真人間には向かないプラン   作:ikos

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新規プロジェクト

 

 

 その日めずらしくレイヴンの方から送ってきたメッセージは、ちょっと記憶にないほどはしゃいだものだった。

 

 

  【入手した!♡(FINALLY I GOT IT <3)

 

 

 添付されたのは機体の写真で、どうやらオールマインドから04-101 MIND ALPHAを首尾良く購入できたようだ。

 しかし、ハート。あのレイヴンがハート。

 そんなものをつけてくるのは前回含めて初めてだ。よほどテンションが上がったのだろう。

 多分あとで恥ずかしくなるんじゃないかと思ったが、笑いを抑えながら返した。酔ったときのような勢いだ。

 

 

【よかったな、いい感じだ】

 

  【ここの輪っかが好き】

  【無意味だけど可愛いわよね】

 

【かわいいかどうかはわからんが】

【面白い形状だよな。悪くない】

【コンセプトは「人体感覚の拡張」だったか】

【……この部分、何だ?】

 

  【飾りじゃない?】

 

【まあ、機能を持ってたらあからさまに弱点だしな】

【飾りということにしておこう】

 

  【待って心配になること言わないで】

  【整備用の仕様書確認する】

 

【わかった】

【祈るか】

 

  【……何にも書いてない!飾りで決定!】

 

【拍手】

【さすがになかったな。よかった】

 

  【重要なエネルギーチューブとかだったら苦情を言うところだったわ】

  【すぐ壊れるような仕様はちょっと】

  【スペックの高さが詐欺じゃなくて良かった……】

 

【低いのは近接性能くらいか】

 

  【そうね】

  【それにしても】

  【新しいパーツや武器って無条件にワクワクしない?】

 

【わかる】

【だよな!】

 

  【じゃあ練習に入るから】

 

【ああ、頑張れ】

 

  【がんばる】

 

 

 

 

          - / - -

 

 

 

 

 照準補正なしで射撃武器を使うというのは、計算と勘の両方が必要になる行為だ。

 

 標的との距離はレーザー測遠機で常に把握できるが、高速戦闘下では彼我の位置関係とともに目まぐるしく変化する。そこに機体姿勢や機動、気温や風向き・風速、弾の種類によって異なる落下幅や弾道特性などの要素も加わる。

 機体が取得したそれらのデータを一切合切自動的に算出して銃口の向きを調整してくれるのが、FCS(射撃管制システム)の照準補正機能だ。

 優秀ではあるのだが融通が効かず、一般的な機動を想定した見越し角射撃を行うため、「もっとも当たる確率の高い方向」へ撃つことになる。つまりは機体中心部だ。実際にはど真ん中に当たることなどほぼなく、腕や脚に当たることも多いが、基本的には狙ってのものではない。(もちろん傾向はあるので、この位置関係でお互いこう動くなら多分腕に当たるな、という予測はできる)

 それを使わないとなると、諸々の数値で軌道を予測して武器を操作する必要がある。とはいえ敵は悠長に計算を待ってはくれないので、残るところは経験則に基づく勘だ。

 

 コアや機関部を極力破損させずに無力化しようと思うなら、基本的には腕や脚を破壊することが目標になる。

 両腕を()がれてもなお肩武器のみで食い下がってくる傭兵などまずいないし、片足とメインカメラを潰されてまともな戦闘機動を行える傭兵もそうはいない。選べるなら普通は撤退を選ぶ。唯一、使命感に燃えるルビコン解放戦線辺りはそんなことをやらかしそうではあるが、そのときはそのときだ。あくまで“趣味”という言葉の範囲に収めるのなら、レイヴンも無理はしないだろう。

 

 とはいえ、そもそもが簡単な話ではない。

 慣れるまではまあそれなりに失敗するだろうと思っていたのだが、薄灰に橙色の新機体(ノーデンス)(名前は変えなかったようだ)の初戦の戦闘ログを見て大笑した。

 まるで近接武器のような勢いで次々とMTへ詰め寄っては、長い銃身を生かし、脚部への零距離射撃を繰り返していたのだ。たしかにこれなら外れない。

 さすがにずっとこのやり方を続けはしないだろうが、面白い見世物だった。

 

 多分、今回はアーキバスを相手取る仕事だったので、何らかの遠慮や義理を感じていたのだろう。金は払っていたとはいえ先日治療に協力したばかりだ。

 意趣返しとして計画された、ベイラム物資輸送車の襲撃作戦だった。奪取ではなく破壊を目的とした「簡単な」仕事だったはずだが、ベイラム側の護衛に雇われたのがレイヴンだったのが、そもそもの不幸な巡り合わせというやつだったのだろう。半数ほどを行動不能にしたのち「ベイラムの捕虜になりたくなければ破損機を抱えて撤退しろ」などと言ってのけたというから、理想通りの大上段ぶりに笑ってしまう。スネイルが面白い顔をしていた。

 

 惜しむらくは、今回に限って会いに行けなかったことか。

 こんな面倒事をやったあとのレイヴンがどんな風に自分と戦っただろうかと思うと、考えるだけで気持ちが浮き立つ。実に残念だ。

 

 ちなみに、ウォルターからも苦情が入った。

 

《……妙な()()を教えてくれたものだ、V.Ⅰ。ただでさえ、毎回のようにそちらとの戦闘を控えて、頭が痛いというのに……》

 

 楽に話してくれていいと再三言って断られてはいるものの、最近は少し言葉遣いが砕けてきた気がする。ときどき油断すると呼びかけが「貴殿」「そちら」ではなく「お前」になっている辺り、わりと気心が知れてきたのではないだろうか。

 

「そうだな、(そそのか)したことになるのか。確かにあのままでも潰れはしなかっただろうが、あいつにはその方が楽そうだったからな。……受容プロセスがうまく行ってないんじゃないか? どう思う、ウォルター。その辺もお前が訓練したんだろう?」

《……当初から、精神面の安定性では群を抜いていた。一通りのプログラムは行ったが、実戦に出した後も、言動に感作傾向は見られなかった》

 

 つまりは、ここに至るまでそれが発露してこなかったというわけだ。

 軍事組織の心理プログラムも犬の躾も、似たような部分はある。ようは、「系統的な脱感作」と「オペラント条件付け」、そして最後だけは特殊だが――「心理的防衛機制の否認」だ。

 ヒトには殺人に抵抗を抱く本能がある。精神を病まず継続的反復的に殺し続けるというのは本来的に困難なのだ。自責を軽減し、合理化し、受容するというプロセスを導く必要がある。

 それを目立った難もなく乗り越えたというのは、生まれ育ちを考えると、さすがに普通の話ではないだろう。

 

 ACがごく純粋に好きで、動かす(たたかう)ことを楽しんでいるのも、その結果として引き起こす死を(いと)うのも、彼女の中で奇妙に両立した二面性だ。前回と違い後者が大きく表に出ているが、特に何かが変わったわけでもないのだと思う。

 

 よほど飼い主のメンタルコントロールが巧いのか、それとも別の要因によるものか。考えさせられる話だ。

 

「お前がよく言っている、『よくやった』、条件付けの強化子にしてはぬるい気がするが……特定少数が相手なら、回数を重ねると有効なのかもしれないな。“ハンドラー”というだけのことはある」

《……あれはそのようなつもりではない》

「そちらの方がたちが悪いな。自認と言動が釣り合っていない」

 

 ウォルターが沈黙した。

 情が篤い教官、というところなのだろう。同時に、死地へと送り込む指揮官でもあるわけだが。

 Ⅳが女誑しなら、この男は人誑しといったところか。なんだかんだと面倒見のいい男だとは感じている。記録を見る限り死兵を作ることは得意そうだが、意図的ではなく結果的にそうなっているのだとしたら、難儀なことだ。

 

 ともあれ、せっかくウォルターから連絡を取ってきたのだ。できるなら次の懸念事項を押さえておきたい。

 ――コーラルの逆流現象だ。

 前回、それを引き起こしたのがレイヴンらしいということは知っている。それに巻き込まれたということも。だが、それがどこで何をしたことによるものかは把握していなかったのだ。

 消失したベリウス地方の北西部ベイエリア付近なのか、それとも別の場所か。大小含めればそれなりの数の候補地がある。さすがにBAWSの「井戸」ではないだろう。

 前回のレイヴンは、死にこそしなかったものの散々な目に遭っていた。しばらく生死不明だったし、生きて帰ってきたかと思えば3日ほど昏睡していたのだ。さすがに現在はウォルターがついているのでそこまでの心配はないだろうが、できるなら一人で行かせたくない。

 だが、その取っかかりになるような情報がないのだ。ことが起きる日時は現在ですら記憶とズレている。はっきりした日付を覚えているわけでもない。さすがに、当面すべての仕事に同行させて欲しいなどと言ったところで、受け入れられるわけがない。

 

 結局のところうまい言い方を思いつけず、別の話を持ち出した。

 

「それよりウォルター、あいつを無事に帰したことを褒めてくれてもいいんだが。約束通り手は出させなかったし、俺も出さなかったぞ」

《……何もなかったかという質問への返答が()()だったのだが、心当たりはないのか》

「なんでだ、何もしてな……ああ、最初に一回抱きついたか。手を出したうちには入らないだろ?」

 

 通信を切られた。

 まだ話があったのでもう一度呼び出す。反射だったのか、意外にも通信が繋がった。

 地の底を這うような声がする。

 

《貴様の行いに対する抗議はどこに行えばいい。V.Ⅱか》

「鉄拳制裁なら別の奴から受けた。しかし過保護すぎないか? いくつだと思ってるんだ」

《ヴェスパーの首席隊長は、合意がない行為を何と呼ぶか知らないとみえる。昨今の企業はコンプライアンスというものの教育を軽んじているようだな。正式なルートで苦情を申し立てよう》

「……あいつが怒ってたらお前に報告しただろ」

 

 この人権感覚さえ希薄なご時世に法令遵守(コンプライアンス)も何もあったものではないだろう。部下へセクハラされた上司と考えるなら、いい上司なのだろうが。

 釈然としない気分になって(開き直ってともいう)矛先を変えると、短い沈黙ののち、苦り切った舌打ちが聞こえた。

 ため息ではなく舌打ちなのはめずらしい。

 

「それで聞きたいんだが、多少はいい意味でも意識してきたと思うんだよな。でも友達になりたいわけじゃないから複雑だ。お前から見てどう思う?」

《――俺に答える義理はない》

 

 再び通信が切れ、その日は二度と応答してこなかった。

 

 

 

 

          - / - -

 

 

 

 

 レイヴンとの戦闘(デート)をめずらしく諦めたのは、他の仕事の真っ只中だったためだ。

 時間は少し遡る。「ファクトリー」の閉鎖を求めてしばらく経った辺りだった。

 

「スネイル、聞いてくれ。面白いことを思いついたんだが」

「……今度は一体、どんなろくでもないことを思いついたのですか」

 

 目の下の隈がいつにもましてひどいことになっている。通常業務の傍ら、こちらが要求したファクトリーの閉鎖提案策定に頭を悩ませているのだと言う話だった。確かに、本社に呑ませるのはなかなか骨の折れる仕事だろう。

 なら悪い話ではないはずだと、意気揚々として切り出した。

 

「ファクトリーに割り当てていた実験用のACがあるだろう。あれを使って、MUM-Tを組ませてみないか」

「MUM-T? ……“有人機と無人機のチームアップ(Manned and Unmanned Teaming)”、で間違いありませんか?」

「それだ。機動パターンはとりあえず現状のAIでいい。有人機とデータリンクして、標的情報だけ同期できれば十分だ。フレンドリーファイア対策で両手両肩は全部誘導ミサイル、移動砲台というわけだな。オービットの特大拡張版みたいなイメージだ」

「なるほど……」

「どうだ、面白くないか? 少なくともACの戦力底上げにはなる」

「確かに、悪くないアイデアです。そちらに予算を割り振るため、今のところ結果を出せていないファクトリーを閉鎖するというのであれば……最低限の体裁は整うか……」

 

 MUM-Tについては、これまでも考案した人間はいたはずだ。ただそれが実現しなかったのは、AC自体が高額であることと、適当なパイロットを乗せた方が無人機よりも評価成績が高いという二点のためだろう。

 だが、人材の補填が容易ではないこの封鎖惑星にあっては、有用な選択肢と言えるはずだ。

 死んだように濁っていた目が多少の光を取り戻す。寝不足の頭にたっぷり考える時間を与えてから、ふと、スネイルが疑り深そうな目でこちらを見た。

 

「……貴方がこんなものを使いたがるとは、少々不可解ですね。何の気まぐれです」

「俺は使わない。狙いは別だ。使ってる奴との戦闘データを取るだろう?」

「…………非常に納得しました。いいでしょう。目的は明確、裏もなさそうだ」

「いつも裏なんてないぞ。お前じゃあるまいし」

「最近の貴方の行動を見ていると疑わざるを得ないのですよ! 少しは大人しくしておけないものか!」

 

 体力ゲージが赤そうなのによく叫ぶ元気が残っているものだ。

 右から左へ聞き流し、使う武装の吟味を始める。

 

「フレームはまあとりあえず現状で良いか。FCSはファーロンのP10SLTで決まりだな。ハンドミサイルも、まあファーロンか。ファーロン尽くしが駄目なら肩はVCPLでもいいが、基本的に対ACが想定だろうからな……やっぱりP16SPL-08(8分裂ミサイル)P05ACT-02(連装高誘導ミサイル)あたり……」

「その辺りの検討は後でいいでしょう。まず、誰をテスターにするかです」

「そうだな、使わせて面白そうなのはV.Ⅳだが」

「論外です。新規プロジェクトですよ」

「だろうな」

「あれは身元にいくつか不審な点があると報告したはずです。まさか忘れたわけではないでしょうね」

「忘れてはいない。歯応えが出て面白そうだと思っただけだ」

「……組織への忠誠心という点を鑑みるなら、V.ⅤかV.Ⅵでしょう。ただ、V.Ⅴには輜重担当としての業務がある。役職のないV.Ⅵが適任か……」

「メーテルリンクか。そうだな、あいつなら巧く扱えそうだ」

 

 何の気なしに頷くと、スネイルがぎょっとしてこちらを見た。

 妙な反応だった。端末から顔を上げて首を捻る。

 

「なんだ?」

「……名前を、覚えているのですか。貴方が?」

「ああ」

 

 そういう意味か、と納得した。前回のレイヴンからよく名前を聞いていたので、なんだかんだ覚えていたようだ。

 確かに、スネイルが驚くのも理解できる。おかしな誤解を与えたかもしれない。

 

「勘繰らないでおけ、妙な意味じゃない」

「……ちなみに、他には誰の名前を覚えていますか」

「まずお前だろ、オキーフだろ、ホーキンス……くらいか」

「いずれも長い付き合いです。これを勘繰らないのは無理では」

「機体名なら全員答えられる」

「それは聞いていません」

 

 それにしても、妙に食い下がってくるものだ。

 何か適当にごまかせる理由はないかと少しばかり考えたが、特に思いつかなかった。面倒になって、いいかもう、と放置を決める。

 

「とりあえず、V.Ⅵだな。諸々任せた」

 

 そんな具合で段取りのすべてをスネイルに押し付けて楽しみにしていたのだが、そこからの動きは早かった。さすがというべきだろう。

 レイヴンの出撃情報が入ったのが、ちょうどそのテスト戦闘の最中だったのだ。

 

 スネイルからの任用を二つ返事で受けたというメーテルリンクは相当な張り切りようで、かなり勉強してこの日を迎えたようだった。

 向上心があるのは良いことだ。それが自分に立ち向かってくる方向に働くなら、なおさら良い。

 

 試験場は引き続き「ファクトリー」時代のものを使用した。閉鎖空間だったが十分な広さを持っている。ミサイルをばらまくのに支障はないだろう。

 ハンドミサイルはファーロンのものではなく、メーテルリンクがわざわざ各社に打診して手に入れたというRaDの新型(WS-5000 APERITIF)を選んだのだという。これは後から聞いたのだが、RaDの女頭目との交渉で「ふざけた上司を正当業務内で吹っ飛ばせるチャンスなので力を貸して欲しい」などと息巻いて、大受けされたらしい。

 

 ここまで怒らせたのは、言ってしまえば、自分の行いによるものだった。

 大したことはしていない。菓子を作ってみないかと打診してみただけだ。そのときは引きつった顔で固辞されただけだったが、実際のところ、ものすごく怒っていたらしい。

 解説したホーキンス曰く、「女だてらに隊長を務めている子にそんな事を言ったら、『実力不足だからクッキーでも焼いていろ』って感じの煽りだと取られかねないよ」とのことだった。

 そんなつもりはなかったのだが、確かに少々唐突すぎたかもしれない。

 

 そういえば、結局レイヴンとメーテルリンクは顔を合わせず(じま)いだった。

 滞在したのは医療棟だったので、紅一点の手を借りる必要が生じなかったのだ。ただ、前回のあの二人は、かなり気が合っていたように見えた。今さらだが、会えば友人になっていたのかもしれない。

 

 ともあれ、お楽しみはお楽しみだ。

 

 RaDの新型ハンドミサイルは、それなりに面白い挙動だった。ばらまいた後に誘導が始まる性質を持つようで、広範囲に広がって迫ってくる。背後からこれを連射されたらさすがに避ける場所が限られる。そして、逃げた先を狩るためか、インフェクションの武装もそれに対応したものへ変わっていた。

 パルスガンとレーザーライフルがミサイルの弾幕の中で突き刺さってくる。レーザードローンを展開しながら、思わず笑った。

 

「見込み通りだな、その調子だ」

《光栄です》

 

 ひやりとするほどの棒読みだった。集中して機会をうかがっているのがわかった。

 焦れて無人ACの方へ向かおうとすれば、背中にプラズマキャノンのチャージ弾をお見舞いしてやろうというのだろう。常に無人機との位置関係を調整していた。

 

 そのまま後手に回るつもりなのだろうと思っていれば、驚いたことにアサルトブーストで距離を詰めてきた。

 反射的に叩き込んだレーザーダガーはすんででシールドに阻まれた。足を止めたことでミサイルが殺到する。回避する先をプラズマキャノンが焼いた。

 

 データを集めるための戦闘なのだから、それなりに普通の戦い方をした方がいいことは分かっている。好き勝手を始めるのはもう少し先だ。

 仕方なしにライフルとパルスキャノンをばらまきながら距離を取る。そのまま中距離で立ち位置を変えながら撃ち合っているうち、インフェクションのシールドが限界を迎えた。蓄積した衝撃で、機体がスタッガー状態となる。

 

《っ……!》

《そこまで。実機での試験を終了します》

 

 スネイルの通信の向こうで、ばたばたとスタッフが走り回る音がした。

 まあ止めるだろうな、とは思っていた。そもそもシミュレーター用のデータを取るための実機試験だ。無理をして壊してしまっては仕方がない。

 こちらの被弾もそれなりのものだった。有用性は十分に示されたと言っていいだろう。

 戦闘モードを解除し、メーテルリンクへ声をかける。

 

「初戦闘でこれなら十分だな。後はお前が中心になって改善を重ねていけばいい」

《改善、ですか。……そうですね、考えてみます》

「いくつか行動パターンを用意して切り替えるといい。それくらいなら操作の負担も少ないだろうし、単調さを減らせるはずだ」

《……敵機の背後を取るパターンと、こちらに追従するパターン、あとは……前に出て囮になるパターン、などでしょうか》

「あとは各武器の発射タイミングの紐付けか。工夫のし甲斐はあると思うぞ。お前に向いている」

《……恐縮です》

 

 どうにも苦み走った返答だった。「早めに誤解を解いておくように」というホーキンスの言葉を思い出し、口を開く。

 

「この間の件は悪かった。単に、というか純粋に――か。お前ならうまく作れそうだと思っただけなんだが。特にお前が実力不足だとは思っていない。今回の件は俺も推薦した」

《スネイル閣下から伺っています。……なぜ菓子作りなどをご要望になるのかは、全く理解が及びませんが……まあ、承知しました。いずれ、機会があれば》

 

 多分やらないだろうな、という印象だった。ともあれ謝罪は受け入れられたので、この話は終わりとみていいだろう。

 

 後からスネイルに「貴方がまともに謝罪することがあるとは」などと言われた。確かに、以前なら必要を感じなかっただろうし、そもそも覚えてすらいなかっただろう。

 ついでにスネイルが“これは手札に使えるかもしれない”といった顔をしていたが、そもそも借りを作る相手はスネイルではない。せいぜい空気を読まずに頼み込んで、同じように怒られればいい。

 

 

 

 

 そんなことを思っていたら、後日、ここぞというタイミングで、メーテルリンクが菓子を作ると言い出した。当然のこと交換条件つきで。

 

 ――お前もか、スネイル、などと思った。

 

 

 

 

 

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