真人間には向かないプラン   作:ikos

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ちょっと流れが悪いなーということで本編ではさらっと触れるだけにした「菓子折持ってウォルターにご挨拶」の中身です。
いちゃついてると思う。





余話:菓子折を持って保護者にご挨拶

CHAPTER 3-1「迷う者は路を問わず」余話

 

 

 

 

 

 拠点引っ越しの雑務に忙殺される周囲をよそに、レイヴンに連絡を取り、訪問の約束を取り付けた。

 

 メーテルリンクの菓子は航海中の貴重な楽しみとして、第6部隊のみならずヴェスパーの番号付きの間で大いに吟味を重ねられ――つまりは予想以上に大量かつ頻繁に試作を重ねる羽目になり、否応無しにその腕を向上させていた。

 中でもほぼ全員から太鼓判を押されたのは、コーヒーゼリーだ。ローカロリーの極みのような菓子はスネイルの気に入りで、これではカロリーが足りないというこちらの文句も勘案し、クリームか何かで水増ししてサイコロ状に切ったヌガーを混ぜるという完成を見せた。

 こうなると女性陣にも好評で、レイヴンに写真を送ったところ、さんざん遠慮した後にようやく「食べたい」と申告してきた。ルビコンにはまともな菓子がないのだから、さもありなんという話だ。

 メーテルリンクは他にも種々の焼き菓子を手土産に包んでくれたので、太らせる準備は万端だ。

 

 前回、惑星封鎖機構が全面攻勢に出たのは、アーキバスの中央氷原進出から一ヶ月ほどの時点だった。

 拠点への襲来が始まれば、撤収対応に追われることになる。今のうちに色々と片付けておきたいところだ。

 

 訪れた新しいベースヘリでは、渋面のウォルターが出迎えた。

 場違いにきちんとした身なりの男だ。濃茶のスリーピーススーツに身を包み、杖をついてはいるものの、体幹はしっかりしている印象だ。こうしてみると、こいつもACに乗る人間なのだなと納得する。

 そういえば、前回自分が死んだ後は「再教育」を受けたこの男がレイヴンの前に立ちふさがったはずだが――まあ、レイヴンのことだ。多分うまくやったのだろう。

 

 ともあれ、無難に初対面の挨拶をしておくことにした。

 

「会うのは初めてだな、ウォルター。レイヴンはどうした?」

「二の句がそれか。……準備に時間がかかっている」

「準備?」

「……寝過ごしたようだ。先ほど起きたらしい」

「へえ。あいつにしてはめずらしいな」

 

 そんな会話を交わしながら中に通されると、想定外の姿を見かけた。

 二回りほど年上の男だ。作業着だがエンジニアという風体でもない。人を雇ったのかと怪訝に思って訊ねれば、例の大陸間輸送用カーゴランチャーの実験台になったRaDのAC乗りだった。

 なんと、ウォルターの元で世話になっているという。

 

「は?」

 

 しかも中央氷原にはまともに人間が住める場所がないため、ベースヘリのガレージに寝袋を持ち込んで住んでいるという。

 

「……は?」

 

 ちょっと納得が行かなかったので、「そこで待っていろ」という言葉を無視してウォルターを追い回した。杖を突きながらも忙しそうに早足で歩くウォルターは、苦り切った様子で目を合わせようとしない。

 「人手は足りているとか言ってなかったか」「部外者の男を寝泊まりさせているとか話が違う」「なあ聞いてるのか」などとしつこく話しかけているうち、渋面のウォルターがようやく足を止めて振り返った。

 

「いい加減にしろ。子供じみた真似をするな、V.Ⅰ。十歳児でももう少し聞き分けがいい」

「だってあんまりじゃないか。なんで俺は駄目なのにあいつはいいんだ」

「……昔馴染みの頼みだ。貢献もした。お前よりもよほど分を弁えている」

コーラル中毒者(ドーザー)だぞ」

「薬物中毒者ほどの危険性はない。油断のないよう、両者ともに言い含めている」

「住まわせておいてか。もうそれが油断だろ」

「最大の危険因子に差し出口をされる筋合いはない。……不在期間のやらかしについて、俺が何も聞いていないと思うか」

 

 それは正直予想外だった。

 レイヴンのことだから、そのまま全部を説明したとは思えないのだが。

 

「なるほど。……どこまで聞いた?」

「……段階があるのか」

 

 低くなった声に、墓穴を掘ったかと頬を掻いた。

 とはいえ大したことはしていないのだが、たぶんあれは言っていないんだろうなと当たりをつける。喉の痕もとうに消えて、証拠は隠滅されているところだ。

 ごまかすように手提げ袋を差し出した。

 

「そうだ、今日は手土産を持ってきた。確認してくれ」

「ごまかし方があからさますぎる。……今度は何を持ち込むつもりだ、V.Ⅰ」

「ただの菓子だ。安心しろ、妙なものは入っていない」

 

 どんな感情なのか、ウォルターが目を丸くして絶句する。

 首を捻った。

 

「レイヴンには先に言っておいたんだが。本当に妙なものは入ってないぞ? 作っているところも材料も見ているし、俺も一緒に食べると言ってある」

「…………」

「……駄目か? 減った分の体重を増やさせたいだけなんだが」

 

 ウォルターが許さなければ、レイヴンも断ってくるだろう。

 段取りを間違えたな、と思いながら反応を待つと、大きなため息が返ってきた。

 

「……コーヒーで良いか」

「ああ。ちゃんと保護者(おまえ)の分もある。同席してくれ」

 

 再びため息が落ちた。

 むしろ驚かれたのはそこだろうと、のちにホーキンスが教えてくれた。「菓子折りを持って親御さんにご挨拶、みたいなシチュエーションだと思われたんじゃないかな」と苦笑されて、なるほどと頷いたものだ。別に親ではないのだが。

 そこにゆっくりした足音が近づいてきて、レイヴンから怪訝そうな声を掛けられた。

 

「どこにいるのかと思ったら……。二人とも、こんな隅っこで何してるの?」

「気にするな。……というかちょっと待て、シャワー上がりでうろうろするな油断だろうが油断!」

「なんでわかっ……しかたないじゃない、寝落ちちゃったのよ……!」

「やっぱり駄目だろウォルター。見ろ、この危機感のなさ」

「ご心配なく、貴方相手にはきっちり警戒するから!」

「どこがだ」

 

 ウォルターが頭痛をこらえるように眉間を押さえる中、至って真剣に侃々諤々と言い合っていると、寄ってきたドーザーが呆れたような声をかけてきた。

 

「何こんなとこでいちゃついてんです? ウォルターさん困ってやすぜ」

「いちゃっ――……違うから! ラミーさんまでそんな――」

 

 憤懣やるかたない、とばかりに振り返ったレイヴンが、きょとんと言葉を呑んだ。

 ドーザーが両手に抱えているのは、薄茶の毛糸の編み物だ。何だろうかと思っていれば、レイヴンが明るい声を上げる。

 

「もうできたの? すごい上達速度ね!」

「最初の方の編み目、ガタガタなのが気になるんすよ。これってうまいことほどいて編み直せるもんなんすかねえ」

「第一号作品だもの、これも味じゃない? ねえウォルター。これくらいなら気にしないでしょう?」

「……なぜ俺に聞く」

「なんでって……ウォルターさんのだから?」

「よね?」

「…………」

「膝が痛むなら暖めた方がいいんじゃねえか」

「そうそう。せっかく作ったんだもの、使ってあげたら?」

 

 ウォルターがどうにも居心地の悪そうな顔になる。気持ちだけもらおう、とは言えない流れだ。

 特に助け船を出すつもりではなかったが、気になったので口を挟んだ。

 

「……そもそも、なんで毛糸と編み棒なんてものがあるんだ?」

「私がウォルターに頼んだから。手の運動になるの」

 

 答えたのはレイヴンだった。意外に思って顔を見つめる。

 

「できるのか」

「料理よりは得意ね。設計図通りに手を動かせばいいだけだから」

「俺も欲しい」

「いや」

 

 スパンと断られ、思わず唇を曲げた。

 取り付く島もないとはこのことだ。不満をありありと浮かべてレイヴンを見たが、なぜか彼女も同じような顔をしていた。

 

「セーターとか定番だろう。できないのか?」

「できるけど、やだ。すごく気が進まない。貴方がいま着ているジャケットのほうが高性能だもの。軽さも保温性も格段にね。もらった時点で満足して、ほとんど使わないのが目に見えるわ。クローゼットの置き物をわざわざ作る気はないの」

「……見てきたように言うな?」

「見なくてもわかる。賭けてもいいわ」

「いいぞ。何を賭ける?」

「……だから、作らないってば」

「わかった。いくら出せばいい」

「わかってない。そうやってお金で解決しようとするの、貴方の悪いところよ」

「お前が金以外で動かないからだろう。いくらにする?」

「5億COAMとでも言ってほしい?」

「……本気で作る気がないのは理解した」

「何よりだわ」

 

 つん、と冷たく言い切られた。つれないことこの上ない。

 まあ実際、欲しかったのは確かだが、手に入ったら満足してしまい込んだだろうとは思う。レイヴンの予測どおりだ。多分使わない。

 前回ごねてレイヴンからもらった石ころは、一体どこにやったのだったか。最後に見かけたのは、旧技研都市への移転前あたりだった気がする。

 しばらく黙っていたレイヴンが、なんだか居心地の悪そうな顔で、ちらりとこちらを見た。

 

「……もうちょっと手がかからないものなら、作ってもいいけど」

 

 ぽつりとこぼした言葉に、笑いそうになって口元を押さえた。

 なんだかんだ甘いのは相変わらずだ。

 

「検証データとか、いろいろ、貰ってるし……今度ラミーさんに、タティングレースでも教えようかと思ってたから……見本を作るし、その、それくらいなら」

「いいな。欲しい」

「……どんなものかわかってないでしょ」

「お前がくれるなら何でもいい」

 

 ぐ、と言葉に詰まってレイヴンがうつむく。

 これはいい反応なのではと、顔を覗き込もうとして逃げられた。

 

 

 

「……なあウォルターさん。こいつらデキてないって何の冗談なんすかね」

「随分と目が曇っているようだな。少しコーラルを控えろ」

「いやどう見てもいちゃつ――」

()()()()()()()。そうだな?」

「ウィッス」

 

 

 





タティングレースは簡単に言うと、刺繍糸で結び目を作って構成するタイプのレースです。
可愛らしくなるものが多いですが、この方の作品などシンプルで格好いいものも。
https://www.creema.jp/item/12614567/detail

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