実際動かしてみると悪くない感じだ。アサルトブーストの際に攻撃手段が限られるのは少しばかりいただけないが、「妥協」で作られる次の機体はきっと悪くないものになるだろう。
たっぷり時間を掛けてロックスミスのメンテナンスを行い、新型機のあれこれをまとまりなく考えながら早寝していたところ、夜中に唐突に目が覚めた。
半分、自分で起きたようなものだった。
大豊核心工業集団の尖りまくったジェネレータ、DF-GN-02「LING-TAI」の面白い使い道を思いついたのだ。先日リストに追加されていたオールマインドの
いても立ってもいられずにベッドから降り、すっかり消灯された廊下を弾むように歩いてハンガーへ向かった。もう夜明けのほうが近いこの時間に、機体を動かす気満々で。
消灯時間とはいえ夜警もその交代もあり、作戦に従事している人間の出入りもある。ハンガーの明かりは何段階かに分けて、節電のためか自動で絞られるようになっていた。今は最小のパターンだった。人の気配がまったくなく静まりかえり、足場の最小限のライトが薄っすらと機体を照らし出す。これはこれで何か独特の雰囲気があって、わりと好きな光景だ。
なんとなく光量調整センサーを避けながらロックスミスのもとへたどり着くと、不審な人影を見つけた。
やけに小さい。うろうろと歩き回ってはあちこちを触っている。
足音を殺して近づき、その首根っこを掴み上げた。
「わあ!?」
「子どもか。どこから入った?」
センサーが反応し、その姿が明かりにさらされる。
5歳かそこらの、痩せっぽちの幼子だった。さっと青褪めたその表情を見るまでもなく、新人のメカニックなどであるはずがない。
暴れることさえせず固まっている辺り、生存能力は低そうな生き物だ。
「あ、あの、あの……。ま、まよった……」
「勝手にうろつける子どもがいるとは聞いたことがないが、まあいい。ロックスミスにちょっかいを出すとはいい度胸だ。破壊工作でも命令されたか?」
「ちがっ」
「まあ、それならもっと目立たない奴を使うだろうが……」
はくはくと口を開いた子どもが息苦しそうにしていることに気づき、とりあえず降ろしてやった。
首は締まっていなかったので咳き込みはしない。怯えているのか身を小さくして、苦し紛れの様子で言った。
「……のって、みたかったんだ」
思いのほか純朴な言い訳に、思わず目を瞬いた。
言い訳ではあるだろうが、嘘をついている感じはしない。首を捻って、まじまじとその姿を眺める。
髪と虹彩の色合いがレイヴンに似ていた。てらいなく見上げてくる目に、妙な親近感が湧く。
「お前、強化人間か?」
「……たぶん」
「多分?」
「あたまにコーラルをいれたんだって。きょうかにんげん……とかも言ってた。よく、わかんなかったけどさ」
それなら旧世代型ということになる。ますます首を捻ったが、まあ、全部が全部の実験を把握しているわけでもない。そういうこともあるのだろうとそのまま受け入れた。
「それならロックスミスは無理だな。強化人間用じゃないから神経接続に対応していない」
「えっ」
「強化人間でも動かすことは動かせるが、お前は小さすぎる」
「ちいさくないよ!」
「手を出してみろ。……駄目だな。操縦桿のボタンに指が回らない。大人しく強化人間用のやつを狙っておけ」
「………」
あまりにもショックを受けた顔をするので、不思議に思った。ロックスミスは確かにエース機だ。自分が子供の頃ミシガンのライガーテイルに憧れたのと同じように、それにこだわってでもいたのだろうか。
「……まあ、わかるぞ。ロックスミスは格好いいからな」
「……うん。いちばんだ」
「お、わかってるじゃないか」
素直に頷くので気を良くして、小さな頭をぐりぐりと撫で回した。
いやそうに逃げるあたり、乗っているパイロットには興味がないらしい。単に見た目でロックスミスを選んだなら、いいセンスだと褒めてやりたかった。
「今は大人しく勉強していろ。自分に能力があることを示せ。大きくなるなんてすぐだ、それまでにできることはいくらでもある」
「……なれるかな」
「旧型の強化手術を受けてそれだけ無事なら、お前には適性があったということだろう。運が良い。幸運はパイロットにとってトップクラスに重要な要素だ」
「………」
黙り込んだ子どもがどんな感想を抱いたのかはわからない。ただ、自分の幼い頃はどうだったろうと思うくらいには、既視感のある光景だった。
まったく記憶に残っていないがこのくらいの年齢の頃、実家近く(とは言っても1.5kmはあったのだが)の基地に潜り込もうとして当然見つかってかなり怒られたらしい。飛んで行った母親が必死に頭を下げたとのことだ。下手をしたらその場で射殺されていたというのにACに乗りたいと駄々をこねて、ちゃんとイベントがあるから参加しろと軍人から拳骨を落とされたのだという。
それを考えると、この程度なら大人しい方だろう。ACまでたどり着けた辺りはここの警備がザルなのか、この子どもが上手なのか。どちらだろう。
最後に軽く頭を叩いて、見上げてくる子どもに言った。
「そろそろ戻れ。今回は見逃してやる」
「……また、みにきてもいい?」
「ああ」
名残惜しげにもう一度ロックスミスを見上げて、子どもが走り去っていく。
その足音が裸足だということに気付いたのは、そのときではなく、ずいぶんと後になってからのことだった。
限度を超えたGで問題なのは脳への血流より首折れるとかミンチになるとかそういうレベルだと思います、が、たぶんなんか緩和装置があるんですよ……! たぶん……!(加速度がどう考えてもおかしい)
多分パイロットスーツって首元がっつり固めて保護してる感じになるんだろうなあとか思っちゃうとじゃあヘルメットと空圧調整もいるのではとか思い始めるからいけない。適当って大事。