ここから先は活動報告で書き散らしていた挿話というか、ちょっとしたエピソードの集まりです。
※読まなくても本編に支障はないように書いています。お暇潰しにでもどうぞ。
余話:フロイトからのカードと怒られるエアちゃん
※本編では基本なしにしている、レイヴン視点です。
「貴方の回線で、フロイトと通信をしてしまいました」というエアのおずおずとした申告に、思わずこめかみを押さえた。
一体何をしてくれているのか。一応相手は「知り合い」ではあるとはいえ、今抱え込んでいる感情の諸々を度外視しても、ちょっとこれはいただけない。
「確かに、出るなとは言ってなかったけど……エア。……うっかりじゃないわね?」
〈……あの、ええとですね、少し……その……情報収集を……〉
無言になって待っていると、小さくなった様子で、ごめんなさい、と
ひとつため息をつく。ここまで殊勝にされると、これ以上は怒りにくい。
「反省しているならいいわ。私に関わることで何かをするときは、ちゃんと先に了解を得て。このあたりの端末を使うときもよ。わかった?」
〈はい……〉
「仕事のサポートをしてくれるという話だったけど、それも同じ。最初は指示を仰いで。貴方の判断に任せる部分は少しずつ広げていくから。まずは、これができる、ということだけその都度教えて」
〈わかりました。頼っていただけるように、頑張ります……!〉
気合いの入った口調に笑った。真面目な子だ。
緊張がほぐれたのか、エアがほっとしたように言う。
〈良かった。フロイトの言葉は、当たっていました〉
「……何を聞いたの?」
〈勝手なことをしているから、ちゃんと謝って、同じことは繰り返しませんと言うべきだと〉
「…………」
おそろしく真っ当な意見だった。丸めて顔面に投げ返したい。
知らないところで動かれるのは困るから、とても助かる話ではあるのだが――なぜだろう。どの口が、と思ってしまうのは。
そんな話の後だったから、エアからシュナイダーの試作腕の件を聞いて、ちょっとあざとさを感じてしまった。
高額なプレゼントでごまかそうなんて、意外に普通っぽいことをするものだ。これが一番喜ぶだろうと見透かされているのは少し癪で、けれどそれよりもう少しばかり、嬉しくもあった。
新しいパーツは無条件にワクワクするものだ。届いた腕のあまりにピーキーな性能には目を丸くしたが、この話をしたときのフロイトの「お前なら使いこなせる」という言葉を思い出して、なんだかむずむずした気持ちになった。
こんなもの、使わないわけにいかないではないか。
全体的な調整がいる。他のフレームも再考が必要だ。どうするかなとスペック表とにらめっこをしていると、エアが声をかけてきた。
〈レイヴン、カードが一緒に届いたようです〉
「カード? そんなデータがあった?」
〈データではなく、紙のカードですね。下で整備員の方が保管されています〉
オールマインドが提供している整備サービスだ。専属契約を交わしているわけではないので、会うのは少しだけ久々だった。
エアに促されて下に降りる。整備員の、妙にニヤニヤした顔に困惑した。
「またV.Ⅰからの貢ぎ物か。罪な女だなあ、嬢ちゃん」
「……ノーコメントで」
差し出されたカードを受け取り、なんとなく、壁際に寄って封を開く。
紺と水色のシンプルな紙に、無難ながらきちんとした謝罪の言葉が記されていた。
紙のカードを貰うのは久しぶりだ。
書き慣れていなさそうな筆記体。それでも、丁寧に書こうという雰囲気のある筆跡だった。なんともいえない気持ちになって、お決まりの「My Dear」という言葉を指でなぞる。
くやしいことに、ぐらつかされた。絶対誰かの計算ずくだとわかっているのに。
(ずるいわ)
こんなの、嬉しくないわけがない。
ここでDearestだのPreciousだのと甘ったるい呼びかけをしてきたら、もっと作為めいたものを感じただろうに。完全に術中にはまっている。
ふと、カードの裏側にささやかな凹凸があることに気付いた
引っ繰り返して、目を瞠る。
落書きのような絵が描かれていた。真ん中に丸を置いて周辺に楕円をくっつけた、幼子が描くようなものだ。
〈これは……何でしょう?〉
「……花、だと思う」
〈『花』ですか! ……本当ですね、検索してみたら同じようなものがヒットしました……!〉
「エア……フロイトに何か言った?」
〈はい。プレゼントは通常『花』や『宝石』ではないのかを訊ねました。レイヴンが喜ぶものは、フレームの方だと判断したようでしたが〉
そう、と口ごもるように返した。
絵を描く仕事の大半がAIに奪われて久しい。教養として初等教育で学ぶくらいで、大人になれば図形ではない「絵」を描く機会などなかなかなかった。
可愛げ、と言うのか。
意外性、というのか。
(ああもう、ずるい! ……いやだめ、ここで折れちゃだめ、せめて三日くらいは……っ)
歯噛みしながら、うずうずする気持ちを抑えこむ。
誰もいなかったら、顔を覆いたかったくらいだった。