元気しとった?
「―――……キャスター、か。魔術師の英霊、というところか―――
いや待て、夢野久作、と言ったか?」
秧鳴は、キャスターの真名を聞いて驚愕の表情を浮かべる。
「なぜ作家風情が、死後に英霊と認められたとして―――このような高い魔術的適性を持っている?」
秧鳴はキャスターに問う。秧鳴の目には、ハッキリとキャスターのステータスが写っていた。秧鳴が驚愕していたのは、保有スキル―――そのランクの高さであった。
全てがランクAを超え、中にはEXのものが普通のサーヴァントならば一つあれば十分なものを二つも持っている。ランクEXというのは、ときに規格外で、ときに異質で、ときに特殊なスキルのことを言う。単純な出力勝負ではEランクに劣ることもあるが―――基本的には、並のサーヴァントと比較すれば別格、というランクである。
「そうだね……それは、私の代表作のタイトルが由来するね。私の代表作『ドグラ・マグラ』は、作中では『魔術』・『幻術』を表す言葉として書かれているけれど―――実際は、私が独自に生み出した魔術基盤とそれに付随する魔術体系の仮称なの。そして、これを知るものは私のみ。
ということは、私がいるところ。それこそが私の魔術基盤を起動させるのに必要な条件よ」
そして、キャスターも、逆に秧鳴に問う。
「こちらも聞くけど、どうしてマスターもそんな目を持っているの? そんなすごい目、まだバレてないのすごいよね。バレたら、魔術協会でホルマリン漬けにされるのに」
「……その前に、私の名を挙げさせてもらおう。私は宇宮秧鳴。魔術協会に所属していない、普通の魔術師だ。
それよりも、なぜキャスター、君は魔術協会のことを知っている? 生前に関わりがあったか? それとも、聖杯による知識の供給で現在の魔術世界一帯の知識を獲得したのか?」
キャスターは少し考える素振りを見せた後、口を開く。
「うん。生前に関わりがあったんだ。私、さっき新しい魔術体系を確立した、って言ったでしょ? でもその前に、魔術っていうのを覚えたのは知り合いの魔術師の家に入ったときに、たまたま魔術書を見つけたときなんだ。んで、そっから私は無断で持ち出した魔術書に入り浸った。
入り浸った結果、私は気づいたんだ。陰陽道とか、ルーン魔術とか、そういう物質的な魔術はたくさんあるけれど―――どれもこれも速射性に欠ける。もっとスマートに、速く、連続で出さなきゃ、魔術の攻防ってのは負けちゃう。だから私は考えたんだ。―――自らの作品に詠唱を散りばめて、それをつなげることによって発動する魔術を。これも、魔法みたいなものだったんだ。けど、今では科学も進んで、魔術の存在意義も無くなって、私の『ドグラ・マグラ』でさえ、同じようなことをできるようになった」
キャスターは悲しそうな、寂しそうな表情を見せ、続ける。
「例えばテキスト入力のキッチン。アレだって、結果だけ見れば書いたことを指示通りに実行する、ってことだから私の『ドグラ・マグラ』と変わらない。
……って、私は何の話してるんだっけ? ああ、そうだそうだ。閑話休題。まあ、そんな感じで『ドグラ・マグラ』を発見した私はもっと魔術の勉強をしたい、って思ったんだ。人ってさ、単純だけどすごいな、ってその時思ったよ。だって、そんな曖昧な理由からロンドンに隠れて留学に行ったんだよ? 農場は私にそっくりの友人に預けて、ロンドンの時計塔に行ってきた。そこで奇跡的に私と相性が良かった魔術―――ルーン魔術の研究が認められて。そして数年で帰ったんだ。こんな感じで、私、昔っから魔術協会とは縁があるんだよ」
キャスターの話を聞き終わった秧鳴は、キャスターに背を向ける。
「聞きたいことはまだたくさんある。……工房へ行くぞ、キャスター。私が案内しよう」
……そして、霊体化したキャスターと秧鳴の一行は工房の前へ着く。冬木の高級住宅街の中、ひっそりと佇む洋館のすぐそばの家である。
「ここが私の攻防だ」と言って、秧鳴はドアの鍵を開け、自らの工房の中へ入ろうとした、その時だった。
「あ、こんばんは!」
隣の家から、少年が出てきたのである。
その少年が出てきた家というのは―――宇宮秧鳴との縁も深い、遠坂邸であった。
そのことに驚きつつも、秧鳴は自然な笑顔を作り、挨拶を返す。
「ああ、こんばんは、坊っちゃん。こんな時間に外出かい? 危ないよ、それは。近頃物騒だからね。凛の側を離れないように―――」
「え? 母さんを知ってるんですか?!」
しまった、と秧鳴は自らの行動を悔やんだ。凛―――遠坂凛のことを口走ってしまったからである。
(まさか、聞いていたが、この子が凛の引き取ったっていう男の子か?)
そんなことを考えている間にも、その少年はグイグイと秧鳴に詰め寄ってくる。
「で、どうなんですか? 母さんを、知ってるんですか?!」
「ちょっと待とうか、坊っちゃん。今は夜中だし、近所迷惑になっちゃうから……」
「あ―――! もう! こんな夜遅くに近所迷惑じゃない、止めなさい憐―――って、あなた……」
「な―――凛!」
「秧鳴のおじさま?!」
「え? なになに、二人は知り合い?」
しまった、と秧鳴は自らの行動を再び悔やんだ。遠坂凛と遭遇してしまったからである。
「ええ、秧鳴のおじさまは、遠坂家の遠い親戚なんだけど……いかんせん、日本にはあまり帰ってこないものだから、会うのは久々なの。
改めましてこんばんは、秧鳴のおじさま。私のことは知っているわよね?」
秧鳴は、もはやこの二人に付き合うしかあるまい、と諦めた。そしてキャスターに思念を送る。
(すまない、キャスター。今は話すのは無理だから、少し大人しくしておいてくれ)
(オッケー、マスター)
「……ああ、知っているとも。遠坂凛。そして、この坊っちゃんが―――」
「そう。私の息子―――遠坂憐よ」
……全く、なんて最難だ―――と、秧鳴は嘆いた。
まあ、いつものごとく途切れるんだがな。