―――数週間前。
「……やっと、宿ったのか。私にも」
ある病棟の一室、男は手の甲に不思議そうな、また待っていたというような目線を向けていた。彼の手の甲には、赤い線で象られた言うなれば
次の日である。診察の時、男は何重にも重ねて模様に偽装をした。その理由は、後々わかることである。
「え〜……
そう言うのは、名札を見れば分かる通り、この男―――宇宮秧鳴の主治医の
「それで。どうしますか? 退院、されますか」
秧鳴は少し悩んだ末、先程まで一言も喋らなかったその口を開いた。
「ええ。そろそろ仕事の方にも戻りたいですし」
彼は、ここ数週間、自然気胸という病で入院生活を送っていた。そして、この「仕事の方にも戻りたい」というのも本当だが、実際のところ、横に四六時中ずっと居座っているあの医療機器が、鬱陶しくて仕様がなかったというのも一つの理由である。そして、彼にはもう一つ―――重大な理由があった。
恐らく知っているであろうが、この男は、魔術師と呼ばれる人種である。彼ら魔術師にとって、暗黙の絶対的ルールがある。それは「一般人に魔術の存在を明かさない」ということだ。魔術というのは神秘であり、その自らが持つ神秘を、打ち明けないというのは、言うまでもない。ましてや、そんなものとは一切の縁がない一般人に明かすなど、言語道断である。そして、そのような魔術師は、病院内など、人がいるところでは基本的に魔術を行使できない(勿論、隠れてやるということは可能だが)。そのような理由から、彼は、一秒でも早くこの病院から逃げたいのである。
そして、その数時間後、彼は病院内にある荷物などを全て撤去し、自らの拠点へと帰った。
さて、彼の手の甲に現れた不思議な紋章について解説しよう。彼の手の甲に現れたのは、「令呪」と呼ばれるこれより執り行われる本来の歴史ではあり得ない魔術儀式―――「第六次聖杯戦争」に参加するための入場資格のようなものである。まず、聖杯戦争とはなにか。それは、あらゆる時代、あらゆる地域の英雄が現代に蘇り、覇を競う殺し合い―――と表現される。表現の通り、極東の地・日本―――その中にある都市・冬木の地に、聖杯と呼ばれる万能の願望機があり、その願いを叶える権利を巡って殺し合う。それが、聖杯戦争である。
聖杯は、元々西洋の概念であるため、東洋の英霊は召喚ができない―――が。この聖杯戦争は前述した通り、全く異なる歴史であり、東洋の英霊も召喚できる。そう、できるのだ。信じよ!
聖杯戦争では、過去の英雄―――英霊を
七クラスの中で一番強い、と言っても過言ではない剣士の英霊が呼ばれるクラス―――
次に、“四騎士”と呼ばれるクラスである。自らが使役する騎乗物によって、駆けつける騎兵の英雄が呼ばれるクラス―――
この七つのクラスに宿った英霊が、最後の一騎になるまで殺し合う。それが、聖杯戦争というものである、と説明できる。
―――時は飛び、聖杯戦争開始の数日前。
彼は、拠点の工房(魔術師の作業場)にて、サーヴァントの召喚を試みていた。自らの魔力が最も高まる時間帯。彼自身が―――というか彼の家系が得意とする宝石魔術にならい、自らの持っている中で一番召喚に適し、なおかつ魔力が最も高い貴重な宝石を砕き、魔法陣を形成する。その魔法陣を見つめる目は、怪しく光り輝く。
そして、彼がその条件に合う時、場になった時、召喚を始めた。
「
―――
―――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!……誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷くもの。汝、三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
瞬間、魔法陣が光り輝く。その魔法陣からは、強烈な魔力反応とともに、一人の人影が姿を表した。
「―――サーヴァント、キャスター。ここに、召喚に応じ参上しました。……なぁんて、格好つけた喋り方、私には似合わないや。私の真名は夢野久作。よろしくね、マスター!」
初手サーヴァント紹介
キャスター
真名:夢野久作
出典:史実
性別:?(恐らく女性)
身長:142(cm)
体重:32(kg)
属性:混沌・中庸
特技:執筆
好きなもの:タバコ
苦手なもの:父
嫌いなもの:人の作品を否定する人
ステータス:筋力・C+ 耐久・D- 俊敏・B 魔力・A+ 幸運・D 宝具・A
保有スキル:陣地作成・A 道具作成・A++ 脳髄の記憶・EX 魔術・A++ 追憶と狂乱・EX
宝具:「其は、脳髄地獄の幻惑と狂気(ドグラ・マグラ)」