IA-02「アイスワーム」の排撃に必要なものは大きく分けて二つ。
コーラルの指向性を利用したリアクティブシールドを破壊しうる特別製の武器。そして、作戦を成し遂げるだけの能力がある人員だ。
前者の開発は、今回も特に問題なく達成された。
アーキバス先進開発局が手がけた「VE-60SNA スタンニードルランチャー」、そしてRaDによる「ASK-57 オーバードレールキャノン」。この二点だ。
一転して、作戦要員の方は大きく様変わりしている。
指揮官は変更なく
作戦当日は、天候の悪い日だった。
空は厚い雲に覆われ、
シミュレータと同じ望遠照準器を作動させながら、呼吸を意識した。
オーバードレールキャノンは、その名の通りローレンツ力を利用した巨大な電磁投射砲だ。全長400メートルにも及ぶ地上設置型で、ACを使って撃つ仕組みになっているのが不思議なくらいの代物である。
利点は圧倒的な貫徹力と弾速。欠点は複雑な運動方程式と、威力範囲の狭さ、なにより無誘導弾であることだ。
照準システムの中、目標までの距離、空間の風速や立体的な風の流れ、質量分布などの様々なデータが目まぐるしく数値を変化させていく。
数値の波を自分の感覚に乗せるだけの準備はしてきた。
――
サイト内に捉えた「アイスワーム」は、ぐねぐねと一見無軌道に見える動きを繰り返している。
作戦指揮官のG1 ミシガンが声を張り上げた。
《これよりベイラムとアーキバスの合意に基づき、混成AC部隊による作戦行動を開始する。
始めるぞ! 命知らずども!》
冷え切った砂上へACが展開する。
まず応じたのは、V.Ⅴ ホーキンスだった。
《各員、先日の戦闘データは確認済みだね。通常兵器での破壊は困難だ。囮要員はシールド解除まで無理をせず、交戦距離は多めに見積もろう》
ベイラム側のG4とG5がせせら笑った。
《へっ、ぬるいこと言いやがる》
《言われなくてもそうさせてもらうぜ。お前らと仲良くスクラップになるなんざ、うんざりだ》
《ふん……V.Ⅴ、「鉄血公」が丸くなったというのは真実だったようだな!》
《一体いつの呼び名だい? それ、恥ずかしくて苦手なんだよねえ……》
意外と気安い会話を聞いていると、チャティから通信が入った。
驚いたことに、「彼」はACでこの作戦に参加していた。ただの提案型AIではなく、AC用戦闘AIの側面も持っているということだ。
元来、AIというものは特定の目的に特化させる方が“強い”はずだ。だが、オールマインドも似たようなことをしていた辺り、拡張と汎用性が開発のトレンドなのかもしれない。あるいはAGIへの道筋なのか。
人間が与えたにしては無愛想な声が、通信越しに淡々と言った。
《V.Ⅰ、ボスからの伝言だ。「楽しめ、よく狙い、そして当てろ」――だそうだ》
「そうか。了解した」
どこかで聞いたような言い回しだったが、どこでだっただろう。
軽く応じ、作戦回線に繋いだ。
「こちらV.Ⅰ、レールキャノンの動作に問題はない。いつでも行ける」
《よし、まずは一枚目の防壁を引き剥がす! G13! アーキバスが大金を注ぎ込んだ贅沢な専用兵装をお見舞いしてやれ!》
《了解》
言うと同時に、レイヴンがスタンニードルランチャーを撃ち放った。
あやまたず頭部へ命中。烈しい電撃が、アイスワームのプライマリシールドを振動させて破壊する。
あまりの手際の良さに、思わず口元が緩んだ。先日は近接武器を叩き込んだ相手だ。当然というか、いとも容易く砲撃を当ててみせた。
《なっ――早々かよ!》
《っぶねえ、潰されるかと思ったぜ……!》
《プライマリシールドの消失を確認! V.Ⅰ、貴様も大口の根拠を見せてみろ!》
「発射シーケンスを開始する。EMLモジュール接続、エネルギータービン開放、照準補正良し。出力上昇正常。90、95――」
地面に潜った大型兵器が蠢く。レールキャノンの射出体がシンプルな電磁力で加速を上げていく。
静かに息を吸って肺を膨らませ、いったん息を止めて身体の力を抜く。筋肉の自然な収縮で余分な空気を吐き出し、肺容量を100%に近づけた上で、再び息を止めた。
秒数を数え、顔を出した瞬間を捉える。
(――そこだ)
網を裂くような音ともに弾が放たれた。
地面に強い振動。弾道上の瞬間的な急速減圧に対する揺り戻しがレールガン筐体の周囲を揺さぶる中、極超音速で空間を裂いた砲弾が、光の尾を引いてアイスワームの頭部を貫いた。
無防備に地面へと落ちる巨体を確かめ、詰めていた息をふっと緩める。
ミシガンが張りのある声で号令を飛ばした。
《シールド突破成功! 総員、この石頭に直接攻撃を加えてやれ!!》
《クソッ、角度が悪ィ……! ヴォルタ!》
《おうよ、いい具合に仕事が回ってきたぜ! ――っと》
火力の高いG4がショットガンとグレネードを叩き込み、背後に回ってきた2機に気付いて場所を譲る。
ホーキンスのレーザーブレードが掘削ドリルを削る。逆側からパイルバンカーを捩じ込んだレイヴンが、おまけとばかりにもう一度スタンニードルランチャーを放った。
シールド再展開。身悶えるように動く大型兵器から各機が距離をとる中、ホーキンスが冷静に戦況を確かめた。
《いいね。観測した限り、着実にダメージを与えられているようだ》
《はっ、化け物退治もどうってことねえな》
《調子に乗るなG5! 貴様のACがもっとも損傷しているぞ!》
《いちいちうるっせえ……!》
冷却機構が仕事を終え、作業員が弾の装填作業に入った。
チェックシステムが情報を上げてくる。最も負荷のかかるレール部分にも、強烈な摩擦熱や反動による歪みや損傷は発生していないようだ。先進開発局に勝るとも劣らない技術力だった。
レーダー反応が増え、ホーキンスが状況を告げた。
《目標が子機を展開した。……本体ほど頑丈ではなさそうだが、少々数が多いね》
《対処しよう。サイトを吸われては厄介だ》
《ちっ、鬱陶しい……》
《G13、貴様は羽虫どもが片付くまで待機だ! 勇み足ではことを仕損じる。よい射撃には忍耐が必要だと胸に刻め!》
《……了解》
レーダー上の敵機に向かっていたレイヴンが、少しばかり沈黙を挟んで速度を落とした。
笑みを噛み殺したとたん、がなり声がこちらに飛んでくる。
《V.Ⅰ! 次弾装填の状況はどうだ!》
「ちょうど終わったところだ、ミシガン。本体にも照準システムにも問題はない」
《抜かりはないようだな! 目玉が飛び出るほど高額な玩具だ、丁重に扱え!》
「そうだな。了解した」
RaDからの請求を前回と同じくアーキバスとベイラムで等分負担したのだが、スタンニードルランチャーの開発費用を遥かに上回っていた。あからさまに足元を見た値段だった。
今なら分かるが、アーキバスとベイラムを資金的に痛めつける目的もあったのだろう。
前回は、リミッターを解除して壊したV.Ⅳがスネイルにネチネチと絡まれていたようだ。
多分、今回も壊すことにはなる。
《よし……子機の全破壊を確認した。レイヴン、狙撃準備を》
《了解》
レイヴンがスタンニードルランチャーを構え、大蚯蚓が頭を出すのを待つ。
だが、アイスワームはまるでそれを嫌がるかのように顔を背け、方向を転換して射線を切った。
頭部を出すのも最小限にしているようだ。明らかに蠕動運動が高さを減らしている。
《……警戒してる……? この動き、まるで逃げようとしてるみたいに――》
《この程度で怖れをなして逃げ出すようなら楽な話だ! G13、怯弱なミミズを掘り起こしてやれ!》
《無茶を言うわね。……了解、なんとかする》
少し考えるようにしてレイヴンが応じた直後、更に事態が悪化した。
どこから発生させたのか、地面を掘り起こす大蚯蚓から赤いコーラルの塊が無数に浮かび、尾を引いてACへと殺到する。
当然に散開するが、それを追うように急カーブを描いてきた。
《……クソ、掠っただけでこれだと!?》
《これは……! ただのコーラル漏れじゃない、追尾ミサイルだと思ったほうがいいね……!》
《おまけに追尾性能が高いようだな。いいか、よく見てブーストを使え!》
《数が多い! ……クソが、撃ち落とせもしねえのかよ!》
《実体弾ではないからか……回避に集中を!》
《このままじゃジリ貧だぜ! くそっ……おいG13、手があるなら言え! 手伝ってやる!》
《ありがとう。地面に撃ち込むかもしれないから、しくじったら回収をよろしく、G4》
《おい、今なんつった!?》
レイヴンがリニアライフルをパージした。まさかと思えば、スタンニードルランチャーを肩から外し、パイルバンカーに沿えるように両腕で抱える。
肩武器に引き金などなく、FCSが正常に認識できる状態ではない。エアが何か細工をしたのだろう。
アサルトブーストで回り込むが、アイスワームはまたしても顔を背けるように進行方向を変えた。
固く凍り付いていたはずの地面はすっかり耕されてあちこちが穴だらけ、
軌道を読みながら追い回すようにして追いつき、潜ろうとする頭部めがけ――上から突き立てるように銃口をねじ込むと同時、射出した。
くぐもった轟音。アイスワームが身動ぎする。
上から覆い被さるようにそうしたのだ。反動のまま銃口を引き抜いたものの当然避けきれず、暴れる質量の固まりに引っかけられて跳ね飛ばされた。
幾分かブーストで緩和させたようだったが、パルスアーマーが一瞬で溶ける。殺しきれなかった衝撃で、機体が慣性に従って宙を舞った。
《……正気かよ!?》
《イカれてんのか野良犬ゥ!》
そのままアイスワームに轢かれかけたが、G4が
レイヴンが苦痛に咳き込みながら礼を言った。意識は飛ばさなかったらしい。機体のリペアを起動し、すぐにアイスワームのレーダー反応を追っている。――動きに問題はなさそうだ。
無茶をする。一挺しかない特別兵器を壊していたら、どうしていたのだか。通常兵器でもどうにかなると示してしまったせいかもしれない。
ミシガンが苦り切った様子で怒鳴った。
《無謀と勇敢をはき違えるな馬鹿者! ……V.Ⅰ、狙えるか!》
「これで当てないのは嘘だろう」
もう死にかけるなと言っておいたはずだが、この程度なら死ぬほどの無茶ではないとでもいうつもりだろうか。
まあそうだなと思ったので、こちらから特に言うことはない。
ただ多分、ウォルターからもエアからも説教されること請け合いだ。
「発射準備開始。エネルギータービン正常、照準誤差調整……出力90、95、100」
地中を
限界を迎えたのか、掘削ドリルの頭部が地面から飛び出る。
狙い澄まして、放った。
着弾。コーラルシールドを貫き、大蚯蚓を地面へとねじ伏せる。
《シールド消失を確認、いい腕だV.Ⅰ! 総員、攻撃を集中しろ!! 仕留め切れ!!》
殺到する攻撃の厚さは十分なものだった。
G4は元より火力の高い構成だ。G5とチャティは多少心許ないものの、レイヴンとホーキンスが僚機の隙間を縫うように近接武器と、そして追撃を着実に叩き込んだ。
掘削ドリルがさらに欠け、三つのうち二つまでもが用をなさないほどに損傷した。おそらく、長く地面へと潜り続けられるレベルにはない。
誰もが順調だと思っていただろう。
“そうではない”と知っているからこそ、どうするかを少し考えたが、今は味方だ。カナリア代わりに
「……違和感がある。距離を取れ」
――まあ、あれは逆に、囀らなくなったら有毒ガスで危険だという指標なのだが。
ミシガンとホーキンスが息を飲んだのは一瞬。
反駁することなく、同時に指示を放った。
《全機、全速で後退!!》
《離れるんだ!》
天を仰ぐように真っ直ぐに伸び上がったアイスワームが、「ケートス」のような雷撃めいた攻撃を放った。
激しい磁気の乱れに計測器の数値が悲鳴めいた混乱を見せる。
望遠カメラの映像も乱れたが、一時的なものだったようだ。数秒で回復した。
《墜とされたウスノロはいないか! よし、まずまずの働きだ!! ……さすがに鼻がきくものだな、いい勘だV.Ⅰ!》
「見覚えがあったからな」
《ああ、覚えがあるよ。技研の遺産らしい派手な機能だ……!》
ホーキンスが苦々しげに言いながら間合いを測る。経験則から追撃の激しさを予想しているのだろう。
アイスワームは先ほどまでの比ではない赤々しさを身に纏い、地面を滑るように、蠢くそれをなすりつけた。赤い追尾ミサイルが、弾幕のように灰色の景色を塗りつぶしながら襲い来る。
《……コーラルによる攻撃の頻度と総量をサービスしてきたか! 惰弱な虫でも知恵はある。猶予はなさそうだな!》
《冗談じゃねえぜ、どうしろってんだ!?》
《泣き言を言うなG5! 装甲の損傷が激しい、貴様は尻尾を巻く準備をしておけ!》
《はっ、そうさせてもらいてえもんだが……後からテメエに殴られるのもごめんなんだよ!!》
カンニングをしているこちらにとっては、まあ想定通りだ。
言い合う声を聞きながら告げた。
「コーラルに干渉しているなら、シールドの強度も上がっているはずだ。レールキャノンの安全装置を解除して、出力を上げる」
《ちっ……それしかないね……しくじるんじゃないよ、ランク1》
《RaDのメカニック! 最大出力でかました場合、撃てるのは何発だ!?》
ミシガンの問いかけにRaDの頭目が僅かな沈黙を挟み、苦々しげに告げた。
《……一発きりだね。レールがもたない。110%までなら計算上はどうにか2発撃てるが……着弾時速度の減少率は52%、貫通力の低下は48%。どちらにせよ、賭けになる》
《敵機の動きも随分と元気になっているようだ。――当てられるか、V.Ⅰ》
「ああ」
《ならば言うことはない、馬鹿高い玩具の全力を食らわせろ! G13! お膳立てを整えてやれ!!》
《了解》
制限装置を解除したためか、地面に逃げ隠れする動きは放棄したようだ。おそらくは排熱が追いついていない。
レールキャノンの装填を終えた作業員へミシガンが退避を促す。どうせこの後は撃てなくなるのだ。熱や電磁パルス、揺り戻しによる爆風だけでも、デフレクターシステムを実際どれだけ越えてくるかは分からない。人体にとっては十分すぎるほどの殺傷力だ。
赤い弾幕が、まるで舞台の緞帳のようにターゲットを覆い隠す。回避しながら狙い、足を止めて撃ち、離脱する――その一連の機会を与えまいとするかのようだ。
盛大な舌打ちが聞こえた。G5だ。
《このままじゃ
《……そのシールドで
《うるせえ、さっさとやれ!》
《よく言ったG5! レッドガンに二言はない、脱出機構にエラーがないか確認をしておけ!》
《イグアスだけじゃ心許ねえ。俺も一枚噛ませてもらうぜ。キャノンヘッドの装甲なら、まあ一回分くらい耐えられるだろうよ》
《ハッ。お互い貧乏籤だな、ヴォルタ》
《……格好いいことを言ってくれるわね。これはなんとしても当てなくちゃ》
レイヴンのノーデンスが敵性機体とは違う方向へとブーストを向ける。レッドガンの2機もためらわずそれに随伴した。
技研の防衛兵器は、防衛地点から距離を取りすぎることはできないのだろう。地面を掘り返しながら暴れる大蚯蚓が、カーブを描くように進行方向を曲げた。行動範囲の端ぎりぎり。
赤いコーラルの波が生まれ、ひとつひとつ誘導性を持ちながら襲い来る。標的であるACが高度を上げるのを追い、ぐんと伸びてくる。速度は目で追える程度だ。
宣言通りにG4とG5が壁となり、静止したレイヴンが狙いを定める。
アイスワームが苦しげに顔を出した瞬間、予測していたかのように撃ち抜いた。
杭に似た弾が頭部シールド上で炸裂し、強烈な電圧を何重にも爆発させる。――だが、破壊するには至らない。
《……やはりシールドの強度が上がっているか……! G4、G5、損害報告!》
《右肩と頭部カメラがイカれた!》
《こっちはコア装甲を削られちまった。動けはするが、もう一回やれってのは――》
《いや。これ以上は危険だ、G1。そちらの2機は退がらせよう》
《……あァ?》
《けっ、アーキバスに指図される筋合いはねえ》
《……やれやれ……困ったね、君たちも同じく、ここから先こそが本番だろうに……!!》
ホーキンスが苦笑いをしながらアイスワームの体当たりを回避する。
挑発でもないのに挑発されたと受け取ったらしい。G1が止めないと言うことはホーキンスの方がいささか慎重になりすぎているのだろうが、いかにもレッドガンといったノリだ。
とはいえ、既に限界は近い。長くは保たないだろう。レイヴンもそれを感じているのか、じれるような気配がある。
連続させていた集中をいったん切って、声をかけた。
「レイヴン」
《……何?》
「焦るな。技研の特別製とはいえ、相手は半世紀前のAIだ。結局はパターンの組み合わせでしかない。さっきなんて動かずに観察できたんだ、もう十分に
目を瞬くような間があった。
一秒置いて、吐息に近い、苦笑いを含んだ声が返してくる。
《……言ってくれるわね……。まあ、撃墜される前に当てるくらいは、なんとか》
「墜とされたらアーキバスに拾って帰る」
《ウォルターに先に拾って貰うわ。――G1、そういうわけだから。僚機を離れさせて》
《……いいだろう、G13。その大口を叩くだけのものを見せてみろ!》
コーラルミサイルが一段落すると同時、レイヴンがアサルトブーストを入れる。
暴れるアイスワームが再び迎撃の弾幕を展開した。左右に分かれ、まるで巨人が分厚い両腕を伸ばすかのようにACへと迫る。
多少の移動では躱しきれない。スタンニードルランチャーを両腕に抱えたまま、かいくぐるように地面すれすれをトップスピードで滑り、勢いのままに高度を上げた。
追ってくるミサイルとの距離を測りながら自由落下、そして、すぐにブースト。
地面を蹴る。ミサイルのひとかたまりが凍り付いた砂地へとぶつかって推力を失う。次のひとかたまりが迫り、右へ、そして左へ、振り切り地面へ吸わせるための機動を繰り返す。
完全に躱すには数が多く、分厚すぎた。
じわじわと装甲が削られていく中、アイスワームが放熱のために頭を出した瞬間を、レイヴンは逃さなかった。
完璧な出力のバックブーストで急停止、その硬い頭へと弾を叩き込む。
それまで抑え気味だったレイヴンが、ミシガンより早く鋭く、こちらの名前を呼んだ。
《フロイト!》
「任せろ、レイヴン。……EMLモジュール全点接続、エネルギータービン全開。緊急弁全閉鎖、リミッター解除。照準補正完了、全動作異常なし。
出力上昇正常……105…… 110……115」
最大限界値の120を迎える。過剰なエネルギーを抱え込んだ砲身が、小刻みな振動で暴発の予兆を知らせる。
長く維持できる状態ではない。じりじりと焦りに忍び寄られながら、サイト内を睨んだ。
呼吸を整える。最適で最善な条件を作り出す。
ACにおいては、いつも同じことだ。
強化で自動化されていないからこそ、その緩急には自信がある。無人機は有人機を越えられない。純然たる事実だ。――電子化されていないアナログな視界でも、やり遂げられるだけの自負がある。
とぷん、と水中に潜るような感覚があった。
音が聞こえなくなる。空気の振動も意識から消える。乱れる計器の数値が脳裏で一点を指し示していく。あとはそれに従えばいい。難しいことではない。
来る、と思って、その感覚どおりに、
(
犬に向けるような掛け声と同時に撃ち放つ。
自画自賛できるほどのど真ん中だった。
反動、そして機体を押しやるほどの強風が襲う。防護システムが処理しきれなかった電磁パルスが、通信と電子機器に激しいノイズを発生させる。ミシガンの
《よく……ったV.Ⅰ! お……役立た……も、ヴェスパーにばかり手柄を立てさせる気か!? 今度こそとどめを刺してみろ!!》
《言ってくれるぜ!》
《クソがあ!》
まずアイスワームにたどり着いたのはホーキンスだった。しっかりと出力を上げて、レーザーブレードを叩きつける。飛び退いたそこへ続けて、レッドガンの2機が破れかぶれといった様子で殺到する。悪くはないコンビネーションだ。
倒れ伏すアイスワームが身動ぎした。予想よりも早い。
その瞬間、ぞわりと悪寒が襲った。
《――退避!!》
ミシガンが叫ぶが、間に合わない。
血のような赤い色をしたコーラルが、アイスワームを中心に、まるでアサルトアーマーのような球状の爆発を起こした。
追撃に入っていたACが、その攻撃をまともに食らってしまう。
《……馬鹿な、こんな状態で……!》
《この野郎……クソッ!》
まるで見計らったかのような攻撃だった。かろうじて動けそうなのは、距離のあったレイヴンとチャティくらいか。その距離が、果てしなく遠い。
焦りに突き動かされて舌打ちした。
レールキャノンのチェック機構はあまたのエラーを吐いている。装填すら間に合わない。
残る2機が射撃武器とミサイルを全門撃ち放ち、機体の限界速度で距離を詰める。
アイスワームが、ぞろりともたげた頭を天へと向けた。
シールド再展開の兆候だ。
《……おねがい……!》
レイヴンの発言が神頼みではないと気づいたのは、多分、自分だけだっただろう。
突如、アイスワームが不自然に動きを止めた。
指令をより上位から上書きされたときと同じ――エアが何らかの形で偽装介入したか。
稼げたのはおそらく十数秒。だが、限りなく貴重な時間だった。
レイヴンが頭部に取り付く。パイルバンカーで抉り取るやいなや、スタンニードルランチャーの銃口を破損したドリルの奥深くまでねじ込んで撃ち出す。ばちばちと電流が火花を散らした。
あともう一息――手が足りない。
《射線あけろ!》
レイヴンは即座にその場を離れた。
その背後にいたのは、G5のヘッドブリンガーだ。膝をつき、スパークして今にも炎上しそうな機体が銃口を向け、リニアライフルのチャージ弾を撃ち出した。
レールキャノンとは異なる、多段式コイルを用いた磁力で加速した弾が、最後の一押しを叩き込んだ。
身悶えするようにアイスワームがのたうち回り、赤く不穏な光を発する。
《――爆発するぞ! 離れろ!》
取って返したレイヴンが、G5の機体を強引に押しやってブーストを噴かした。
モニタを焼き尽くすような閃光。そして、爆発。
地響きとともに力を失った技研の遺物が、ようやく、その動きを完全に止めた。