真人間には向かないプラン   作:ikos

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ここから先は活動報告で書き散らしていた挿話というか、ちょっとしたエピソードの集まりです。
※読まなくても本編に支障はないように書いています。お暇潰しにでもどうぞ。






Extra Episodes
余話:フロイトからのカードと怒られるエアちゃん


CHAPTER 2-2「なにかが芽吹くころ」余話

※本編では基本なしにしている、レイヴン視点です。

 

 

 

 

 

 「貴方の回線で、フロイトと通信をしてしまいました」というエアのおずおずとした申告に、思わずこめかみを押さえた。

 

 一体何をしてくれているのか。一応相手は「知り合い」ではあるとはいえ、今抱え込んでいる感情の諸々を度外視しても、ちょっとこれはいただけない。

 

「確かに、出るなとは言ってなかったけど……エア。……うっかりじゃないわね?」

〈……あの、ええとですね、少し……その……情報収集を……〉

 

 無言になって待っていると、小さくなった様子で、ごめんなさい、と悄気(しょげ)返った。

 ひとつため息をつく。ここまで殊勝にされると、これ以上は怒りにくい。

 

「反省しているならいいわ。私に関わることで何かをするときは、ちゃんと先に了解を得て。このあたりの端末を使うときもよ。わかった?」

〈はい……〉

「仕事のサポートをしてくれるという話だったけど、それも同じ。最初は指示を仰いで。貴方の判断に任せる部分は少しずつ広げていくから。まずは、これができる、ということだけその都度教えて」

〈わかりました。頼っていただけるように、頑張ります……!〉

 

 気合いの入った口調に笑った。真面目な子だ。

 緊張がほぐれたのか、エアがほっとしたように言う。

 

〈良かった。フロイトの言葉は、当たっていました〉

「……何を聞いたの?」

〈勝手なことをしているから、ちゃんと謝って、同じことは繰り返しませんと言うべきだと〉

「…………」

 

 おそろしく真っ当な意見だった。丸めて顔面に投げ返したい。

 知らないところで動かれるのは困るから、とても助かる話ではあるのだが――なぜだろう。どの口が、と思ってしまうのは。

 

 そんな話の後だったから、エアからシュナイダーの試作腕の件を聞いて、ちょっとあざとさを感じてしまった。

 高額なプレゼントでごまかそうなんて、意外に普通っぽいことをするものだ。これが一番喜ぶだろうと見透かされているのは少し癪で、けれどそれよりもう少しばかり、嬉しくもあった。

 

 新しいパーツは無条件にワクワクするものだ。届いた腕のあまりにピーキーな性能には目を丸くしたが、この話をしたときのフロイトの「お前なら使いこなせる」という言葉を思い出して、なんだかむずむずした気持ちになった。

 こんなもの、使わないわけにいかないではないか。

 全体的な調整がいる。他のフレームも再考が必要だ。どうするかなとスペック表とにらめっこをしていると、エアが声をかけてきた。

 

〈レイヴン、カードが一緒に届いたようです〉

「カード? そんなデータがあった?」

〈データではなく、紙のカードですね。下で整備員の方が保管されています〉

 

 オールマインドが提供している整備サービスだ。専属契約を交わしているわけではないので、会うのは少しだけ久々だった。

 エアに促されて下に降りる。整備員の、妙にニヤニヤした顔に困惑した。

 

「またV.Ⅰからの貢ぎ物か。罪な女だなあ、嬢ちゃん」

「……ノーコメントで」

 

 差し出されたカードを受け取り、なんとなく、壁際に寄って封を開く。

 紺と水色のシンプルな紙に、無難ながらきちんとした謝罪の言葉が記されていた。

 

 紙のカードを貰うのは久しぶりだ。

 書き慣れていなさそうな筆記体。それでも、丁寧に書こうという雰囲気のある筆跡だった。なんともいえない気持ちになって、お決まりの「My Dear」という言葉を指でなぞる。

 くやしいことに、ぐらつかされた。絶対誰かの計算ずくだとわかっているのに。

 

(ずるいわ)

 

 こんなの、嬉しくないわけがない。

 ここでDearestだのPreciousだのと甘ったるい呼びかけをしてきたら、もっと作為めいたものを感じただろうに。完全に術中にはまっている。

 

 ふと、カードの裏側にささやかな凹凸があることに気付いた

 引っ繰り返して、目を瞠る。

 落書きのような絵が描かれていた。真ん中に丸を置いて周辺に楕円をくっつけた、幼子が描くようなものだ。

 

〈これは……何でしょう?〉

「……花、だと思う」

〈『花』ですか! ……本当ですね、検索してみたら同じようなものがヒットしました……!〉

「エア……フロイトに何か言った?」

〈はい。プレゼントは通常『花』や『宝石』ではないのかを訊ねました。レイヴンが喜ぶものは、フレームの方だと判断したようでしたが〉

 

 そう、と口ごもるように返した。

 絵を描く仕事の大半がAIに奪われて久しい。教養として初等教育で学ぶくらいで、大人になれば図形ではない「絵」を描く機会などなかなかなかった。

 

 可愛げ、と言うのか。

 意外性、というのか。

 

(ああもう、ずるい! ……いやだめ、ここで折れちゃだめ、せめて三日くらいは……っ)

 

 歯噛みしながら、うずうずする気持ちを抑えこむ。

 誰もいなかったら、顔を覆いたかったくらいだった。

 

 

 

 

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