Fate/forgery   作:DUN.ネコノカンリニン

4 / 5
第二話:Tosaka

「―――私の息子―――遠坂憐よ」

「はい! よろしくお願いします! 秧鳴のおじさま!」

 ……全く、なんて災難だ―――と、秧鳴は嘆く。秧鳴からすれば、早く聖杯戦争に勝利するために自らのサーヴァントのことを知らなければならないのに、子どもに振り回されているのだ。苛立つのも、当然と言えるだろう。

 と、ここで疑問に思う。

「……そういえば、君はなぜこんな夜遅くに外に出たんだい? 近頃物騒なのは、この街に住んでいる君のほうが、よく知っているだろう」

「……ああ、それね……。ま、詳しくは言えないんだけど―――」

 しかし、凛の言葉が最後まで紡がれることはなかった。

「はい! 冬木教会に行ってきます!」

「な―――何してんのよあんたああああああああ!!」

 凛が、激昂する。

 それは憐が凛の逆鱗に触れるようなことをしたからではない。それは、凛の焦りから来るものである。

 その焦りように不信感を覚えた秧鳴は、更に質問を重ねる。

「冬木教会? あそこに何をする予定だったんだ? 今は真夜中だし、教会に人―――聖職者はいても、その聖職者も寝ていると思うのだが。しかもあそこの教会の聖職者って、確か二十五年前の第五次聖杯戦争で死んでいるはずでは……」

「二十五年前の第五次聖杯戦争で死んだ聖職者……あいつしかいないわね。―――言峰(ことみね)綺礼(きれい)。あいつは、確かに二十五年前に死んだわ。けれど、後任の聖職者が入ったのよ。そいつも聖堂教会の第八秘蹟会所属なんだって」

「ほう。第八秘蹟会、と来たか。第八がこの地に拠点を構えるとしたら―――目的は、聖杯戦争の監督。この一つだろう」

 全く―――、と言って秧鳴は懐からナイフの柄を取り出す。否、それはナイフの柄とは言えず。それは―――

「な、秧鳴のおじさま! それは―――黒鍵!」

「そうだ。君たち、聖杯戦争の参加者になったんだろう? これまでの文脈を辿っていけばわかる。凛、君は私がマスターになったことに気づいていたね? ならば良し。今ここで―――凛、憐。二人を殺す。全く、詰めが甘い」

「くッ―――憐! アサシン出して!」

「了解、母さん!」

 そうして、憐は令呪の刻まれた左手を高々と突き上げ―――叫ぶ。

「来て! アサシン!」

〝お呼びかな? マスター〟

 空間の中から光の粒が集まるようにして出てきたのは、白髪の男性。顔はフードで隠れており見えないが、少しはみ出た髪で判断できる。そして、この男性が―――

「ほう、アサシン……冬木に集まるアサシンは全て歴代のハサン・サッバーフという法則がある。と、言うことは真名はハサン・サッバーフか!」

 秧鳴は、顔を苦しげに歪ませる。そして、叫ぶ。

「戦闘開始だ、来い。キャスター」

〝ほいほ〜い〟

 光の粒が集まるようにして出てきたのは、少年か少女かわからない中性的な美貌を持った者であった。手にはペンを握り、脇には本を抱えている。

「や、マスター。早いねぇ! もう私の出番?」

「ああ、そうだ、蹴散らしてやれ。キャスター」

「了解!」

 そうして、キャスターが人間離れしたスピードで憐、凛、そしてアサシンに突撃する。

 アサシンも負けじと出陣する。

「行くぞ、マスター。援護を頼む」

「おっけー! 行くよ、アサシン! 覚悟しろよ、キャスターと秧鳴のおじさま!」

 瞬間、キャスターが放ったであろう魔術が、音もなく、高速で憐の真横を通り過ぎる。見れば、クスリ、とかすかな笑みを浮かべているキャスターが立っていた。

「あれ? 外れちゃった」

「問題ない。Set(命ずる)―――Encore this magic(術よ、再起動せよ)!」

 そして、秧鳴が詠唱し終わると彼の瞳が輝く。輝いたと思ったら―――そのキャスターの魔術が再演(さいげん)される。

 その再現された魔術は―――まっすぐと、憐の下へと向かい、その耳をえぐる。

「ぐあっ、ああああああ!」

「憐! あんた……よくも! ガンド!」

 凛が、ルーン魔術の一種―――ガンドを放つ。そのエネルギーは物理的破壊すら可能にする―――フィンの一撃である。しかし、キャスターも対抗して撃つ。

「ほい、ガンド」

 キャスターが放つガンドも、凛と同じくフィンの一撃である。それが返ってきたのである。凛は、回避行動を始めようとする―――が、キャスターの放ったガンドはすぐ近くまで来ていた。距離、およそ二メートル。この距離では、避けることはおろか、魔術を展開して防御することさえ叶わない。

 詰み、か―――と凛は思う。

 しかし、そこに影が入り込む。

「ふぅ、危ないところだったな、凛」

「ありがと、アサシン。助かったわ」

「礼には及ばないさ。僕は、ただマスターの母親を助けただけだ。礼を言うのなら、まずはマスターに言ってくれ。戦いが始まる前に、一瞬にして作戦を伝えたのは彼だ」

「そう……」

 凛は、憐の方を見る。痛みに悶えているその姿、見るに耐えぬはずなのに―――見入ってしまう。そして凛は憐へと近づく。

 彼女は憐に自らのペンダントを近づけ―――

「これをやるのは二人目ね」

 宝石に溜まった魔力が、一気に放出される。それはかつて―――二十五年前の聖杯戦争の初夜、凛が憐の父親である衛宮士郎に施した魔術的治療。

 それは、憐の耳をすぐに癒やした。

「うぅ……って、あれ? 痛く、ない」

「良かった! 憐、無事で!」

 凛は、憐に抱きつく。それは、彼女が初めて―――憐の母親であると、自覚した瞬間であった。義理であろうと、母親たろうと、そう決めた瞬間であった。

 しかし、その横で非情な冷たい声が聞こえる。

「親子水入らずの状況悪いが―――君たちを今から殺す。良いな?」

 そう言って、秧鳴は手に持った黒鍵を彼らの首筋に当てる。その黒鍵の刃は、月明かりを反射し、淡い青色に光っている。

 ギリッ、と凛は秧鳴を睨みつける。しかし秧鳴は首筋に当てる黒鍵に込める力を弱めようとはしない。その黒鍵によって、二人の首からはかすかに血が流れていた。

「ちょっと、ていあ〜ん!」

 突然聞こえた声に、全員が目線を向ける。声の聞こえた方角には―――アサシンと戦闘中だった、キャスターが立っていた。

「ねえ、マスター。この子達と、同盟組まない?」

「は? キャスター、君、何言ってるんだ?」

「組むって言えよ、マスター。いつでも私は、お前を殺せるんだよ? そこんとこわかって発言しようか」

 数秒の沈黙。

「……ああ、良いだろう。脅されては、私も首を縦に振るほかあるまい」

「ありがとう! マスター! それじゃあ、最初にその刃物下ろそっか」

 そう言われて、秧鳴は黒鍵をおろし、その刃をしまう。凛たちは、肩で息をし、不思議そうにキャスターを見る。

「ねえ、キャスター」

「ん? なぁに?」

「―――なんで、私達を助けたの? 今なら、敵を一人減らせたのに」

 そう問われて、キャスターは少し考える素振りを見せた後、答える。

「うん、君たちの家系が死ぬことを(いと)わない、ってのはよくわかった。そうだねぇ……その質問の答えとしては―――やっぱり、親族が争っているのを見るのは辛いから、かな」




なぜ、キャスターは遠坂親子を助けたのか―――その答えは、いつかね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。